第20話 拳法使いは強盗を討つ
残る強盗達は私から離れるように逃走し始めた。
彼らは通りを反対方向へ駆けて、人々を押し退けながら走り去っていく。
仲間を助ける気はないらしい。
背負った金の方が大切なのだろう。
何より私には敵わないと判断したに違いない。
逆上して一斉に襲いかかってくれるのなら、対処も楽だったが仕方ない。
(追いかけて全滅させるしかないな)
私は強盗達を逃がすつもりなどなかった。
やるならば徹底する。
そこを妥協する気は欠片もない。
私は地面を蹴って強盗達に接近する。
彼らが気付いていない間に、一人を後ろから掴み、足を払って転ばせた。
その際、首に手を添えて圧迫して意識を奪う。
「チィッ、クソが!」
私の接近に気付いた一人が、至近距離から魔術を使おうとしていた。
その前に蹴りで杖を粉砕する。
魔術行使を妨害しつつ、私は振りかぶった手刀で相手の脇腹を打った。
地面を転がった杖使いは露店に激突し、果実を散乱させながら気絶する。
私は顔を上げる。
強盗達はまだ逃走を続けていた。
諦める気はないようだ。
そこまでして金を欲する精神は見上げたものだと思う。
無論、尊敬はできない。
私は彼らを追跡し、一人ずつ着実に無力化していった。
後方では、リアが強盗達を一カ所に集めて魔術で拘束している。
さらに第三者が金を盗まないように見張っていた。
おかげで私は、追跡と無力化に専念できた。
そうしてついには、最後の一人を追い詰める。
路地裏の奥に到着した私は、前方の強盗を見やる。
行き止まりを前にした強盗は、片腕で子供を捕まえていた。
その首筋に短剣を添えてこちらを睨む。
どうやら人質を盾に乗り切ろうとしているようだ。
往生際が悪く、感心できない態度である。
私が不快に思う一方、強盗は目を血走らせて叫ぶ。
「それ以上、近付くな! この子供がどうなっても――」
強盗の言葉を遮るように、私は行動に移る。
手に隠していた小石を握り直すと、親指で弾き飛ばした。
弾丸のような速度で放たれた小石は、見事に強盗の額を捉えた。
骨の陥没する音が響き渡る。
「……が、ァッ!」
強盗は仰け反って倒れた。
その拍子に子供は逃げ去る。
怪我はしていないようだった。
「…………」
私は無言で強盗に歩み寄る。
強盗は動かない。
白目を剥いて口を開けていた。
私は捕縛しようと手を伸ばす。
その時、強盗が短剣を投擲した。
閃く刃が私の首を目指して突き進んでくる。
「ふむ」
私は指で挟むようにして刃を受け止める。
額から血を流す強盗は、悔しげに舌打ちをした。
気絶したふりで私を殺すつもりだったらしい。
「今の奇襲は悪くなかった」
私はそう評すると、男の顔面を蹴り飛ばして意識を奪った。