攻撃技すら覚えてないのにドラゴンの襲撃を受けました。
ゲーム良く知らないでたまにやるとなんですのんこれ、みたいになるネタを色々捏ねてたら出来た話なので、ゲーム好きな人にも小説好きな人にもちょっと申し訳ないんですけど、なんかそんなです。
緑がかった青空を囲むように白い雲が浮かんでいた。
ここは森の中の高台。遠くには王都も望める静かな場所で、冒険者が最初に訪れる神殿が、あった。
数時間前
「やあ少年。ここは初めてかい」
気がつくと森の中で、目の前にパンツルックの軽装な女性が立っていた。
ロングの黒髪を後ろに束ね、腰には剣を下げている。
「あ、はい」
少年、確かに少年っぽい。背はこの女性より少し低いくらいか。
手もそれほどゴツくはない。
口から出た声も、少年のそれだ。
「私の名前はヨーコ。二次職のレベル上げをしようと思ってここに来たんだけど…、ここで会ったのも何かの縁だ、私のことは師匠とでも呼んでくれたまえ」
いかにも勝気なお姉さんと言った風貌のヨーコと名乗る女性は、慣れた感じで話しかけてくる。
「はあ、よろしくお願いします」
特に確信はないが、なんとなくこの人にしたがっていれば大丈夫な気がした。
「とりあえず、周りを見渡したり、移動したりは大丈夫?」
「は?」
「まあ、お決まりのネタみたいなものだから、問題ないなら気にしなくて良いよ」
「あはは…」
どこかに入力反転ボタンとか、は特に見当たらなかった。
「とりあえず、君の職業は戦士ね」
「え、でも、武器とか使った事ないんですが」
「大丈夫、この世界の人間は、勇者とか聖女とかの特殊なギフトを持って生まれた人以外、ほとんどが戦士だから。農民とか商人とかも、基本的にはみんな元戦士」
「そう言う物ですか」
「人数の居るパーティーとかだと稀に初めから回復職とか射撃職とかも居る事があるけど、君は1人でしょ? 今すぐ変えることも出来るけど、正直お勧めは出来ないわ」
そう話しながら歩いていくと、森の中なのに何故か各種武器が揃っている。
とりあえず、小さな盾と短めの剣を手にした。
「当分先になるとは思うけど、職業には例えば、戦士のサブ職に回復職を取って回復しながら戦うとか、複数の職業を習熟して必要に応じて切り替えたり、と言う事も出来て、初期職をレベル10まで上げないと成れない職とかもあるから、まあ追々ね。私も今は戦士だけど他にもいくつか習得はしているわ」
「こう見えても私の戦士レベルは12だから単純に君の10倍以上の基本戦闘力があって、そうだなぁ、スキルで強化してるから実質30〜40倍くらいにはなるかな」
何がどう40倍か分からないけど、見た目に反してゴリラって事かな? とか言わない
森の中を歩いていくと、開けたところが一段と高くなっていて石造りの神殿が建っていた。
「スキルの習得とか新規の職業を選ぶ時はこう言った神殿や、街の大聖堂で行うの」
神殿は森の木々よりも高いところにあって、白い雲で覆われた空と遠くに王都や海が見えた。
中に入ると一番奥に質素な祭壇があって、どうやらそこで祈るようにするとスキルが取れるようだ。
「君もいくつか取れるはずだから、まあ、適当に取ってみたら。はじめは割と適当でも大丈夫だから」
「そうですね、とりあえず…」
スキルの習得が終わって、振り返ろうとした瞬間、轟音と共に神殿が崩れ落ちた。
「な、なんだ?!」
突如起こった爆発で神殿が吹き飛ばされたのだと分かるまでにそう時間は掛からなかった。
見上げると上空にあった雲は吹き飛ばされて丸く穴が開いたように晴れており、正面の森の上空にトカゲとロバを足して二で割ったような姿に、その巨体には似つかわしくない小さな蝙蝠の羽を持った巨大なモンスターが飛んでいた。
世界最強の生物、ドラゴンだった。
「まずは、初期から持っている回避スキルとかガードスキルかな」
基本的な立ち回りを教わった後、近くにいた弱い魔物相手に訓練しつつ神殿を目指していた。
「回避はただ避ける他にスキルを使った回避があって、瞬時に移動できるプラス、無敵時間が発生するの」
「無敵って、無敵ですか?」
「そう、殴られようと斬られようとダメージを受けないわ。ただし、時間は1/10秒とかだけど」
「1/10秒ってどのくらいだろ」
「どのくらいって言われても説明しにくいね。感覚で憶えてもらうしかないかな」
「ちなみに回避スキルを発動すると、基本的には前方に回避する」
「危ないじゃないですか」
「敵に突っ込んでいくのはちょっとおっかないけど、無敵時間内は文字通り無敵だし、当たり判定が無効化されるので相手をすり抜ける事が出来るわ」
「当たり判定…」
「回避スキルを発動すると同時に横や後ろに移動する事で、前方以外にも回避が出来るようになるけど、ちょっとコツがいるのよね。試しにちょっとやってみて」
「えっと…」
回避スキルを発動すると確かに前に移動する。
横に移動することを意識しながら回避スキルを発動。
「あれ?」
視界がいきなり大きく変わって一瞬自分がどこにいるのか分からなくなる。
「慣れないと移動した方向を向いてしまうのよね」
「あ、ああ、なるほど」
「慣れるとこんな感じでできるようになるわ」
反復横跳びのように真横に行ったり来たりしている。
「これを少し簡単にする方法として、ロックオンって言うのがあるんだけど…」
「ロックオン? ミサイルでも撃つんですか?」
「ミサイル? ミサイルが撃てるのは砲術系魔道士だけだけども」
「あ、いや、なんでもないです」
「ロックオンのスキルを使うと常に狙った敵の方を向くように出来るんだけど、敵が複数だったりするとむしろ戦いにくくなるから、使い分けが必要になるのよね。あと、横回避が狙った相手を中心に円を描くようになって、真横に避けるより敵との距離が近くなるから、無敵時間で確実に避けるか、後ろに回避しないと当たっちゃう事が多いわね」
ドラゴンから手前の地上に目をやると神殿の入り口が有ったであろう辺りから走り去る人影が見えた。
甲冑姿の戦士と魔法使い、それに弓兵だろうか。
「おそらく、あの冒険者たちがどこかの迷宮でドラゴンに襲われて転移魔法で逃げてきたのね」
「そうか、それでドラゴンも彼らを追ってここに…、って師匠ーっ!!」
振り向くと、血まみれになったヨーコが倒れていた。
「ほんっとついてないよ」
「大丈夫ですか? なんで師匠だけこんな事に、と言うか、なぜ俺は無事?」
「攻撃魔法の一部は1人に当たった時点でその効力を失うんだよね。建物とかはそのままぶっ壊れるけど」
「な、なるほど」
起き上がることもできない重症の割に普通に話ができるのはこの世界のお約束だろうか。
「とにかく、今の君ではドラゴンと戦うどころか爪がかすっただけで肉片になってしまうわ。逃げなさい」
「逃げ、られると思います?」
「ごめん…」
背後に圧倒的な力を感じて振り向くと、ドラゴンの視線は真っ直ぐこちらを見つめていた。
「ガードも回避と同じで、ただ剣や盾で受けるだけのガードとスキルを使ったガードがあるわ。スキルを使ったガードには無敵時間が発生するし、補助スキルを取れば盾のないところに受けた攻撃を軽減したり、全方位カバーできたりするようになるわ」
ヨーコは盾を持っていないので、剣でガードする振りをしている。
「まだ当分関係ないと思うけど、無敵時間と似たような物で、スーパーアーマーって言うのがあって、スーパーアーマーは敵の攻撃をすり抜けるけどダメージは受けるの」
「え?んん?それ、なんか意味あるんですか? ダメージ受けちゃうんじゃ意味ないんじゃ」
「例えば受けるダメージの何倍も体力が有れば、怯んだりする時間分攻撃できるし、回復役がいれば無茶できる、とかかな」
「あー、なるほど」
「痛みとかも感じないから、気がついたら瀕死、とかあって、難しいんだけどね」
「えー」
「基本的には装備や技に付与されている物だから、デフォルト装備で技もない君には使えないけど、スキル振りとかの時に考慮しておいた方が良いかな。ソロでもジャストガードで体力を回復するスキルなんかを取っておけばチャンスを広げられる」
「ジャストガード出来るんならスーパーアーマー要らないですよね」
「状況によって使い分け、かなぁ。私なんかは敵の攻撃に最適なタイミングでカウンターを入れることで全パラメーター回復とか組んでいるから、相手によってはかなり力押しでも戦えて、結構良いわよ」
やっぱりこの人はゴリラなのかな、とか言わない
神殿が吹き飛んで出来た広場の真ん中まで歩み出る。
それを見たドラゴンが目の前に降り立つ。
怒っているようには見えないが、見逃してくれるつもりも無さそうだ。
ドラゴンの前足による引っ掻き攻撃。
おそらくドラゴンの攻撃の中では一番弱い攻撃だろうが、食らったら一撃で肉片と化すのは想像に難くなかった。
シールドでガード。
当然、ぴったりタイミングを合わせてガードスキルを発動させる。
本当ならこんな質素なシールドでどうこうなるはずもないが、この世界ではジャストガードに成功すればどんな攻撃でも無効化できるのだ。
ダメージどころか衝撃もほとんど感じない。
右、左、右、ドラゴンが攻撃するたびにガードスキル発動とジャストガードを示す光が放たれる。
「凄え」
瓦礫の影に隠れていた冒険者が思わず感嘆の声を上げる。
ドラゴンは前足の攻撃に加えて回転しっぽ攻撃や魔法のブレスを織り混ぜ始めるが、こちらもガードスキルと回避スキルを巧みに使い分けて攻撃を凌ぎ続ける。
「信じられん」
「俺、感動しちゃったよ」
「でも、防戦一方じゃ圧倒的に体力で不利よ」
「そんなこと言ったって、逃げようもないだろ…」
瓦礫の影に隠れながらヨーコはただ逃げられないわけではない事を感じていた。
ジャストガードの成功を示す光が届くたびに、わずかずつではあるがダメージが回復しているのだ。
先ほど取ったスキルの一つがジャストガードのボーナスで自分を含む仲間を回復するスキルだったのだ。
「私のせいで逃げられない?…」
だんだんとドラゴンと少年の気配が近づいてくる。
「弱気になってはダメだ。彼は勝利するために戦っているはずよ」
ガードと回避を駆使してドラゴンの攻撃を凌ぎつつじわじわと後ろに下がっていく。
一か八かの賭けだった。
ドラゴンが突進しつつ噛みつき攻撃を仕掛けてくるのを回避スキルを駆使してすり抜ける。
「師匠!!」
「おーっ!」
ボロボロの身体を無理やり起こしたヨーコの剣がドラゴンの頭に突き立てられる。
刺さりはしないがカウンター成功のエフェクトとともに全身の傷が消え、全てのパラメーターが最大になる。
「クラスチェンジ、武闘家レベル99/99」
剣を捨て、拳を握るヨーコ。
「人類の終極点、打撃全振りカンスト武闘家の一撃を受けてみよ!」
やっぱり、ゴリラ、とか言わない。
左手の甲に光が宿る。
「バックハンドストライク!!」
防御結界の内側、ゼロ距離からの直接打撃。
衝撃波によって描かれた波紋と、ドラゴンの鱗が弾いた火花が飛び散る。
「おりゃーっ!!!!」
大爆発。
全力攻撃の硬直で動けないヨーコを避けるように地面がえぐれている。
「ガードが間に合ってよかった」
ドラゴンの攻撃反射による衝撃波を間に入って防いだのだった。
「君は、本当に強いな」
ヨーコの声とハモるように脳内に声が響く。
ドラゴンだった。
「また会おう」
そう言ってドラゴンは飛び立って行った。
「見逃して、貰った?」
「そう、みたい、ね…」
時間にして十数分の戦いだったはずだが、何十時間も戦い続けたような疲労を感じていた。
「えっと、チュートリアルの続きはまた明日にしませんか」
「そうね。そうしましょう」
これから冒険の生活が始まるはずだったが、なんだかもう全て終わった気分だった。
まだ、攻撃技も覚えていないのに。
終わり
これ異世界転生とかになるんですかね。自分でもよくわかんねーです。