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第34話 拳法使いは弟子の成長を実感する

 私はアブロの遺体から離れる。

 彼から譲られた紙片を一瞥し、その内容を記憶してから懐に収めた。


 アブロの誠意は無駄にはしない。

 彼は、種族や立場の垣根を越えて私に助力した。

 死合いの結果を重んじたのである。


 私は、とても嬉しかった。

 これほど清々しいことは滅多にない。


 受け取った紙片を活用し、潜伏する魔族は皆殺しにする。

 そして二国間での戦争を阻止するのだ。

 この街の安全を確認できた段階で、次は荒野の魔王に挑むつもりであった。


(まずはこの場を切り抜けるのが先決だが……)


 私は無事に勝利したものの、リアが少し心配だ。

 おそらく勝てると思われるが、魔術師は何をするか分からない部分がある。

 万が一の際は、介入することも視野に入れた方がいい。


 私は豪邸の壁を蹴り上がって屋上へと戻った。

 開いた穴から室内を覗き込む。


 そこでは激戦が繰り広げられていた。

 リアとヴィーナは互いに消耗し、片時も休むことなく攻防を展開している。

 実力はほぼ互角だろう。


「ハァッ!」


 リアが一直線に突進する。

 その進路上に魔力の歪みが生じた。


 見ればヴィーナが手をかざしている。

 何らかの術を使ったらしい。


 リアは跳ねるようにして躱すと、勢いを落とさずに斬りかかる。

 ヴィーナは目の前に障壁を生成して斬撃を食い止めた。

 派手に削られながらも、障壁はなんとか維持されている。

 相当な耐久性があるようだった。


 しかし、リアもそこでは終わらない。

 彼女は流れるように軸足を作ると、足腰の回転を乗せて蹴りを放った。

 魔力を込められた一撃が、障壁を粉砕する。


「……ッ」


 ヴィーナの顔に驚愕が走る。

 彼女は術を使おうとするも、そこリアの剣が一閃された。


 宙を舞うのは、ヴィーナの片手だ。

 照明を受けて輝く指輪。

 手首から先が切断されたのであった。


 ヴィーナは不思議そうに首を傾げる。

 断面から鮮血が噴き出していた。

 リアの剣がさらに往復し、もう一方の手も切り落とされる。


 我に返ったヴィーナの唇が高速で動く。

 彼女の胸元――ローブの下で何かが発光していた。

 それはどうやらネックレスらしい。

 ヴィーナは、指輪の他にも魔術の補助具を隠し持っていたのだ。


 直後、ヴィーナの髪が膨れ上がる。

 フードを突き破りながら伸びると、一本一本が針のようになってリアに襲いかかった。

 勢いと鋭さを見るに、鋼鉄に等しい破壊力があるだろう。


 だが、リアは退かない。

 些かの怯みも見せず、彼女は力強く踏み込んだ。

 床を踏み割りながら距離を詰めて、最適な間合いを確保した。

 そして、神速の突きを繰り出す。


 剣の切っ先が、ネックレスを貫いた。

 その勢いでヴィーナの体を捉える。


「うおおおおぉォォォッ!」


 雄叫びを上げるリアは、そのまま駆け出した。

 ついにはヴィーナを壁に叩き付ける。


 濛々と砂塵が舞う中、ヴィーナは床に座り込んで動かない。

 胸に大穴が開いていた。

 心臓は間違いなく穿たれているだろう。


 リアはそこに刺さる剣を引き抜くと、私を見上げた。


「やったぞウェイロン殿! 小官が勝ったッ!」


 リアは高らかに宣言した。

 輝かしい笑みを受けて、私は頷いて応じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] リアの清々しいスポーツ的爽快感 いい女だなぁ
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