表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/55

第42話 拳法使いは要望を受け入れる

 ダークエルフの暗殺者アンリを加えて、私達は帝国領土を移動する。

 同行者が増えたが、何か劇的な変化があるわけでもない。

 ひたすらに鍛練と移動の繰り返しであった。


 たまに村や街に寄って、生活用品を購入する。

 たまに盗賊を捕まえて懸賞金を得ることで、三人分の生活費を賄っていた。

 犯罪者はどこにでもいる。

 金銭面で困窮することはなかった。


 アンリは大人しく、基本的に無言で追従する。

 彼女から発言することは滅多にない。

 気配を殺して、私達の行動を傍観することが多かった。


 アンリはたまに本当に姿を消すことがある。

 それについて尋ねたところ、皇帝に経過報告を行っているそうだ。

 国の最高責任者の直属で動いているので、実質的に使者のような立ち位置だろうか。

 アンリは相当に信頼されているようだ。


 逆算的に考えると、私はそれだけの人材を使うほどに注目されている。

 皇帝からしても、決して無視できない人物なのだ。


 冷戦状態である王国に大打撃を与えたこともあり、可能ならば味方に引き込みたいのだろう。

 ただし、私の気を損ねないように慎重である。

 アンリを派遣することで、魔王討伐への助力をアピールしていた。


 皇帝は、よほど私の力が欲しいようだ。

 よくよく考えると、王国も隣国を意識して勇者召喚を行ったのかもしれない。

 国王も魔王に対抗できる戦力を求めていた。

 帝国を切り崩す手札を探していたに違いない。

 やはり異世界でもそういった面は変わらないのであった。


 そうして移動を続けること数十日。

 先頭を進む私の後ろで、珍しくリアとアンリが話し合っていた。


「そういうことだ。分かったな?」


「はい。理解、しました」


 リアが念入りに確認し、アンリがそれに頷く。

 数度のやり取りを交わした末、何らかの取り決めていた。

 聞き流していた私は内容を知らない。


 気になった私は、リアに尋ねる。


「何を話していたんだ」


「小官が貴殿の一番弟子ということだ。万が一にも抜け駆けされては困るからなっ!」


 リアは胸を張って答える。

 アンリはその様をぼんやりと見つめていた。


 温度差のある二人を交互に見つつ、私は指摘する。


「アンリは任務の都合で同行しているだけだ。何も心配することはないだろう」


「それがそうとも限らないのだ。アンリ。先ほどの言葉を繰り返してくれ」


 リアが促すと、アンリは表情を変えずに口を開いた。


「リ・ウェイロンには、憧れを抱いて、います。彼の強さは、にんむで役立ちそう、です」


「ほら! こんな発言があったのだ! 油断できないだろう」


 リアは鬼の首でも取ったかのように言う。

 そこまで気にすることではないと思うが、彼女からすると看過できない発言なのだろう。


 私はアンリに問いかける。


「私の武術に関心があるのか」


「魔族や魔王を、素手で倒したと、聞きました。気になり、ます」


 アンリは途切れ途切れになりながら答える。

 私は、彼女の瞳に好奇心の色を認めた。


「武術を会得したいのなら、可能な範囲で伝授しよう」


「ウェイロン殿っ!?」


「同行者が強くなれば、魔王討伐の成功率を上げられる。断る理由はない」


 驚愕するリアに説明をする。


 アンリは優れた能力の持ち主だ。

 最初に戦った際の身のこなしを見るに、武術を学ぶのに適している。


 リアの訓練相手にもなるだろう。

 アンリのスピードは良い鍛練になり得る。

 互いの実力向上になるはずだ。


 何より強さを求める姿勢に好感が持てた。

 リアとはまた異なる輝きを秘めている。


 私はアンリに告げる。


「道中、稽古を実施する。遠慮なく参加してくれ」


「ありがとう、ございます」


 アンリは頭を下げる。

 一見するとさしたる変化は見えない。

 しかし彼女の顔は、確かな喜びを覗かせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 弟子が増えた
[良い点] ウェイロン殿、弟子が増えたよ! やったね! これからは、リアとアンリの間で、良い意味での張り合いが有ると良いな。 [一言] 今話もありがとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ