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第21話 拳法使いは不穏な噂を聞く

 その後、私達は捕縛した強盗を街の兵士に突き出した。

 彼らの盗んだ金は、兵士達が証拠品として引き取っていった。

 実質的な徴収である。


 被害に遭った店の主人は不服そうだが、文句を言うことはなかった。

 詳しい事情は知らないものの、逆らえない関係にあるようだ。

 新参者には分からない力関係が隠されているのだろう。


 兵士達の去った後、その店主に強盗達の処遇を聞いた。

 彼らはおそらく奴隷となるらしい。

 危険な地域での労働用や、魔術の人体実験に用いられるそうだ。

 いずれにしても使い捨て同然の扱いであった。


 この街の兵士の状態を知るため、あえて強盗を生け捕りしたが、想像以上に汚職塗れだった。

 ある意味、兵士達は犯罪者よりも悪質だろう。

 それを今回の一件で知ることができた。


(まさに悪党のための街だな……)


 嘆息する私は、サンドイッチに似た食べ物を齧る。

 現在、私とリアは街の片隅にある宿屋にいた。

 ここはその一室である。


 宿泊費は、強盗を捕まえた礼として兵士から貰った。

 私は貨幣価値が分からないが、リアによればこの街で七日程度は生活できるだけの金額らしい。

 受け取ってよいのか複雑だったものの、金は生活する上で必要である。

 拒む理由は無かった。


「隙間風が気になるが、野宿よりはいい。食事もそこまで悪くないな、うん」


 窓際に立つリアは、サンドイッチもどきを口に運びながら言う。

 到着直後と比較すると、彼女は小奇麗になっていた。

 湯を借りて髪や顔を洗ったのだ。

 ただし風呂はさすがにない。

 高級宿ならあるそうだが、宿泊するだけの金がないので我慢している。


(だが、金がないのはどうでもいい)


 本来なら、すぐにこの街を発つところだ。

 あまりにも無秩序な場所で、余計な問題に巻き込まれる恐れがある。

 決して長居すべきではない。

 

 しかし話し合いの末、私達はこの街に滞在することにした。

 道端で聞いた住人の世間話に、魔族という言葉が登場したからだ。


 魔族とは、魔王の配下の総称である。

 知性ある魔物や、亜人といった他種族を指す。

 魔王に加担する人間も、場合によっては魔族と称される場合もあるらしい。

 とにかく魔王の味方を全般的に意味する言葉だ。


 真偽は定かではないが、この街に魔族が紛れているという噂があった。

 魔族は当然ながら主人たる魔王のために行動する。

 人間社会の陰で暗躍するのだ。


 それを聞いた私は、出発を中断した。

 魔族が何を企んでいるかは知らないが、おそらく碌なことではない。

 人間に仇為す行為に違いないだろう。


 それを食い止めるのが私の務めである。

 魔族を見つけて、魔王に関する情報を引き出したい。

 荒野の魔王も気になるが、まずは目先の懸念事項を片付けるべきだろう。


(なんとも不穏な展開になってきたが、これでいい)


 ここで魔族について知れたのは大きかった。

 噂が嘘ならそれでも構わない。

 もしどこかの魔王が何かを目論んでいるのなら、私は絶対にそれを阻止する。

 神から下された使命は、完璧に遂行するつもりであった。

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