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第17話 拳法使いは街の洗礼を受ける

 私達は街の正門前に到着した。

 開かれた門から、人々が出入りしている。

 門前にできた行列は速やかに解消されていた。


 私達は最後列に並んで進み、やがて門番の前を素通りする。

 特に検査を受けることなく街に入れた。

 門番の視線からして、こちらの風貌を軽く確認した程度であった。

 おそらく何も分かっていないだろう。


 一連の流れを受けた私は、門番を振り返りながら呟く。


「随分といい加減だな……」


「この街は帝国内でも指折りの悪所で、基本的に出入りは自由なのだ。衛兵や騎士は汚職だらけで、ならず者の傭兵が跋扈している。犯罪者の巣窟だが、経済の循環は抜群に良い」


 リアは歩きながら解説する。

 元は犯罪者の収容施設だったこの地は、無断居住と増築拡大を繰り返していった結果、このような都市に至ったらしい。

 この街が半ば一つの国家として機能しており、今では帝国の管理下からも外れかけているそうだ。

 独自の体制が敷かれているのだという。


 これだけ聞くと問題だらけの街だが、有事の際は結束力が強いらしい。

 リア曰く、外からの干渉を極端に嫌うそうだ。

 加えて荒事が多いためか、兵士や傭兵の練度が高い。

 結果、どのような勢力も干渉できなくなっているとのことだった。


「国境に位置するこの街が、帝国と王国の冷戦を維持していると評しても過言ではない。もしこの街がなければ、一方が滅亡しているのではないか」


 リアは平然と述べるも、色々と滅茶苦茶だ。

 しかし、こうして存在しているのだから文句は言えない。

 様々な事情が絡み合い、危うい均衡の中で成立しているのだろう。


 通りを歩く私は辺りを観察する。

 私が召喚された王国に比べると、全体的に殺伐とした空気が漂っていた。

 行き交う人々は、貧民か山賊紛いの者ばかりだ。


 私は小声でぼやく。


「休憩に向かない場所だと思うが」


「そんなことはない! 小官とウェイロン殿ならば、快適に過ごせるだろう」


 リアは力強く断言した。

 それを疑っていないようだった。


「根拠は何だ」


「我々には力がある。暴力が支配する街において、この上ない根拠だ」


「……なるほどな」


 私はすぐに察して納得する。

 彼女の言う通りだ。

 こういった場所ほど、強い力が有効である。

 暴力の中で暮らす者は、他の暴力に敏感なのだ。

 故に力を持つ者は自由に行動できる。


 先ほどから意識して探しているが、飛び抜けた強者は見つからない。

 大半はリアに遠く及ばないほどの実力であった。

 練度が高いとのことだが、さすがに騎士長に匹敵するほどではないようだ。


「弱い者虐めは趣味ではない。なるべく暴力を振るわずに過ごすぞ」


「了解した! さすがウェイロン殿だ。そのような優しい心までお持ちだとは――」


 リアが称賛の言葉を口にしようとする。

 その時、前方の建物から男達が飛び出した。

 ガラス窓を突き破って登場した彼らは覆面を被っている。

 背負った大きな袋には、大量の硬貨が覗いていた。

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