肝田太 (きもた・ふとし) の幸せな人生コントロール。
この世知辛い世の中で図太く生きて欲しいという、肝田家両親の願いから名付けられた、「太」という名前。
だが彼は、名前からして太っていた方がキャラが立つと逃げの思考に入り、幼い頃から節制とは無縁の生活を送る。
やがて中高生にもなると、心無いクラスメートから名字をネタにされた「キモオタ」というあだ名を付けられてしまうものの、その現実に抗う気力も無い彼は、オタクなクラスメートのグループに自ら逃げ込み、アニメや声優に感化されていく。
大学進学の頃にはもう、「アニメ雑誌の編集者になって出世し、声優さんと仲良くなる」という人生の目標を決めた彼は、アニメ雑誌に鬼の連続投稿を続けて誌内の有名人となり、名前とルックスも絡めて築き上げたキャラの力で、見事に編集アルバイトの座をゲット。
しかし、大学時代をアニメ鑑賞と投稿に費やす余り運転免許も持たない彼に回された仕事は、非情にも首都圏取材の記録係。
徒歩と自転車を駆使するハードな仕事は、みるみる内に彼の体型をスリム化させ、幼い頃から曖昧になっていた彼の素材が、実はイケメンであった事が発覚してしまう。
その名前と現在のルックスとのギャップにより、更なる注目を浴びる様になった彼は正社員に昇格。
元来アニメ以外の趣味が無かった為、必死に働いた彼は入社10年目で業界屈指のイケメン編集長にまで上り詰めた。
声優へのインタビューでは堂々の顔出しで、人気男性声優並の注目を浴び、アニメ製作会社のビジネス的判断(笑)からアニメの脇役で声優デビューも実現。
そして遂に、取材から親しくなった女性声優との婚約が秒読みとなった。
まさに人生の絶頂期である。
だがここで、肝田は初めて自身の人生に迷いを感じる事に。
「肝田」という名字との訣別だ。
人気声優の妻(←予定)が、リアル世界・ネット世界を問わない人生の敗北者どもから、「キモオタ」等と揶揄される自分と同じ名字では心苦しい。
彼は妻(←予定)の家系への婿入りを計画するも、名字までのリア充化を人生の敗北者どもに大バッシングされ、女性声優の人気への影響を恐れたプロダクションの圧力により、婚約は破談となってしまう。
某小説投稿サイトでは「10000ポイント級の掴みを持つ、婚約破棄イベント」と絶賛されたらしい。
ちなみにその後の彼は、普通のアニメファンの女性と結婚して幸せな家庭を築き、長年勤めた編集長を降板する今年、愛娘の声優デビューが決まっている。