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第51話 拳法使いは荒野に降り立つ

 裂け目の先には闇が広がっていた。

 視界がざらついて、酷い耳鳴りがする。

 奇妙な浮遊感は、まるで無重力の空間にいるかのようだった。

 文句の一つでも言いたくなった頃、急にそれらの感覚が終わる。


 なんとか着地したのは、乾いた荒野だった。

 目の前には魔族達が並んでいる。

 見える範囲でも百は下るまい。

 上空から確かめれば、その数倍に迫るだろう。


 増援の魔王軍である。

 ここで待機して、レノルドから呼ばれるのを待っていたのだ。

 展開としては予想していたとは言え、なかなかに衝撃的な光景であった。


 しかし、魔族達の反応は私以上だった。

 突然の襲来に気付くと、彼らは大声を上げて襲いかかってくる。

 こちらの正体には気付いていないようだが、敵ということは認識したのだろう。

 その切り替えの速さは評価に値する。


(もっとも、手遅れだが)


 私は最寄りの数体に拳の連打を見舞った。

 破裂音を伴って魔族が爆散する。

 魔術による防御を試みる者もいたが関係なかった。

 突き通すように打撃を加えれば等しく仕留められる。


 続けざまの震脚が大地が割り、深々と亀裂を作った。

 亀裂は木の根のように大地を這って、谷のような溝を生み出す。

 前方一帯に覆う溝に、足を取られた魔族はあえなく落下していった。

 反響する悲鳴はすぐに遠くなって途切れる。


 素早く動ける者や飛行能力を持つ者は、慌てて溝から逃れた。

 彼らは地上に降りず、私の間合いに入って来ない。

 無論、それらは想定した反応である。

 魔族は何度も殺害し、どういった行動を取るのかは予測できていた。

 賢明と言うより、無難な動きと評すべきだろうか。


 私は溝を跳び越えながら、地上に残る者へと襲いかかる。

 そして、間合いに収めた魔族から次々と抹殺する。

 些細な反撃をものともせず、攻撃速度と規模を拡大させていった。


(ああ、素晴らしい。これこそが戦いだ)


 鮮血を浴びる私は、衝動を解放していた。

 ただひたすらに暴力を振るい、魔族を蹂躙する。

 迫る魔族は、全力で私を殺そうとする。

 その感覚がどうにも堪らない。

 心地よい気分に陥りながら、その命を刈り取っていく。


 肉塊を踏み進んでいると、頭上で魔力が膨れ上がった。

 見れば空中に逃げた者が詠唱を行っている。

 間もなく魔術による爆撃が始まった。


 豪雨のように降り注ぐ多種多様な術に対し、私が目視による回避を選ぶ。

 どうしても避けられないものは、魔族を掴んで盾にした。

 肉の盾を破壊されながらも、私は上空の魔族の数と位置を把握する。


 そして時折、頭上の彼らに死体を蹴り飛ばしてぶつけた。

 落下してきたところに拳か蹴りを浴びせて屠る。


 魔族達は一向に逃げようとしない。

 こちらがたった一人ということもあり、勝利を信じて疑わないのだろう。

 仲間を犠牲にしてでも殺すつもりらしい。


(――上等だ)


 決心した私は動きを倍速させる。

 こちらとしても、逃亡されないのはありがたい。

 追う手間が省けるからだ。


 どこもかしこも獲物だらけで、まったく飽きることがなかった。

 これほど素晴らしい状況も珍しい。

 殺意を全開にした私は、酔い痴れたように殺戮を広げていく。

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― 新着の感想 ―
[一言] 取り残されたリアとアンリが気になる 怪我は治って無いし、消耗もしてるだろうし。 そもそもあの吸血鬼が向こうに残ってるし。。。
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