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第35話 拳法使いは弟子を評する

 私は室内に降り立つと、正直な感想をリアに告げた。


「見事な剣捌きだった。鍛練の成果だな」


「そう言われると照れるな……」


 鎧を解除したリアは、微笑みながら頬を掻く。

 多少疲れているようだが、まだ余力が窺えた。


 彼女は先読み能力を使っていなかった。

 あの魔眼があれば、さらに有利な戦いができたはずだが、それを選ばなかったのだ。

 ヴィーナとの死闘を鍛練と認識し、己の地力を磨くことに専念したのだろう。


 なんとも危険な判断であるが、結果的にリアは乗り越えた。

 称賛する他ないだろう。


 加えて面白い発見があった。

 リアは、随所で私の動きを模倣していたのである。

 使える立ち回りを、率先して自らの剣術に組み込んでいた。


 先読みの眼を持つ影響なのか、洞察力も非常に高い。

 日々の鍛練で私の動きを視て習得していたらしい。

 素晴らしい逸材であった。


 闘気を霧散させたリアは、私の手の甲の傷を見やる。


「ウェイロン殿も、アブロを倒したのか?」


「ああ、倒した。強敵だった」


 私は頷く。

 あれだけの槍使いは見たことがない。

 今後、会えるかも分からなかった。

 それほどまでの使い手であった。


 リアは難しい表情で腕組みをする。

 何かを考え込む彼女は唸る。


「貴殿がそう評するとは……小官では勝てなかったかもしれないな」


「否定はできない」


 アブロは卓越した技術と、常軌を逸した動体視力による攻防を得意としていた。

 それはリアの戦法と被っている。

 両者が同じ長所を持つとなれば、自ずと実力差が物を言う。

 リアが勝利を掴み取るのは困難であろう。

 同じ理由で、アブロは私に敗北したのだから。


 私がリアにヴィーナを任せたのは、相性的な判断であった。

 魔術師は様々な能力が強みだが、全体的に動きが悪い。

 術の鍛練に重きを置いているためなのか、身体能力が低めなのだ。

 そこをリアなら突けると考えたのだ。


「やはり小官では敵わないか! ならば、さらに強くなるしかないな!」


 リアは快活に笑う。

 とても前向きな考え方だった。

 この飽くなき精神が、彼女自身をさらなる高みへ導く。

 見ているこちらまで頑張ろうと気になれた。


 その時、私達の近くに殺気が生じた。

 視線をずらすと、半透明の触手が蠢いている。

 数十本ものそれらが、雪崩れ込むように殺到しつつあった。


(何だ)


 私は瞬時に姿勢を変えて迎撃する。

 しかし、打ち込んだ拳や足は触手を素通りした。

 まるで手応えが無かった。


(非物質性の魔術か……)


 私は回避しようと飛び退く。

 しかし、すり抜ける触手には敵わず、最終的には四肢を囚われてしまった。


 リアも鞘から剣を抜く姿勢で拘束されている。

 彼女は顔を赤くして踏ん張るも、触手は微塵も緩む気配がない。


「ふむ……」


 身動きの取れない私は、触手を視線で辿って発生源を探す。

 それはすぐに見つかった。

 無数の触手は、半壊した壁にもたれるヴィーナの亡骸から生えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 槍使いも致命傷受けてからなかなか死ななかったし、 魔法使いのほうもなかなか死なないか
[一言] 油断したねぇ
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