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第9話 拳法使いは魔王と遭遇する

 渓谷を落下する私は、地面に衝撃を逃がしながら着地した。

 轟音が鳴り響くも、足腰に負担はかかっていない。

 仕事柄、高所から無傷での飛び降りは必須技能であった。


「ほっ、ほっ、ほっと」


 リアは僅かな凹凸を足場に降りてきた。

 それなりの身のこなしだ。

 やはり騎士としての鍛練が活きているようであった。


 着地した彼女は、眼前の光景に呆然とする。


「こ、これは……」


 リアが驚くのも無理はない。

 渓谷は腐毒に塗れていた。

 あちこちが変色し、異臭を放っている。

 草木は枯れ果てており、地面はぬかるみが多い。

 油断すると、滑って転ぶことになりそうだった。


(酷い有様だな)


 これが魔王の及ぼす影響らしい。

 馬鹿にならない脅威である。

 王国が封印に踏み切るのも納得だった。

 このような力を持つ生物を放置しておけないだろう。


 おまけに呼吸が少し苦しい。

 手足に悪寒と痺れを感じる。

 おそらくは毒の悪影響だろう。


 やはり結界内は、外よりも毒素が強烈だった。

 この場にいるだけで肉体を害される。

 数日暮らすだけで深刻な健康被害を受けそうだ。


 私は呼吸法を切り替えて、即座に症状を軽減させた。

 昔、どこかで学んだ気功術の応用である。

 これだけで、数十種の劇毒にも耐えられた実績があった。

 今回も役に立ちそうだ。


 隣に立つリアは何かを呟いていた。

 それが終わると、彼女の手の中に光が生まれる。

 浮遊した光は二つに分裂し、私達それぞれに接触して浸透していった。

 その途端、毒の症状がさらに改善される。


 不思議に思っていると、すかさずリアが説明する。


「対毒の魔術を施した。気休めだが楽になるはずだ」


「助かる」


 リア自身の才覚も要因だろうが、魔術の汎用性は非常に高い。

 使いこなすことで、かなり便利そうだった。

 ただし、魔術の使用には多少なりとも消耗があると聞いている。

 連発すれば行動に支障が出るらしい。

 リアの体力が持つうちに、魔王を倒してしまいたい。


 私達は渓谷内を迷いなく進んでいく。

 結界内に踏み込んだ時点で、魔王らしき気配を感知できていた。

 そこまで遠くないため、このまま直行することにしたのだ。


(それにしても、これが魔力か)


 自分の両手を確認するも、何も見えない。

 しかし、仄かな力に覆われているのが知覚できた。

 リアの施した対毒の魔術である。

 その燃料となっている魔力を感じ取っているのだ。

 こうして身に受けると、魔力をはっきりと感じられるようになった。


「……ふむ」


 私はふと面白い試みを閃く。

 おそらく成功するだろうが、ここで使うべきではない。

 いざという場面で発揮するつもりだ。


 その時、強い殺気が高速接近してくることに気付いた。

 私は足を止めて進路を見やる。

 渓谷の壁を擦りながら接近してくるのは、羽の生えた巨大な豚だった。

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