表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/55

第38話 拳法使いは魔族を殲滅する

 正面に立つ熊のような魔族は、天井にぶつけながら棍棒を掲げた。

 黒い毛に覆われた剛腕が、空気を歪ませながら打撃を繰り出す。


 まともに受ければ叩き潰されそうなそれを、私は片手の突きで迎えた。

 衝突の瞬間、手首や指先の動きで力の流れを掌握する。

 棍棒の破壊力を、私の拳に上乗せして魔族へと返した。


 それほど力を込めていない突きは棍棒を粉砕し、吸い込まれるように魔族の胴体を捉える。

 抉り込むように衝撃を深部に伝えると、破裂音が鳴り響いた。


「ァガッ……ッ!?」


 魔族の背中が弾けて、肉と骨の破片が四散する。

 それらが背後の壁を汚した。

 魔族は息の詰まったような声を洩らすと、白目を剥いて崩れ落ちる。


 それを見届けた私は室内を見回す。

 半壊した家屋内には、数多の屍が散乱していた。

 いずれも私が手にかけたものである。


 天井から怒声が聞こえてきた。

 すぐに重い物体が落ちる音がして、似たような音が連続する。

 上階を任せたリアが奮闘しているのだろう。


(助けは……必要なさそうだな)


 近頃の私達は、アブロの紙片を頼りに街の魔族を殺戮していた。

 魔族達は各所に潜伏している。

 浮浪者に紛れていたり、犯罪組織の匿われていたり、兵士に扮する者もいた。

 私達は彼らを次々と殺害した。


 当然、街の勢力図に乱れが生じる。

 魔族の助力を受ける人々は、私達の排除を画策した。

 同胞を殺された魔族も報復に打って出た。


 私達はそれらを片っ端からねじ伏せていった。

 暴力をより強い暴力で叩き潰したのだ。

 これほど分かりやすい道理はない。


 アブロ達との死闘から十数日。

 それらもようやく沈静化しつつあった。

 逆に各勢力から勧誘されるほどだ。

 私達とは敵対すべきではないと認識したらしい。


 そういった勧誘については、いずれも断っていた。

 私達はこの地に長居しない。

 魔族を殲滅した段階で出て行くつもりなのだ。

 特定の勢力と手を結ぶ利点はなかった。


 紙片に記載された魔族も、この建物にいた者が最後だった。

 先ほど倒した棍棒使いである。

 それなりの実力者であったが、アブロには遠く及ばない。

 彼は魔王軍でも上位の強さなのだろう。


 当時の激闘を振り返っていると、背後で僅かな殺気が発せられた。

 私は壁と同化していた魔術師を掴んで引き倒し、その首をへし折る。

 目視できなくとも、気配さえ分かれば始末は容易い。

 奇襲を狙っていたようだが、隠密能力が不足していた。


 当初は生け捕りにして兵士に突き出していたが、今では皆殺しを徹底している。

 捕縛された者が碌な扱いを受けない上、兵士への賄賂で簡単に抜け出してしまうのだ。

 そうして私達への復讐を目論む。

 二度手間になるため、確実に殺すように意識していた。

 ヴィーナのように自爆してくるような輩がいないとも限らない。

 残酷な気もするが、私もリアも殺人を躊躇う性質ではなかった。


 上の階に赴くと、血染めの部屋が続いていた。

 あちこちに斬殺された死体が残されている。

 リアは奥の一室に立っていた。

 彼女は私に気付くと、魔術の全身鎧を外して駆け寄ってくる。


「申し訳ない。少し手間取ってしまった」


「いや、十分に速かった。技が順調に磨かれている」


「そ、そうか……」


 リアは照れ笑いを覗かせる。

 技量の向上については、自覚している部分もあるのだろう。

 師である私からの言葉が嬉しいようだ。


 急成長するリアに、私も負けていられなかった。

 彼女の憧れる存在として、常に先を進まねばならない。

 まだ見ぬ強さを手にするのだ。


 ほどなくして私達は建物を出る。

 遠巻きに眺める人々をよそに移動を始めた。

 私達の名は知れ渡っており、接触してくる者はいない。


 これで街の魔族は皆殺しにできた。

 次の標的は荒野の魔王である。

 陰謀の失敗が露呈した以上、向こうは何らかの行動に出るはずだ。

 次の策を打たれる前に、元凶を倒そうと思う。


 目前に迫る強敵を意識して、私は胸を高鳴らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ