第6話 拳法使いは女騎士の望みを受ける
私はリアの姿を眩しく感じた。
強さに対する憧れと向上心に好感が持てた。
私の若さは仮初だが、彼女のそれは本物だろう。
懇願するリアの決意は、決して偽りではなかった。
私との戦いで何かを掴み、心底から感動しているようだった。
私は少なからず喜びを覚えるも、それを隠して尋ねる。
「国に忠誠を誓う騎士なのだろう。そちらの仕事はどうするのだ?」
「家柄と騎士の身分は捨てた。小官には優れた兄達がいるから、特に問題ないだろう」
何事もないかのようにリアは答える。
随分と簡単に言ってのけたが、明らかに問題がある。
聡明そうに見えて、実はかなり大雑把な性格なのかもしれない。
私はリアから詳しい事情を聞く。
対決の後、彼女は国王に報告へ行ったらしい。
そこで激しい叱責を受けた挙句、重い処分を受けることになったのだという。
リアはこれを拒んで逃走し、全速力で私を追いかけてきたそうだ。
聞けば聞くほど大丈夫なのかと心配になる。
口上で聞いた素性から察するに、リアは名家の出身だ。
国から課された処分を無視して逃走すれば、重罪になるのではないだろうか。
色々と問い詰めたいものの、本人はあまり深く考えていない様子だった。
質問したところで、求める答えは返ってこない気がした。
「別に私利私欲だけで同行するわけではない。小官は、貴殿の実力に希望を見い出した。貴殿ならば、本当に魔王を打ち倒せると確信したのだ! その助力ができるのなら、これほどの正義はないだろう。すべてを投げ打つだけの価値はある」
リアは力強く語る。
彼女は大真面目だった。
政治的な理由を抜きに、魔王の打倒を望んでいる。
その上で私の力が重要だと判断したのだ。
彼女は人並外れた才覚を有していた。
私の実力を朧げながらも感じ取ったのだろう。
そしてリアの目を見て理解する。
彼女は正義を志していた。
正しいことをしたいという想いに溢れている。
リアは国の方針に疑念を覚えて、大人しく捕まらないという選択を取ったのだ。
「自分で言うのも何だが、小官は役に立つはずだ。異界から来た貴殿と比べれば、この世界に詳しく道案内もできる。騎士長として得ていた極秘情報も持っている」
リアの主張は至極真っ当である。
この世界の協力者がいると心強いのは確かだった。
諸々の手間が省ける上、リアの場合は戦力的な面でも期待ができる。
私一人で解決できない状況はあまりないが、二人なら行動の幅も広がるだろう。
おそらく国に追われているであろうリアを弟子にするのは危険であるものの、そもそも私自身が指名手配されているはずだ。
互いに追われる身であるのだから、もはや関係ない。
彼女の協力は、こちらに十分すぎる得があった。
「無理に付いていくとは言わない。しかし、どうか一考してもらえないだろうか……」
リアは改めて私に頼む。
凛々しい顔立ちは、不安そうにしていた。
まるで親とはぐれた子犬である。
私は思案するも、すぐに頷いた。
「いいだろう。弟子入りを許可する」
「おお……!」
リアは目を輝かせながら打ち震える。
少し大げさに見えるが、素の反応なのだろう。
彼女は嬉々として腰の剣を外すと、鞘から抜いて私に見せてきた。
「今まで良質な剣ばかりを与えられてきたが、貴殿の助言を参考に粗末なものを用意した。これも修行の一環になるだろうか?」
「悪くないな」
「そうか……っ! では尚更に精進せねばならないな!」
リアは張り切りながら言う。
今にも素振りを始めそうな彼女を宥めつつ、私はふと考える。
(まさか、私が誰かの師になる日が訪れるとはな)
実を言うと初めての経験だった。
昔、弟子を志願する者はいた。
武術や暗殺の指南を依頼されることもあったが、いずれも私は避けてきた。
今になって振り返ると、精神的な余裕がなかったのだ。
現在、私は新たな世界で人生をやり直している。
使命は背負っているが、そればかりに気を取られるのではなく、別のことにも挑戦すべきではないか。
誰かの師匠になるのも一興だ。
これも何かの縁である。
私の武術を継承するのも、また一つの道だろう。