第二十二話 本格的に始まる部活動
涼介が教室へ戻った時は、昼休み開始から20分近く過ぎていた。
和也たちはもう昼食をとり終わろうとしていた。
「おかえり涼介。話、結構長かったな?」
「あぁ、勉強で少し分からない所を聞いたからな。みんな、待たせてすまない。」
「いやいや、別に気にしてないわよ。涼介君も早くお弁当食べ始めようよ?」
「わかった。ありがとう、瑠美。」
涼介も椅子に座って弁当の風呂敷をほどき、昼食をとり始める。自分が戻ってきたことで三人の話を遮ってしまったかもしれないので、涼介は話題を聞く。
「三人は俺が戻るまで、何か話してたのか?」
「模試のお話してたんだけど、後悔することばかりで。矢野君が戻ってきたからこれを機に別のお話しよっか!」
「そうね。じゃあ部活の話なんてどう?今週から入部する人なんて多いんじゃない?」
先週は部活動勧誘があったため、多くの生徒は勧誘を見に行ったり、実際に部活動を見学したりしている。既に入部する決心を済ませている生徒も少数とはいえ、早々に入部して部活に参加していた。涼介や和也のように。
「確かに今週から本格的に部活を始める人っているんじゃないかな?私もサッカー部の人たちの雰囲気がよかったから、マネージャーとして参加させてもらうことにしたわ!」
「私も。空気は掴んだから今週から練習に参加するわ。」
そう言って瑠美は練習着とシューズの入ったカバンを見せる。
「じゃあ、四人揃って下校する機会は減りそうだな。二人とも部活の友人と一緒に帰ることが増えるんじゃないか?」
涼介は真顔で話す。だが青山と瑠美は少し寂しそうな顔になる。和也も心の内では少し寂しいと思うが、顔には表れていない。
部活動が始まればそれぞれの部によって活動時間は当然異なるため、下校時刻はバラバラである。仮に総下校時刻まで活動して他の部活に入っている知り合いと下校時間が被ったとしても、この新年度の時期では部員同士での親睦を早めに深めるためにそちらを優先することになるだろう。
「そうだな。俺と涼介は同じ部活だから一緒に帰るけど、ヒカリちゃん達とはそうはならなさそうだな。」
「でっ、でも!テスト週間とかなら部活動中止になるから、その時はまた四人で一緒に帰ろうよ!」
「そうね!一緒に帰ることができなくても、こうしてお昼休みは話せるんだから大丈夫だわ!」
四人は部活の人と仲良くするのはもちろん、四人でいる時間も大切にしようと決心した。
***
放課後。
授業終了のチャイムが鳴ると、クラスの多くの人は部活動用のカバンを持って教室を出る。直樹と孝輔もサッカー部に入部したため、エナメルバッグを肩にかけて涼介と和也に「また明日」と言って教室を出ていく。同時に青山もサッカー部マネージャーであるため、直樹たちと一緒に部活へ向かう。瑠美もバスケが早くしたかったからか、カバンを持つと「二人ともバイバイ!」と言って早々に退出した。
「んじゃあ涼介、俺らも部室に行くか。」
「そうだな。神野先輩が待ってる。」
二人もカバンを持って家庭科部の部室へ向かう。
家庭科部の活動日は月・火・木の三日である。今日は月曜日であるため、活用日となっている。部室へ着くと、またしても涼介たちより先に神野先輩が椅子に座って二人を待っていた。
「先輩、こんにちは。遅れてしまってすみません。」
「いいえ矢野君。私が早く着いただけだから気にしないでください。」
「神野先輩ちわっす。今日もよろしくお願いします。」
「こんにちは山本君。今日も来てくれてありがとうございます。」
神野先輩は物静かな人で、誰に対しても丁寧に振舞う。そのため、話し相手が年下であっても先輩は丁寧語で話す。先輩がそのような優しい人物であることを二人は悟っているため、先輩が丁寧語で涼介たちと話すことに二人は突っ込みを入れない。
今日の活動は前回に引き続いて編みぐるみを作るために、編み方の練習であった。涼介は何となくコツをつかんだのか、編み方が様になってきている。一方で和也は少し苦戦していた。
「すみません先輩。俺、昔っからこういうの苦手で……」
「気にしないでください山本君。私も丁寧に教えますから」
神野先輩は和也を助けに和也の隣に椅子を持って行って座る。先輩が隣に座ってレクチャーし始めると、和也の顔は少し赤くなり、先輩の手元ではなく顔を見ている様子が、涼介の目には見えた。
「和也。先輩の話ちゃんと聞いてるか?」
「あっ、あぁ!聞いてる聞いてる!」
「山本君、私の教え方が下手でしたか……?」
「いえっ、そんなこと無いっす!超絶分かりやすいっす!」
「そうでしたか、なら良かったです。引き続き私の手元を見ていてくださいね。」
先輩はレクチャーを再開し始める。和也も、涼介にもう一度突っ込まれたりされないよう、今度は集中して先輩の話を聞く。
「……と、こんな感じです。では山本君もやってみてください。」
先輩が教え終わるとさっそく和也も編み始める。先程と違って編むことができるようになっており、どんどん進んでいく。
「先輩!俺もできるようになりました!」
「本当!すごいですね、山本君!」
「先輩の教え方が良かったからっすよ!ありがとうございます!」
「そう言ってくれると嬉しいです。ではもう少し練習してみましょうか。」
そこから4,50分ほど涼介と和也は練習する。先輩もその様子を見ながら自身の作業を進める。
今日涼介と和也が練習した編み方はかぎ針編みと細編みという。先輩曰く、編みぐるみを作る上で基本となる編み方らしい。
「お二人とも、二つの編み方ができるようになりましたね。これなら、簡単な編みぐるみなら作れるようになったと思いますよ。」
「最初は偏見で難しいと思ってたんすけど、慣れてしまえば案外簡単っすね。」
「では今日はここまでにして、明日から製作に入りましょうか。お二人とも、お疲れさまでした。」
「お疲れ様です。」
「お疲れっす!」
今日の活動は終了し、道具を元の位置に片付ける。時刻は17時過ぎであった。夕焼けになりかけている。
「良ければ先輩も一緒に帰りませんか?」
和也が提案する。前回の活動日、つまり入部届を提出した日は活動終了後に神野先輩が「書類整理があるので先に下校なさってください」と言ったため、涼介達は先に帰った。今日は特に何も用事が無さそうであるため和也は誘う。しかし先輩は困った子をして断る。
「ごめんなさい山本君。図書室で待ってるお友達といつも一緒に帰るから、下校は矢野君と一緒にしてくれますか?」
「あぁ、そうっすか。全然大丈夫っす!じゃあ帰ろうぜ涼介!」
「わかった。では先輩、お先に失礼します。また明日よろしくお願いします。」
「はい。お待ちしてますね。」
二人は先に部室から出て下校する。下駄箱で靴に履き替えて和也は駐輪場から自転車を持ってくる。グラウンドや体育館からは運動部の声が聞こえてくる。
会話は学校を出て坂を下りながらする。
「和也、お前先輩から教わっている時、先輩の手元じゃなくて顔を見てただろ?」
「なっ!だってしょうがないだろ!?隣にいる先輩から良い匂いするし、てか先輩めちゃくちゃ可愛いし!」
神野先輩の容姿は以下の様である。
身長は155センチほどで少し明るい茶髪に髪形は毛先が若干巻いてあるロングで、頭にカチューシャをしている。優しく不思議な雰囲気をしているため、一般的に見ると男子からの受けは良さそうである。いわゆる、ゆるふわ系女子である。
「だからって、教えてもらっているのに集中していなのは、少し失礼だろう?」
「涼介は先輩のこと可愛いとは思わねえのか!?」
「綺麗な方だとは思うが、俺はそういう感情には疎い。」
「朴念仁かよお前……」
桜が散りゆく道を歩きながら二人は帰る。どうやら今年の桜は入学式の頃が満開だったらしい。




