第44話 拳法使いは脅威を察知する
その後も鍛練続きの濃密な日々を続ける。
やがて帝国領土の国境付近にまでやってきた。
そこから小国を挟んで荒野へと至るそうだ。
道のりを考えると、ほぼ最短距離で進行できている。
帝国の地理に詳しいアンリがいたおかげだろう。
彼女の案内で、地図に載っていない裏道を採用することも多かった。
こういった知識は暗殺業で重宝するらしい。
私も一応は同業者のはずだが、細かいことは考えてこなかった。
アンリのやり方は効率的で学ぶ点ばかりである。
途中、リアから本当に暗殺者だったのかと疑われてしまったが、それも仕方のない話だろう。
そして現在。
私達は、乾燥した地帯を月明かりを頼りに進んでいる。
今夜のうちに国境の関所に到着し、そこを抜けたところで野宿をする予定だった。
この辺りには村や街が無い。
一気に進むつもりである。
前情報によると、小国は全体的に治安が悪いらしい。
絶えず魔王軍と戦っている影響か、どこもかしこも殺伐としているそうだ。
散発的ながら反乱もあるという。
巻き込まれると面倒なので、荒野まで迅速に向かいたいと思う。
魔族関連なら解決も視野に入るが、人間同士の争いを止める義理まではない。
「む」
今後について考えて歩く私は、ふと足を止めた。
風に乗って血の臭いが漂ってきたのだ。
ちょうど進行方向――遥か先にある関所からであった。
私は他の二人を顔を見合わせる。
彼女達も不審そうな表情をしていた。
血の臭いに気付いたようだ。
「ウェイロン殿……」
「ああ、分かっている」
私はリアに頷いて応じる。
今度はアンリが前に進み出て尋ねてきた。
「己が、偵察します、か?」
「ここは三人で向かった方がいい。何か嫌な予感がする」
迂回してもいいが、調査した方がいい気がする。
放っておくと、碌なことにならないと思ったのだ。
もし脅威が潜んでいるのなら、予め知っておいた方がいい。
私達は慎重に進み、時間をかけて関所に到着する。
そこには凄惨な光景が待っていた。
石造りの関所は半壊し、あちこちが血みどろだった。
無数の死体が転がっている。
鎧を着ているので兵士だろう。
いずれも頭部や胴体を潰されていた。
生存者はおらず、皆殺しである。
死体を調べていたリアは顔を顰めて述べる。
「何者かの襲撃を受けたようだ」
「ふむ……」
私は関所を見渡す。
惨たらしい有様だが、魔物の仕業ではない。
死体の損壊は武器によるものだ。
おそらくは巨大な鈍器で叩き潰されたのだ。
共通した傷跡ばかりなので、揃いの武器を持った集団が関所を襲撃したと考えるのが妥当だろう。
関所の戦力はたかが知れている。
ある程度の数を集めれば、どうとでもなるはずだ。
しかし長年の直感は、別の推測を立てていた。
(一人の強者が、同じ武器で殺戮したのではないか?)
その時、瓦礫の陰で微かな殺気が滲む。
振り向くと同時に、大きな影が音もなく飛びかかってきた。