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第15話 拳法使いは新たな力を懸念する

 焼き魚を食べ終えた私達は、腹ごなしに移動を再開する。

 ここから魔王の支配する荒野までは、かなりの距離があるらしい。

 リアによると、いくつかの国を経由しなければいけないという。


 こればかりはどうしようもなかった。

 元の世界に比べて、この世界の移動手段は限られている。

 徒歩や馬車が主で飛行機などはもちろん存在しない。

 魔術による瞬間移動もあるそうだが、それは一部の術者しか使えないそうだ。

 適性に左右されるらしく、リアは使えないとのことであった。


「苦労をかけてすまない。小官が不出来なばかりに……」


「気にするな。元より歩くつもりだった」


 目立つ移動方法を使うとなると、必然的に衆目に晒されることになる。

 当然、王国の追っ手も察知してくるだろう。

 今のところは行方を眩ませることに成功しているが、これがいつまで続けられるかも分からない。

 移動速度を犠牲にしてでも、なるべく目立たない行程が望ましい。


(早く国外に出たいところだな)


 茂みを掻き分けながら、私は考える。

 国内ではおそらく指名手配をされている。

 リアによれば、捜査網が国外にまで拡大することはないらしい。

 周辺諸国の関係は微妙で、一種の冷戦状態に近いのだという。

 端的に言えば、互いに協力できないのだ。


 魔王という脅威を前に何をしているのかと言いたいところだが、元の世界でも似たような事態は多発していた。

 次元を越えても、こういったことは尽きないのだろう。

 できるだけ関わりたくないものである。


 私達は黙々と森の中を進んでいく。

 それにしても、風景の変化に見分けが付かない。

 辺りは常に鬱蒼としており、昼間だろうと薄暗い。

 来た道を戻ることすら困難な有様だった。


 先導するのはリアだ。

 この辺りは騎士の演習にも使われたそうで、土地勘があるらしい。

 私は彼女の案内を信じることにした。

 最悪、迷ったとしても死にはしない。

 森を粉砕しながら突き進み、強引に出口を築けばいいのだ。

 多少は目立つものの、遭難は免れる。


「ところでウェイロン殿……」


 リアが少し言いにくそうに切り出した。

 何事かと思っていると、彼女は声を潜めて続きを述べる。


「できれば、その、魔力を抑えてほしい。肌を刺す感覚が、少し気味悪いのだ」


「魔力……?」


 思わぬ指摘に首を傾げていると、リアは詳しい説明をする。


 曰く、私の体内に収められた魔王の魔力が、彼女に悪影響を及ぼしているらしい。

 完全に抑え込んだ状態でも、残り香のようなものを感じてしまうのだという。

 森に入ってから魔物が襲ってこないのも、彼らが魔力に怯えているからとのことであった。


(魔力の残り香、か)


 立ち止まった私は精神を集中し、体内に意識を向ける。

 取り込んだ魔力は、依然として固まっていた。

 特にこれといった異常は見られない。


 しかし、神経を研ぎ澄ませると、体外に漏れ出る何かを感知する。

 魔力とも言えないほどに微弱であり、確かに残り香に近い代物だった。

 よほど気を付けなければ分からないほどのものである。


(迷惑をかけてしまったな……)


 私は己の鍛練不足を感じつつ、体外に滲み出る残り香を遮断する。

 感知さえできれば、あとは容易かった。

 よほど無意識の状態になっても、漏出することはあるまい。

 逆にこれを利用した威嚇行為もできそうだった。

 何にしろ、同じ過ちを犯すつもりはない。


 魔王の魔力は、想像以上に扱いが厄介だ。

 強大なエネルギーであり、他者への影響も少なくない。

 これを欲するような勢力もいるのだろう。

 扱いには十分に気を付けなければならない。

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