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第37話 拳法使いは魔族を討つ

 ヴィーナが宙を回転する。

 緩やかな放物線を描く彼女は、鉄柵を突き破って路上を転がっていった。

 最終的には、向かい側の家屋に激突して止まる。


 家屋が倒壊して土煙が舞い上がった。

 ヴィーナは建材に埋もれるように倒れていた。

 胴体に大穴が開いて、四肢や頭部が千切れかけている。


 彼女の身体はしぼんでいた。

 先ほどまでの膨張が止まっている。

 私が打撃と同時に魔力を吸収したことで自爆できなくなったらしい。


 ヴィーナは憎々しげに私を睨んでいた。

 やがて、その瞳から光が失われる。

 力を失って首を垂らすと、それきり動くことはなかった。

 死霊魔術の効果が切れたのだろう。


 魔術師ヴィーナは死んだ。

 決して油断ならない恐ろしい相手だった。

 槍使いアブロとは対照的で、凄まじい執念の持ち主であった。


 彼女は手段を選ばず、私達の始末を敢行した。

 自爆すら躊躇わないその精神力は、魔王への忠誠心が根源だった。

 人間であるヴィーナが、なぜ魔王軍に加担するかは知らない。

 そこには様々な事情があったのだろう。


 ヴィーナは、私のように使命を胸に挑んできたのだ。

 揺るぎなき信念に敬意を表したいと思う。


 私は息を吐いて、全身に纏う腐毒の魔力を再び体内へ戻した。

 ほどなくして皮膚の腐蝕が停止し、徐々に治癒が始まった。

 腐毒の魔力は肉体を蝕むが、抑え込むと効力も消えるようだ。


 今回はこの魔力のおかげで助かった。

 私の武術と組み合わせることで、並の魔術を凌駕する威力を発揮したのだ。

 結果的にヴィーナの触手を断ち切ることができた。


 その際に少しだけ消費したものの、体内にはまだ多量の魔力が残されている。

 腐毒の効果は貴重だ。

 ここぞという時の切り札にしていきたい。


 ヴィーナから自爆エネルギーを内包した魔力も手に入れたが、どちらも扱いが難しい。

 今後も使いどころを考えながら、有効活用していこうと思う。


(いずれは魔力に頼らずにやっていきたいものだ)


 私の武術はまだ途上にある。

 高みへと昇る余地が残されていた。

 こうして若返った以上、さらなる境地を目指さねばなるまい。


 新たな目標を胸に抱きつつ、私はリアに声をかける。


「大丈夫か」


「ああ、ウェイロン殿のおかげで助かった……」


 リアは安堵した顔で述べる。

 彼女も大きな傷は負っていない。

 かなりの激戦だったが、自らを成長させて生き抜いた。

 その姿勢は見習うべきだろう。


 私はふと屋外に目を向けた。

 豪邸の敷地外に人だかりができている。

 彼らはこちらを指差して何事かを喚いていた。


 それを認めた私はリアに指示をする。


「外が騒がしくなってきた。離脱するぞ」


「了解した」


 私達は豪邸を出て鉄柵を跳び越える。

 騒然とする人々を尻目に、街の路地へと身を隠した。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ上に行くのか すごいな
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