第26話 拳法使いは弟子の成長を喜ぶ
前方に飛び出した私は、床に拳を打ち付ける。
接触点を中心に床が膨張し、やがて臨界点を超えて爆発した。
弾ける衝撃は、そのまま進行方向へと突き進んでいく。
廊下に並ぶ調度品を破壊しながら、軌道上の敵を巻き込んだ。
廊下が轟音を立てて崩落していく。
それに伴って室内が傾いた。
あちこちが危うい軋みを鳴らしている。
やりすぎると、全体が崩れそうな気配があった。
めくれ上がった床は突き当たりまで半壊し、各所に死体が挟まっている。
高級感溢れる廊下は、今や血に彩られた惨状を露わにしていた。
どこもかしこも壊れており、とても歩いて進める状態ではない。
拳を持ち上げた私は呟く。
「……やりすぎたな」
「ウェイロン殿にもそういった自覚はあるのだな」
後ろでリアが苦笑する。
彼女の足下には、斬り殺された死体が転がっていた。
首筋を切り裂かれている。
無駄な傷はなく、一撃で仕留めたのが窺えた。
豪邸に侵入した私達は、室内を探索していた。
そして遭遇する敵を片っ端から倒しながら、着々と上階へ進んでいる。
現在は二階までを制圧したところであった。
敵の質は良くも悪くもない。
こちらに襲いかかるだけの胆力はあるも、印象に残るだけの実力者は見つからない。
おそらくリアだけでも十分に対処可能なほどだ。
様々な戦い方を試せるのはいいが、そろそろ強者が欲しくなる。
(血の滾るような死合いはないのか……)
燻る衝動を自覚していると、敵の接近を察知した。
場所を特定した私はリアに警告する。
「右の部屋から来るぞ」
「分かっているッ」
リアが身構えると同時に、右側の扉が開かれた。
中から飛び出した男が、斧を掲げて斬りかかってくる。
隠密の技能を持っているようだが、私やリアの前では無力であった。
前に躍り出たリアは、繰り出された斬撃を剣で受ける。
そこから押し込むようにして体当たりを敢行した。
斧使いを怯ませながら、追撃で相手の胴体を叩き割る。
倒れる斧使いは、弾みで臓腑を撒き散らした。
必死に掻き集めようとしているが、その動きで余計にはみ出している。
リアは速やかに刃を落として、斧使いの徒労を終わらせた。
私は彼女の一連の動きに感心する。
(能力に頼らない動きを意識しているな)
リアは特殊能力を保有していた。
片目に紋様が浮かび上がると、先読みの力を発揮できるのだ。
私の攻撃すら回避できるほどで、その性能は折り紙付きである。
しかしリアは、その力をなるべく使用しないようにしていた。
私の助言に従って地力を上げるためだ。
その成果は、徐々に表面化しつつあるようだった。
リアの立ち回りは、だんだんと洗練されてきている。
「いい切り返しだった。悪くない」
私が評価すると、リアは微笑む。
本人も成長を実感しているようだ。
やはり実戦による反復練習が功を奏したのだろう。
これからも同様の手順で鍛練を重ねてもらおうと思う。