出発前 佐々木の心情
アルバニアへ急遽行くとなって、正直まだ困惑していた。
幸い、隊長とは違い両親は健在であるから、一言喋っておきたいという衝動に駆られたが、極秘偵察任務の為それも叶わない。
手紙を書くことにした。
普段こう言った事は、行わない主義であるがアルバニアともなれば、死ぬ可能性は大いにあり得る。
自分がどの様な人生を歩んで行ったのかを、示す最後の手紙。
「拝啓、親父、お袋へ
これをみているという事は、すでに特別な任務で死亡しているでしょう。
元来、私は親孝行者ではありませんでした。しかし両親をいつも尊敬しています。」
ありふれた単調な手紙、この文書を書いてから次の言葉が見当たらない。
私はごく平凡な家庭に生まれ育ったと言っても過言ではない。
親父は中堅サラリーマン、お袋は専業主婦で今も健康に暮らしている。
私は、軍学校に入ってこの部隊に所属するまで、いかんせん不幸を目にした事や体験したことがあまり無かった。
それでなのかわからないが、楽観的に物事を見る事ができるのでストレス耐性はあり、心理カウンセリングでも良好な結果を何時も貰っている。
アルバニアとは、一体どんな国だろうか?
せめて、カンボジアみたく変な匂いや暑くて蒸し蒸しした場所だけは、やめて欲しいなぁなんて思いながら、シンハーに手を伸ばしテレビを付けた。
007のスペクターの冒頭のディア・デ・ムエルトスのシーンが最近のお気に入りだ。
死者が踊り、生者は誰も居ないそれでいてカッコいい。
ただそれだけだが、私に安らぎを陽気な曲と共にあたえてくれる。
ふと一言思いついてその一言だけを手紙に書いた。
一言だけだ。
私は、この一言だけで十分だ時計は12時の針より少し進んでいた。
明日は早い、良い夢でも見られるように祈りながら寝るとしよう。