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第22話 拳法使いは調査を進める

 翌日、私達は街中を散策した。

 昨日は強盗事件が起きたにも関わらず、付近に大きな混乱はない。

 当たり前のように日常が始まっていた。


 道すがら、私達は強盗被害に遭った店主に挨拶し、そこで話を聞く。

 兵士に押収された金は、やはり戻ってこないらしい。

 あのような汚職は珍しくないという。

 気休めに過ぎないが、所持金のいくらかを渡しておいた。


 店を出た私達は通りを進む。

 今日の目的は、魔族への手がかりを見つけることだ。

 些細なことでもいい。

 噂が真実であるという確証が欲しかった。


 隣を歩くリアは、顎を撫でつつ唸る。


「調査と言っても、どこから調べるべきか分からない。それとも貴殿は、何か見当が付いているのか?」


「手当たり次第に犯罪組織を叩く。情報の一つや二つは出てくるだろう」


 私は即答する。


 この街では、いくつもの犯罪組織が乱立していた。

 彼らは縄張りを持ちながら争いを繰り広げている。

 そこに魔族が参入しているのなら、誰かが気付いているはずだ。

 その誰かを見つけ出すのが目的である。


 犯罪組織ならば、良心の呵責もなく攻撃できる。

 何の恨みもないが、これも目的のためだ。

 私は躊躇いなく遂行するつもりだった。


「そ、その発想はなかった。ウェイロン殿は大胆なのだな……」


 リアは若干引いている。

 心優しい彼女は、そういった手段に抵抗感があるらしい。

 その気持ちはよく分かるが、今は必要のない感情だ。


 私はリアに尋ねる。


「騎士は犯罪者を取り締まらないのか」


「もちろん実施するが、勝手に動くことはできない。相手の身分にもよるが、迂闊な真似をすれば圧力をかけられるのだ」


 リアは悔しげに答える。

 どこか含みのある言い方だった。

 その意味を察した私は、答えを述べる。


「……悪徳貴族か」


「まあそんなところだ。結局、騎士や兵士は国の忠犬に過ぎない。正義のために剣を振るうには窮屈なのだ」


 リアは歯噛みしながら語る。

 やはり忠誠を誓う国に疑念と不信感が募っていたようだ。

 私は彼女に質問を重ねた。


「正義の味方になりたいのか?」


「小官は、善人が報われる世にしたい。ただそれだけだ」


 リアは真剣な眼差しで呟く。

 そこには強い意志が感じられた。

 是が非でも成し遂げようという心持ちが窺える。


 汚れた暗闇を渡り歩いてきた身には、とても眩しい姿だった。

 そのような人物の師になるとは、数奇な運命もあったものだと思う。


 私達は街中を練り歩きながら聞き込みを行った。

 やがて一つの豪邸の前に辿り着く。

 雑多とした近隣の中でも、そこだけが閑静な趣を形成していた。

 鉄柵で仕切られた敷地内は、警備員らしき人間が巡回している。


 私達は物陰から豪邸を観察する。


「あそこか」


「情報が正しければ、付近一帯を取り仕切っているらしい。魔族に繋がる話も握っているかもしれない」


 リアは聞き込みで得た内容を述べる。

 緊張を滲ませた面持ちだった。

 さすがに平常心ではいられないようだ。


 私は先に物陰から出ると、豪邸へと真っ直ぐ進んでいく。


「なるべく穏便に進めるぞ」


「貴殿の言う穏便は信じられないが……いや、うん。仕方ないな」


 リアは何か言いたげだったが、それを飲み込む。

 私は構わず歩き続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 裏の道を歩み続けた主人公と、華やかな道を歩み続けたリアのコンビが面白いですね。 正反対なのに、お互いに惹かれている。 ただ、リアがどっぷり裏に染まりつつあるけれど。
[一言] 主人公の冷静で容赦ないとこイイですね\(°∀° )/
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