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第11話 拳法使いは魔王を蹂躙する

 魔王が頭上から突進を仕掛けてくる。

 凄まじい速度による接近に対し、私は全力の掌底で迎えた。


 片手が肉にめり込み、魔王の体内を掻き混ぜる。

 体表を破って幾本もの骨が飛び出して、鮮血を血を迸らせた。

 一瞬にして魔王は形を失って肉塊と化する。


 落下の勢いを相殺したところで、私は腕を引き抜きながら回し蹴りを放った。

 衝撃で破裂した魔王は、しかし壁を反射して再度突進してくる。

 僅かに残る体表の弾性を利用したのだろう。


(獣でも知恵が回るものか)


 無防備にぶつかれば、今度はこちらが肉塊となる。

 もちろんそのような間抜けな様を見せるつもりはない。


 迫る魔王を前に、私は震脚から正拳突きを繰り出した。

 半壊していた魔王が、ついに爆発四散する。

 衝突の力を倍増させて跳ね返したのだ。

 いくら強靭な魔王とは言え、耐え切れなかったらしい。


 周囲に毒液が散ったので、私は呼吸を止めて退避する。

 その間に肉片が徐々に集まり、割れた骨が繋がって形を作っていた。

 出来上がった骨格に血肉が縋り付き、元の姿へと戻り始める。

 半ば腐敗した眼球は、じっと私を見つめていた。

 理性を失った状態でも、最たる敵を認識しているようだ。


「ウェイロン殿! 受け取ってくれ!」


 後方からリアの声がした。

 すぐに魔術が飛来して私の身体を包み込む。

 その途端、空気に含まれる毒素の影響が軽減した。

 時間経過で効果は薄れるが、それでもありがたい補助だった。


(まったく、これだけ面倒な標的は初めてだ)


 魔王との戦いが始まってから、およそ二日が経過していた。

 正確に時間を計っていたわけではない。

 太陽と月の浮き沈みから把握したのである。


 短期決戦に持ち込むつもりが、かなりの長期戦になってしまった。

 最大の原因は、魔王の再生力だろう。

 致命傷さえも瞬く間に回復し、怒り狂いながら攻撃を繰り返してくるのだ。

 加えて垂れ流される毒も厄介だった。

 おかげで攻撃手段もいくらか封じられている。


 リアには後衛を頼んで、魔術による補助を徹底させていた。

 魔王の攻撃は、彼女の鎧を粉砕すると判明したからだ。

 接近戦は危険だと判断して、そのような役割分担をすることになった。


 ただし、この場は毒素に満たされている。

 リアには自分の命を第一にするように伝えていた。

 いざという時は結界の外へ逃げるように指示している。

 彼女の援護は助かるが、命を捨ててまでの助力は望んでいない。


 二日間にも及ぶ戦いで、リアもさすがに疲労していた。

 休息を取ろうにも、周囲は毒気に汚染されている。

 ここまで耐えられているのは、ひとえに彼女の胆力の強さ故だろう。

 まだ継続的に魔術を使うだけの余力はあるものの、あまり無理はさせられない。


 リアの様子を観察していると、激昂する魔王が叫んだ。

 肉体の再生が完了したようである。

 魔王は羽を上下させて浮遊すると、加速しながら突進を行う。


 どれだけ攻撃を受けても、魔王の動きは単調だった。

 学習するだけの知性が残っていないのだろう。

 私にとっては好都合であった。


 毒の飛沫を手刀で弾く。

 皮膚の焼ける痛みが走るも、魔術による保護で軽傷に留められている。

 すぐに自然回復する程度だろう。


 距離を詰めた魔王が噛み付いてきた。

 それを躱した私は膝蹴りを叩き込み、間髪容れずに拳を打つ。

 魔王を地面に叩き付けて、十分な隙を作った。

 そこに拳の連打を見舞って魔王を吹き飛ばす。


 またもや肉塊となった魔王は、岩壁にへばり付いた。

 滴る鮮血から徐々に形を取り戻そうとしている。

 落下する部位が繋がり、異音を立てて豚の形状へと変貌していく。


 私はその過程を冷静に観察する。


(そろそろ頃合いか)


 魔王の再生速度は、だんだんと停滞し始めていた。

 神が手を焼くほどの怪物にも限界があるのだ。


 私の打撃は、すべてが致命傷に至るだけの威力を秘めている。

 それを二日間も受け続けてきたのだから、何らかの不具合が生じてもおかしくない。

 度重なる損傷は蓄積し、魔王の首を絞めつつあるようだった。


 随分と時間はかかってしまったが、これで活路は開けた。

 あとは然るべき瞬間を生み出すだけだ。

 私の武が災厄を殺す――その瞬間を謳歌しよう。

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