第三十八話 新入生代表
日常回に戻り、新キャラの登場です。
よろしくお願いします。
今日は水曜日。
つまり、部活動が休みである。
まだ今週は月曜・火曜の二日しか過ぎていない。
なのに涼介は既に疲れていた。
月曜日は昼休みに九条先生に呼び出され、自身のことを詮索され、月曜日だというのに少し気分が悪くなった。だが、放課後に先輩と和也と部活動で編み物の練習をしたのは素直に楽しかったと感じたため、この日の気分は緩和された。
そして火曜日。昨日の事なのに涼介は今では遠い日のように感じている。
生徒会長に呼び出され生徒会に勧誘される。あまり目立たず穏便に過ごしたい涼介にとっては面倒な出来事であった。その出来事は九条先生により仕組まれたことであり、放課後はその先生と人生ゲームで一位二位を争った。運が良ければ勝てるというゲームの理不尽性に涼介は不愉快に思い、少しムキになってしまった。
月曜はともかく、火曜で濃すぎる出来事を処理した脳が疲弊してしまった。心身ともに鍛えている涼介でも週の初めから濃密な出来事を過ごすとさすがに疲れているのである。
そのため、涼介は「頼むから何も起こらないでくれ」と祈るばっかであった。これは午前の授業中でずっと考えていたことであった。涼介からすると、昼休みは必ず何かが起きる時間である。その昼休みさえ乗り越えれば、放課後になればすぐ帰宅できると考えていた。
そうして無表情ながらも心の中では本気で平和を願い続けていると、ついに昼休みになった。
いつもの様に近くの席にいる和也と瑠美の机と自分の机をくっつけ、そこへ青山が合流して四人で昼食を取り始める。
涼介は本当は今日だけは三人に断って一人で人気のない場所で昼食をとりたかったが、部活が始まって瑠美と青山とはコミュニケーションをとる機会が少なくなったので、一日だけであっても私情で抜け出すのは申し訳ないと感じたため、こうしていつも通り四人で昼食をとっているのである。
弁当を食べている間は誰も涼介を呼び出しには来なかった。昼休みの残り時間は半分を切っている。弁当を食べ終わり、残った休み時間は何もすることがないため、いつも四人でこのまま話しながら時間を消化し、休み時間が終わるのを待つのである。
だが、このいつもの流れは涼介には訪れなかった。
閉まっている教室の扉が「コンコン」と二回ノックされて開く。
入って来たのは三人の男だが、そのうち二人は付き添いであった。
涼介は「おいおい……」と思う。
「失礼します。矢野涼介ってのは、誰かな?」
そう口を開いて涼介と目を合わせたのは直樹と孝輔のカッコ良さを足して二で割ったようなイケメンであった。若干涼介より低いが圧倒的なイケメンオーラを放っている。こんなイケメンは女子なら知っているかもしれないが、女子だけでなく涼介を含めクラス全員知っていた。それもそのはずである。彼は、
「初めまして。今年度の新入生代表を務めさせてもらった……」
彼が名前を言う前に涼介は椅子から立ち上がる。
「藤堂 律樹だな?」
「知っててくれたんだな。そういう君は、矢野涼介ってことでいいのかな?」
「あぁ。俺に何か用か?」
周りから女子の声が溢れる。
「あれって新入生代表の藤堂君じゃない?」
「遠目から見てもカッコよかったけど、近くから見ても本当イケメン!」
「爽やかでいて男らしさが溢れてるよねぇ~!」
クラスの視線が藤堂の元へ集まる。
「用はあるんだが、場所を変えたい。ついて来てくれ。」
クラス内は女子の声で賑わっているため、まともに話し合いができないと察知した藤堂が場所を変えようと言う。涼介は拒否しようにも「ついて来てくれ」と命令され、藤堂は言い放つとすぐさま背を向けて教室を出たので、涼介は断ることができなかった。
連れてこられた所は屋上……ではない。
屋上は生徒会か、その生徒会から許可を受けた者しか行けない。
藤堂が連れてきた場所は三階の外の渡り廊下。上に天井は無く解放されているため空が見える。と同時に広大な学校を見渡すことができる。
藤堂の取り巻き二人は廊下の入り口で待機していた。藤堂にここで待つよう言われたのであろう。故にこの渡り廊下のど真ん中で、涼介は藤堂と一対一で向かい合っている。先に口を開いたのは涼介だった。
「学年一位の秀才で、入学して間もないというのにそのルックスから男女問わず絶大な人気を持つ藤堂律樹が、俺に何の用かな?」
面倒事に巻き込まれたくないという不快な気分により、涼介の口調は少しキツくなっていた。
「知ってくれていたのは嬉しいけど、少し尖った言い方だな。まぁ、人望があるという所は否定しないが。」
少し苦笑いしながら藤堂は答える。そして「ふっ」と一息つくと、真面目な顔になり、今度は藤堂が鋭くなる。
「お前に用事があると言ったのは、生徒会の件だ。なぜ断った?」
それは先ほど教室に入って来た時と全然違う雰囲気だった。鋭いというか、藤堂の顔は明らかに怒っている表情をしていた。
「それは、部活があるからだ。」
「ならば辞めろ。それで生徒会、黒羽会長に尽くせ。正直会長がお前みたいなどんくさそうな奴を勧誘した理由は分からん。俺一人で十分だというのに。というか会長直々の勧誘を断るとか一発ぶん殴ってやろうかと考えたよ。お前のような底辺の奴が黒羽会長と一生関われるわけないのに、お前はその一生のチャンスをおこがましくも断ったんだぞ?分を弁えろよな?」
藤堂はどす黒い顔をして急に早口で文句を言い放ったが、涼介は驚きはしなかった。会長が自分を勧誘した理由が分からないという言葉から、会長は自分のことを他人には言わず止めていると察した。その後の長い愚痴は聞き流しながら藤堂が会長に尋常じゃな程心酔しているのだと把握した。長い愚痴が終わって涼介が口を開く。
「断ったのは申し訳ないと感じているが、それ以外は全てお前の私情だろ?自分の感情を人に押し付けるな。」
「いいか?俺は学年一位だからという理由で生徒会に誘われた。つまり俺は学年一位でなかったら生徒会に誘われていない。だがお前は何らかの理由があって勧誘されている。わかるか?本当に必要とされているのは俺じゃなくてお前なんだ。なのにお前はっ……!」
「そうか。なら俺がいなくて良かったじゃないか。それじゃあな。」
あっさりと流して涼介は教室へ戻ろうとする。
「待て!」
「なんだ?」
「俺と勝負しろ!」
また面倒事がやって来たと涼介はため息をつく。
「来月半ばの中間試験、俺と勝負しろ!」
「勝負してどうなる?」
「俺が勝てばお前には生徒会に入ってもらう。断ろうとすれば悪評を流す。わかるよな?人望のある俺が根もないうわさを流せば広がる事くらいはな?」
入学式の藤堂とは別人であった。明らかに表と裏を使い分けている悪魔であった。
「わかった。だが俺だけリスクを負うのはフェアじゃなだろ?俺が勝てば、二度と俺に関わるな。」
「いいだろう。仮に俺が負けた場合、もうお前に声も面倒事もかけないと誓ってやろう。」
こうして二人の戦いが決まった。内容が決まると藤堂は「じゃあな」と言って待たせていた取り巻きの元へ行く。彼の背中側にその二人は待っていたので、涼介以外、誰も藤堂の裏の顔を知らない。




