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第28話 拳法使いは闘争を求める

「ああ、殺した」


 私は素直に肯定した。

 別にわざわざ誤魔化すことではない。

 それに槍使いは断定口調だった。

 嘘を言ったところで意味がないだろう。


 毒豚とは、おそらく渓谷にいた腐毒の魔王のことだ。

 槍使いは何かを嗅いで、私の戦歴を把握した。


(魔王の魔力か?)


 魔力に臭いがあるのか不明だが、何らかの手段で確信を得たやうだった。

 槍使いは獰猛な笑みで叫ぶ。


「はは、やはりそうか! あの魔王が死んだ時は驚いたもんだが、あんたを見て納得したぜ」


「……ふむ」


 私は動き出そうとする両脚に力を込めて止める。

 気を抜けば槍使いに跳びかかりそうだった。

 彼の覇気を受けて、戦闘本能が刺激されている。


 槍使いは相当な武人だ。

 魔力の質から考えると、おそらく人間ではないが、そんなことは関係なかった。

 種族なんてどうでもいい。

 待ち望んでいた強者が現れたのだ。

 今はその事実だけで十分である。


 少なからず高揚する私だが、寸前で理性を取り戻した。

 優先すべき目的を思い出したのだ。


「お前達は何者だ」


「あ? まさか知らないでここまで来たのか」


「そうだ」


 私が答えると、槍使いは間の抜けた顔で固まる。

 次の瞬間、顔を手で覆って爆笑し始めた。


「ハハハハッ! これがまったくの偶然とはなァ……面白いこともあるもんだ」


 やがて笑い終えた槍使いは、質問の答えを述べる。


「俺達は魔族さ。この街の噂は聞いたことがあるだろう」


「なるほどな……」


 それを聞いた私は、現状を少し理解する。


 魔族はこの豪邸に潜伏していたのだ。

 犯罪組織を隠れ蓑に活動していたらしい。

 しかし、何らかの流れで、両者の関係に亀裂が入った。

 そうして組織の人間が殺されたところに、私達がやって来た。

 なかなかに混沌とした状況である。


 もっとも、いきなり引き当てるとは思わなかった。

 魔王の配下ならば、これだけの強さを有するのも納得である。


 奇妙な巡り合わせに感心していると、黙り込んでいたリアが槍使いを睨んで驚愕した。


「ま、まさか"鬼槍"のアブロか……!?」


「ご名答。そっちの嬢ちゃんは知っていたようだな」


 槍使いはリアを指差しながら頷く。

 驚く彼女を見て愉快そうにしていた。

 気まぐれに回転する彼の槍が、椅子の男を浅く切り裂いていた。


 それをよそに私はリアに尋ねる。


「誰だ」


「鬼槍のアブロは、荒野の魔王の配下だ。槍一本で軍勢を屠る怪物であり、戦場では常勝無敗と聞いている……」


「ほう」


 私はさらなる興味を抱く。

 槍使いアブロは、有名な魔族らしい。

 常勝無敗とは、なんとも心惹かれる表現であった。


「アブロの隣にいるのは、黒魔導師ヴィーナだろう。人間でありながら魔王に加担する女だ。二つ名は"幻惑"で、認識阻害や精神攻撃に長けている」


 リアが続けて解説するも、当の本人は人形のように動かない。

 ただ冷ややかな眼差しを私達に向けていた。


 リアは剣を構えながら私に問いかける。


「どちらも上位の魔族だ。同時に相手をするのは厳しいが……どうする?」


「決まっている」


 私は前に進み出ると、両手を握り締めた。

 そして二人の魔族に宣告する。


「――全力で来い。存分に死合おうではないか」

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― 新着の感想 ―
[一言] >アブロの隣にいるのは、黒魔導師ヴィーナだろう。人間でありながら魔王に加担する女だ。 >「どちらも上位の魔族だ。同時に相手をするのは厳しいが……どうする?」 ヴィーナさんは人間なのか魔族なの…
[一言] 嬉しそう
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