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第27話 拳法使いは思わぬ出会いを果たす

 ほどなくして私達は、豪邸の最上階に到着した。

 特に傷は受けていない。

 リアが少し疲労しているくらいである。


 この建物には隠し通路や地下が設けられているが、そこへ移動する気配はなかった。

 道中、幹部や頭らしき人間も見つかっていないので、この階に逃げ込んだものと思われる。


 最上階は全体が一つの部屋になっているらしい。

 階段を上がるとすぐに扉が立ちはだかっていた。

 扉の前で立ち止まり、リアに忠告する。


「私の後ろから離れるな」


「……了解した」


 私が先行して扉を開ける。


 広い室内は、黒を基調とした豪華な内装で彩られていた。

 その奥にて椅子に座る初老の男がいた。

 頬と目元に古傷があり、鷲を彷彿とさせる鋭い双眸を持っている。


 私は直感的に察する。

 椅子に座る男こそ、組織の頭だろう。


 しかし何かがおかしい。

 男は険しい表情で汗を浮かべていた。

 恐怖を感じているらしい。

 私に対するものではない。


 加えて室内には死体が散乱していた。

 鋭利な武器で刺されたり、斬られた痕跡が見られる。

 欠損の激しい焦げた死体は、魔術による殺傷だろうか。


(男の部下か?)


 何が起こったのかは分からない。

 男は死体をよそに、ただ静かに座っていた。


「あの男は、一体何をしているのだ……?」


 怪訝そうなリアは前に踏み出そうとする。

 それを私は手で制した。


「待て。これは罠だ」


 姿は見えないが、何者かが潜んでいる。

 微かに気配がするのだ。

 巧妙に隠しているが、魔力や殺気も感じられた。


 どうやら私達を観察しているらしい。

 機を見て奇襲をするつもりなのだと思われる。

 私は殺気を放出しながら発言する。


「姿を見せろ。潜んでいるのは分かっている」


 言い終えた後、部屋の中央部で空間が歪む。

 そこから現れたのは二人の男女だ。


 男は二十代半ばで、青い髪に赤い瞳が特徴的だった。

 狂暴な笑みを湛えており、尖った歯を覗かせている。

 防具は身軽な革鎧で、金属製の槍を携えていた。


 女も同じ程度の年齢だろう。

 白いローブを纏い、目深に被ったフードで顔を隠している。

 垂れ下がった金髪も合わさって表情はよく見えない。


 武器は持っていないが、両手に数種の指輪が嵌められていた。

 以前、リアから聞いたところによると、杖や指輪は魔術行使における補助具のような扱いらしい。

 つまりローブの女は魔術師なのだろう。

 姿を隠蔽していたのも、おそらく彼女の術に違いない。


 二人組は組織の頭のそばに歩み寄った。

 頭の男は俯きがちになる。

 心なしか顔が青ざめていた。


 その光景から、私は両者の力関係を理解する。

 室内に転がる死体は、二人組が築き上げたのだろう。


 思考を巡らせていると、槍使いが威勢よく話しかけてきた。


「よう! お前が侵入者か!」


「組織の頭は誰だ」


 私は無視して質問を返した。

 答えは分かり切っていたが、念のために確かめておきたかったのだ。


 すると槍使いは片眉を上げた。

 彼は面白そうに椅子の男を小突く。


「この禿げ頭のことかい? 雇われに来たのなら、止めた方がいい。報酬を渋りやがるケチ野郎さ」


「……っ」


 頭の男は歯噛みして耐えていた。

 怒りを覚えているようだが、抗議はしない。

 その瞬間に殺されると分かっているのだ。


 現れた二人組は、明らかな強者であった。

 内包する魔力は常人の比較にならない。

 その佇まいは、卓越した技量と戦闘経験を窺わせる。


(これは、楽しめそうだ)


 私は静かに歓喜する。

 状況はよく分からないものの、なかなかの大物を引き当てたのは確かであった。

 手応えのない相手ばかりで消化不良だったのだ。

 それも解決しそうである。


 愉快そうに笑う槍使いだったが、急に眉を寄せた。

 顔を顰めた彼は、赤い目を見開いて私を凝視する。


「ん? ちょっと待てよ、あんた……」


 少々の沈黙を挟んで、槍使いがぎょっとした顔となった。

 そして慌てて鼻を動かす。

 何かを嗅いでいるようだ。

 彼は真面目な様子で隣の魔術師に声をかけた。


「ヴィーナ」


「ええ、あなたの考える通りです」


 魔術師は澄んだ声で述べる。

 刹那、彼女と目が合った気がした。

 途端に不自然な悪寒に襲われるも、気力で掻き消す。

 魔術による精神面への干渉だろう。

 物静かに見えて、油断も隙もない。


 槍使いが私を指差した。

 何らかの確信を得た彼は、歯を剥き出しにして問う。


「――間違いない。あんた、あの毒豚を殺ったな?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ようやくまともな人形の強者の登場だな
[一言] お、この二人、魔人っぽいな
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