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第40話 拳法使いは暗殺者と戦う

 黒衣の女は、這うような姿勢から短剣の刺突を繰り出す。

 常人から逸脱した速度だった。

 角度も鋭い上、こちらの心臓を狙っている。


 私は迫る刃先を指で挟んで止めた。

 それ以上は刺突が進まないように力を込める。

 さらに短剣を引き込もうとした。

 しかし黒衣の女は、それより先に短剣を離すと、宙返りしながら退避する。


(いい反応だ)


 感心する間にも、黒衣の女が右の袖を揺らす。

 そこから澄んだ金属音が鳴った。

 勢いよく飛び出したのは銀の鎖だ。

 音の正体はこれだったらしい。


 鎖の先端が、私を目がけて突き進んでくる。

 躱しながら手刀を叩き込んで鎖を切断した。

 千切れた先端が地面を転がる。

 そこから動く気配はない。

 制御できるのは、繋がっている分だけのようだ。

 決め付けは良くないが、おそらく間違っていないだろう。


 黒衣の女の袖から、ひと繋がりで鎖が伸びていく。

 あれだけの鎖をどこに隠し持っているのか。

 魔力の動きが感じられるので、何らかの魔術を用いているのかもしれない。


 女は袖から伸びる鎖を中途で掴むと、鞭のように振るってきた。

 鎖の先端が地面を叩き、反動で加速しながら跳ね上がる。


 私は迫る鎖を左右の手で弾いた。

 痺れるような衝撃。

 相当な威力が込められている。

 常人なら肉が弾け飛ぶところだ。


 鎖は慣性を無視してうねり、生物のように打撃を連続させてくる。

 こちらの反撃を遮ることを意識した挙動だった。

 隙の少ない見事な操縦である。


「はぁっ!」


 その時、リアが横合いから黒衣の女へと仕掛けた。

 ところが彼女の斬撃は空を切る。


 黒衣の女が最低限の動きで回避したのだ。

 剣の軌道を完全に見切っていた。

 リアは果敢に攻め立てるも、黒衣の女は軽やかに躱し続ける。

 その間も鎖が私に連打を浴びせてくる。


(このままでは埒が明かないな)


 戦況から判断した私は、迫る鎖を掴む。

 何度も動きを目の当たりにすれば、これくらいは造作もない。

 そのまま腕に巻き付けて引き寄せていく。


「……っ」


 黒衣の女が驚愕の色を滲ませる。

 直後、彼女の袖から鎖が抜け出た。

 装着していたものを分離したのだろう。


 それを見た私は腕を振る。

 巻き付けた鎖が連動して一閃された。

 澄んだ金属音を鳴らして、黒衣の女に襲いかかる。


 黒衣の女は後方へ跳んだ。

 仰け反って鎖を躱しつつ、ナイフを投げてリアを牽制する。

 そのまま鎖の範囲外へと逃れた。


 着地した黒衣の女は、こちらを注視しながら佇む。

 その時、彼女の頭部を覆う頭巾が破れた。

 鎖が掠めたことで、小さく裂けていたのだろう。

 裂け目から頭巾がほどけて落ちる。


「あっ!」


 リアが思わずといった調子で声を上げた。


 頭巾の下から露わとなったのは、水色の頭髪。

 続いて褐色の肌と、細長い耳が覗く。


(あの容姿は確か……)


 私はリアから教わっていた知識を思い出す。

 事前に聞いていた種族の外見的特徴と合致しているのだ。

 改めて風貌を目にした私は、確信する。


 黒衣の女は、ダークエルフと呼ばれる亜人であった。

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