第32話 拳法使いは新たな事実を知る
手刀の軌跡に沿って切断されて、アブロが崩れ落ちる。
片腕と胴体の半分ほどが切り離されていた。
アブロは臓腑を撒き散らして地面に激突する。
直後、片手が槍を振るった。
即死しても不思議ではない状態でありながら、極めて鋭い一撃を放ってきたのだ。
ここまでのやり取りで最も苛烈であった。
私は後ろへ退きながら、アブロの攻撃を手で弾く。
手の甲に抉れるような痛みが走った。
見ると皮膚と肉が剥がれている。
すぐに血が溢れ出してきた。
動かすと、深部に響くような痛みもあった。
骨が割れているかもしれない。
私は、受け流しに失敗した。
アブロによる決死の一撃が、私の防御を超えたのである。
しかし、彼の抵抗もそこまでが限界だった。
力尽きたアブロは地面に倒れる。
槍の穂先が大きく曲がっていた。
それを目にした彼は、仰向けになって苦笑する。
口端から血が垂れていた。
「やってくれたなァ……ふざけた、強さだ」
「お前も強かった」
「ははっ、本気を出していないくせに、よく言うぜ……」
アブロは鼻を鳴らす。
非難するような口調だったが、表情は満ち足りていた。
私はその様子に羨望の念を覚える。
深呼吸するアブロが咳き込んだ。
空を仰ぐ彼は、力無い口調で呟く。
「まあいい。あんたは勝って、俺は負けた。それだけ分かれば十分だ」
アブロの視線がずれて、近くに立つ私を見た。
彼は片手で上体を起こすと、青い顔で発言する。
「何か、訊きたいことがあるんじゃ、ないのか? 特別に答えて、やるよ」
「いいのか」
「勝者の特権さ。素直に受け取ってくれよ」
アブロは親しげな調子で言う。
騙そうとしているのではない。
言葉の通り、戦いの報酬として情報を提供しようとしていた。
(なんと潔い男だ……)
私は彼の提案に甘えることにした。
気になっていた疑問を口にする。
「魔族はこの街で何をしようとしている」
それは核心を突く質問だった。
戦いに夢中になっており、結局訊きそびれていたが、本来なら真っ先に知らねばならないことだろう。
私達がこの街での滞在を決めた要因でもある。
アブロはゆっくりと目を細めた。
血塗れの口元を笑みの形に曲げた彼は、薄く息を吐いた。
そして、静かに答えを述べる。
「王国と帝国の戦争……その火付け役だ」