祖国を愛し、差し出した男
此処は何処だろう。
ベイルート?モガディシュ?カラチ?ベンガジ?
全て違う。
此処は私の生まれ故郷だった所だ。
ティーンエイジャーにもなる事が出来ず、お腹から赤いバラのブーケを差し出すかのように、張り裂けた腸を見せる女の子がいた。
その腕は誰のものだろう。
男の人に強く握られた青い空のようなマニキュアが特徴的な、腕が隣に横たわっている。
ボスが描いた、地獄の様な景色があたり一面を埋め尽くす。
これは、私の業であり結果だ。
私は、かつて愛国者だった。
かつて、我が国が2度の大戦を超え高度経済成長を成し遂げたのち大国同士の争いが起き、私は我が国の兵士として働いた。
私の所属していた隊の名前は首相直属陸上部隊特殊作戦群a分隊、通称ジョブキラーと呼ばれる隊だった。
ジョブキラーと呼ばれる所以は、その仕事にある。
我が国は、公式にも非公式にも軍隊を持たず、どの様な戦争活動にも従事していない事になっている。
しかし、今日の我が国において大国に囲まれている中他のスパイ組織から遅れを取る事13年、首相直属陸上部隊特殊作戦群a分隊は極秘に組織される事となった。
我々、a分隊の仕事は至極単純だ。
ショーン・コネリーが007をやっていた頃の仕事よりも単純で、ディープな人殺しである。
目標は既に決められ、その目標の情報を伝えられる。
例えば家族構成はもとより、好きなランジェリーの色は?恋人に会うときに着けるコロンの名前は?などよりディープな、人を構成する全ての情報を、叩き込まれた上で殺す。
完璧なプロファイルをする事によって、仕事は完全なものとなる。
その為、目標を殺すとき家族を超えて全てを知る大切な人を殺す様な気分になる。
我々は、その為目標をアンクル(叔父さん)と呼んだりアント(叔母さん)と呼ぶ。
しかし、我々は発狂しない。
定期的な軍医によるカウンセリングや、最新のナノマシンによって脳を弄る事によって人殺し、則ち家族ですら殺せる様にコントロールされているからである。
また、痛覚マスキングにより痛いと認識はするが、感じることはない。
前時代の兵士が、子供の頭に真っ赤なコサージュをこさえてPTSDになったりすることはないだろう。
私はいつもの様にテレビをつけながら、同僚の佐々木とシンハーを飲んでいた。
同僚の佐々木は、無頓着な男で何事も困ったら「神様か俺のお袋に聞け」という様な男だ。
あいにくそれらは、既に我々の前にはもう居ないのだが。
テレビで、タバコの害についてのスピーチをしていた。
コメンテーター曰く「タバコは世の中の癌だ」とか「タバコは周囲の健康も害する」とか言っている。
佐々木は「こいつらは戦場でのタバコの有り難みを分かってないな」と言う。
確かに、戦場ではタバコの煙は火薬の硝煙の匂いと同じぐらい匂う。
あれは一体何処だっただろうか。
そうだ、2年前カンボジアのシェムリアップに任務で派遣された時の事だ。
シェムリアップはかの有名な世界遺産、アンコールワットが近くにあるカンボジア第二の都市だ。
しかし、21世紀になっても20世紀に起こったポル・ポトおじさんの爪痕は大きい。
孤児は多く、売春や強盗、殺人に至るまで全ての犯罪が未だに強く息づく街だ。
その時のアンクルは、現地で少年兵や成人を徴集し武装化し、シェムリアップ空港をテロで閉鎖に追い込んだ集団のトップでソム大尉と現地で呼ばれる男だった。
彼はプノンペンの高校を出て20世紀の虐殺を丁度逃れ、オックスフォードで学んだ秀才だ。
彼は、祖国が子供だらけになった21世紀にこれ以上、過去の過ちを犯さないと強く思い自分が、これから国を率いて行こうと決心し帰国した。
しかし、現実は甘くはなかった。
プノンペンの議員になろうと選挙に出たが、ポル・ポトの虐殺をのがれた、老獪な議員達の賄賂による選挙戦を前にして敗北した。
彼は、その四年後にまたプノンペンの議員へ立候補するが、次は家族へと被害が及ぶ。
妻と5歳になる娘が、プノンペンのパブストリートの片隅で遺体となって発見された。
その時、彼は家族を置いて選挙の為に行脚していたところだった。
見せしめだ。
議員の1人が雇ったゴロツキ数人に殺されたらしい。
彼女らの遺体は性的暴行を加えられた後、拷問を受けて殺害されたとファイルにある。
遺体を見た時のアンクルの気持ちは、私には分からない。
その後、彼は表には10年は出てこないが地方で、オックスフォードで学んだ事を生かしコンサルタントとして働いていたようだ。
どうして、アンクルは祖国を敵に回して、武装蜂起したのだろうか。
カンボジア王国から提訴を受け、ハーグの検察部がプノンペン周辺で武装蜂起した、ソム大尉に対し逮捕状をだした。
罪状は子供を戦闘に参加させた罪、ジェノサイド罪、である。
我々の政府はカンボジア王国の対応力の範疇を超えたとして、助力を申し出た。
私のボスであるa分隊指揮官夏目大佐は言った「今回の我々の任務は、アンクルを逮捕しハーグへ引き渡す事だが場合によっては殺害許可も出ている。しかし首相は迅速かつ的確な解決を望んでいる。分かるな?」
つまりは、ハーグへ送るより殺害した方が早いので、そうするようにと言っているのである。
「幼年兵遭遇交戦可能性は?」と私の後輩である加藤が言った。
加藤は、a分隊において唯一子供を持つ父親だ。
「充分にありえるが、任意で排除しろ。各自ブリーフィングの前にカウンセリングと痛覚マスキングを徹底して受けるように」
大佐はそう言った。
子供を持つ父親である加藤に対し任務の障害となるなら、殺害せよと命じたのである。
しかし、我々は軍医のカウンセリングや痛覚マスキングのお陰でブリーフィング前にはすっかり子供を人としてでは無く、1つのモノとして見れるようになっていた。
空港は、アンクルのお陰で閉鎖されておりa分隊はタイから陸路で国境を越えてアンクルの王国へ行くこととなった。
私、佐々木、加藤の他にもう1人、中村の4人でこの任務を遂行した。
何故4人かというと、隊の最小単位である2マンセルにする事が出来るし、何より5人以上になると指揮の難易度はとても高くなる。
我々a分隊は比較的怪しまれないよう、バックパッカーとしてタイから、シェムリアップから約50km離れたバタンバンという街を目指した。
装備の殆どは後ろのバックへ多くは収納しているとはいえ、携帯できるのは拳銃とナイフ数本だけだった。
タイ政府や、カンボジア王国の協力もあり、NPO法人としてスムーズに入国審査を受け出国した。
カンボジアに入って2時間後位した時、佐々木が「あっついですねぇこの国、僕なら絶対無理ですよ」とボヤいた。
確かに私も同感であった。
周りを見渡すと、延々と舗装されていない道が続き所々の集落の周りにはハエが集り、ゴミが至るとこに散乱していた。
野犬も多く見られ、衛生的にも悪い場所である事が容易に想像できる。
また、我々の不快感を煽るのはこれらの条件だけではなく、東南アジア特有の亜熱帯性気候が影響していた。
気温と湿度がとても高く、すえたような独特の腐敗臭を我々鼻へ否応にも沢山運んでくれた。
佐々木がボヤいた5時間後に、バタンバンに着いた。
現地時刻で18時だったので、夕食を取り2人は先に斥候としてシェムリアップまで10kmの所で待機するように指示した。
夕食は、アモックという魚をカレー粉で煮たモノとフライドライスを食べた。
私と佐々木はバタンバンで宿を取り、加藤と中村の2人が斥候ポイントへ到着するのを待った。
2人は、報告を8時間ほど経ってから上げてきた。
曰く、15km地点には既に検問が敷かれており、従わなかったであろう、住民は虐殺されており巡視が厳しいとの事だった。
私と佐々木は悩んだ、ブリーフィングでは我々がアプローチする方角は、10kmまでしか支配範囲は広がっておらず、トンレサップ湖へ向けて勢力を拡大しているはずだった。
佐々木が「まさか、奴ら短時間のうちに従わない村を襲撃して進行している?」
その予感は的中した。
無線で、加藤から連絡が入った。
「奴ら、目の前の村人を並べて処刑の準備を始めています。子供達は一纏めにされて徴集されているようです。」
連絡を聞いた瞬間私の気分は、一瞬だけだがとても優れないものとなった。
私は加藤に、その映像を録画する様にとだけ言って佐々木に出る準備を促した。
一刻も早くアンクルを殺さなければ、無辜の人々が死んでいくだろう。
私と佐々木が夜の帳に隠れて10km地点まで進み、斥候隊と合流した。
途中、深夜にもかかわらずマキがくべられ、集落の周囲を煌々と照らしていた。
よく見るとマキだと思った物は、人の手足であった。
加藤がいった。
「彼ら、子供達にマイクロチップ埋め込み兵士として管理しているようです。」
虐殺が起きた集落では、兵の徴集があったと聞いた。
子供達はいきなり究極の選択を突きつけられるのである。
親を拷問し、処刑した連中。
幼馴染を強姦し、額に2.5cmの穴を開けた連中。
連中の仲間になるか、マキになっている奴らの仲間になるか。
彼らにとって、自分の集落を壊した連中の仲間になる以外生存できる道はない。
生きたいと願う子供達は、自ら親を兄弟を幼馴染を陵辱した連中の仲間になる。
仲間になると、マイクロチップが二の腕あたりに埋め込まれる。
何処かの表計算ソフトに管理された兵士の完成だ。
彼らは、理由はどうであれ自ら志願した事になる。
自分の大切な人達をぐちゃぐちゃにした連中と並び、スーパーに並ぶ商品と同じ様に管理される道を選ぶのだ。
こうやって子供達は、キリングマシーンとなっていく。
シェムリアップ中心部から5km地点にはシェムリアップ国際空港がある。
我々は、ひとまずそこで休憩を取る事にした。
昔は離着陸する飛行機の車輪を支えるために、綺麗に舗装されたであろう滑走路には、雑草が生い茂り腐臭が立ち込めていた。
中村は昨日からの疲れからか、休息を早めにとり仮眠したいと進言してきた。
私は隊員に2マンセル3時間おきの交代哨戒を判断した。
もちろん先に休むのは斥候隊の2人だ。
私と佐々木は、空港の入国ゲート付近の一角をベースとして哨戒する事にした。
佐々木が「何でこんな、子供ばかり集めて兵士にすんのかねぇ、大人の方が銃は持ちやすいだろうよ」
たしかにそうである。
私にも、幼年兵と戦う経験は殆どなくあっても15歳位の子供の兵隊をやむ終えず射殺しただけだ。
「命が安い国だからじゃないか?」
私が言った。
佐々木は「命に価値の違いをつけるのか?それじゃあ、平等を説いてきた憲法と神様はこの国には、存在しないな」
佐々木のやつが平等という言葉を知っていた事に驚きを覚えた。
「じゃあ憲法と神様がいない国では子供の方が利用価値が高いのかね」
私は再度疑問を投げかけた。
「さぁね?神様に聞いてみるか、アンクルに聞いてみた方が早いんじゃな…」
急に佐々木の声が消えた。
佐々木がハンドジェスチャーで敵が2人来ることを瞬時に教えてくれた。
即座に臨戦態勢に我々は入った。
敵は曲がり角からこちらへ大きな音と、吸い慣れていないためか噎せながらタバコを吸う、甲高い声が聞こえた。
声で性別もわからないくらい若い子供だ。
一瞬我々は、ベースから少し離れているので殺さず気絶させる程度に留めるべきかと考えたが、今後起きて何をしでかすか分からないので殺す事にした。
佐々木に“音を立てるな殺すぞ”とジェスチャーを送り、道具を拳銃からナイフへ切り替えて、曲がり角からこちらへ来る敵を待った。
曲がり角から来た2人を私達は、殺した。
彼らは自分に何が起こったか全く理解出来なかっただろう。
自分の喉笛から生暖かい血液が流れる間、心臓から血液が吹き出る間に。
自分が殺された理由も、誰に殺されたかも。
その瞳は私達2人を写すことなく濁っていった。
その後、マイクロチップの存在を知らなければ見落としてしまうだろう大きさの膨らみを二の腕に確認した。
彼らの二の腕にあるマイクロチップを取り出し我々は、一先ずベースへ戻る事にした。その時一人の子供が吸っていたタバコを拝借した。
ベースに戻ってから交代を2回繰り返した。
月がそろそろ出てくる頃だ。
シェムリアップ中心部へ行軍する事へした。
途中月明かりに照らされて、シェムリアップ中心部の惨状が見えてきた。
これは、一体どういう事だ?
シェムリアップ郊外では虐殺が起きているのに、街は活気を得たまま、更にはナイトマーケットが通常通り営業し、物売りがたむろしているではないか。
中村が「どういう事なんですかね隊長」
私にもよく分からない。
ここが戦場であると思い、カオスの最中であると私は考えていたからだ。
しかし、蓋を開けてみればピーテル・ブリューゲルの牧歌的な絵の様な街が目の前にある。
私達全員が、キリングフィールドを想定していたので拍子抜けであると共に、アンクルが何をしているか分からなくなってしまった。
私は自然にタバコに火をつけようとした。
その瞬間私のインカムから、警告音が聞こえた。
私体内にはナノマシンが入っており、何か毒物や麻薬などを経口摂取しようとすれば、警告音が鳴るシステムとなっている。
警告音が出たという事は、タバコ自体に麻薬や毒物が含まれているという事だ。
タバコを調べてみる事にした。
ナイフでフィルターをカットし巻紙を剥がす。
そうしたらある物が出てきた。
日本古来より、巫女が神職が神からの啓示を聞くために使用したものであり、現在では所持する事すら禁止された自然由来の物。
"大麻"がタバコを形成する中身であった。
さらに、フィルターをくまなく持ってきた薬物検査キットで検査したらLSDにも似たような成分の物質が検出された。
つまり、これはタバコの形をした魔の依存物である。
アンクルはこれを配っているのか?
市民がこれを利用しているか調べる必要がある。
我々は、30分程度市民の動きを偵察した。
彼らが吸っているタバコのパッケージには”Freedom Kingdom”と書かれていた。
私が略奪したのは箱に入ったものではなかったので、確かめる必要がある。
現地住民に接触しなければならない。
未だにカンボジアは自国通貨を利用できず、米ドルが流通している。
その為、一人でタバコを吸っている男の子に米ドル2枚を握らせるだけで、問題は片付いた。
その米ドルは結局は、私の手を離れたが直ぐに戻ってくるのだが。
私は、男の子の検分をし始めた。
彼の二の腕にも、マイクロチップが埋め込まれていた。
そのマイクロチップをとり、タバコを確認した。
やはり私が隊員を置いて、エルドラドへ旅立つ手助けをしかけたのと同じモノであった。
ここで1つの仮説が出てきた。
タバコは幻覚物質で出来ている。
タバコを持つものはマイクロチップを持つ、つまりは兵士である。
幻覚物質を利用し、アンクルは人心掌握をおこなっている?
これは、なんという冗談だ?
よくよく見てみれば、我々の周りで普段通りの生活をしている奴らは全員阿片窟の住民の様にタバコをくゆらしているではないか。
と、するとシェムリアップ中心部はすでに自由の王国として完成しているというのか?
アンクルは、一体何がしたかったのだろうか。
我々は、3つのマイクロチップを使う事にした。
私と佐々木はマイクロチップをバックパックから取り出した保護ジェルで包み、蛇の様に一気に飲み、出ている紐を奥歯につけた。
これから先は、情報によるとマイクロチップがセキュリティに関わってくるらしい。
私達は、アンクルが事前にシェムリアップの国立博物館跡地に居ることを知っている。
あと1つは加藤がのみ、中村と退路の確保を目的として動いてもらう事にした。
極力、人に見られない様に進むには、生ゴミで溢れた路地裏を利用するしかなかった。
途中、月明かりに照らされて道路に黒いモニュメントがある事が分かった。
人の頭蓋骨で作った醜悪なオブジェだ、サンタムエルテの方が余程綺麗に思えるほど汚い。
所々、肉は残り腐臭を放ち誰の骨か誰の内蔵なのか分からないものがうず高く積まれていた。
それに虫や、カラスが、コウモリが群がり1つのモニュメントの様に見えたのだ。
佐々木が「これも見せしめかね?とは言えこいつら何か、豪華な格好している様に見えるが」
たしかにそうだ、現地住民は全員、Tシャツに短パンかそれに類するものを着ていたが、このモニュメントの多くは長袖で階級章や、帽子、果てはドレスみたいなものも見る事ができる。
奴らの正体は、軍人や警察、公務員とその家族だった。
アンクルは旧時代の友達達を一掃したようだ。
私と佐々木は国立博物館跡地に到着した。
入り口にはセキュリティカメラや、少年兵がうじゃうじゃたむろしていた。
我々は、見つからぬよう慎重にそして速やかに内部へと侵入した。
かつて、国立博物館として展示されていた収蔵品の多くは壊され、アル・カイーダが行った、偶像崇拝禁止の原理に則り破壊した、ガンダーラの立像見たいに粉々になっていた。
正面から伸びる階段は落ち、中で涼を感じられるようにと作られたプールは、感染症のメッカとなっていた。
私は、所々穴が開く床に時々足を取られそうになりながら慎重に歩いた。
夜は短いアンクルを早く、捕捉しなければ。
アンクルは、二階にある唯一破壊があまり及ばないフロアにあった、ジャヤバルマン三世の坐像の前に座っていた。
坐像は収蔵される前に既に壊されていたが、我々の愚かさを見透かしたかのように、寡黙で優しい笑みをたたえていた。
彼は物思いに耽っているのか、その坐像の前から動かない。
私は佐々木に待機するようにジェスチャーして、拘束する為に近寄った。
刹那、私のナイフがアンクルの首元へ到達する。
片腕でアンクルの両方の腕を決め、足を折り丁度処刑される人の様なポーズをさせる。
「お前はソム大尉、ソム・チャートだな?」
私はアンクルにナイフを突きつけたまま聞いた。
「そうだが、君は誰かね?どの様に我が王国へ至ったのか、歓迎しよう。」
この初老を超えたぐらいの男はナイフを首筋にあてられながら、尊大な態度をとった。
「お生憎様、私は誰でもいいだろ。面倒な事を喋ったら殺す。とりあえずお前を殺しにきた。何故こんな惨劇を、虐殺をするんだ?」
そう私は、尋ねた。
「そうか、誰でもいいか…。私にとって死とは生きる事であって結末なのだが。」
アンクルはくだらない事に執着するものだ。
「お前は、そんな事を考える暇もなく無抵抗な自国民を虐殺しただろう?」
私は、吐き捨てる様にいった。
「彼らは、私の思想に共感してくれはしなかった。私の思う理想に、そのかけがえのない彼ら自身の全てを、未来を捧げてくれはしなかった。だから殺した。」
それじゃあ、ただのスタ公や毛沢東と変わらないなと冷静に考えていた。
「私の思想とは、自由だ。誰にも縛られず感知されず、それでいてなお、安息の日々を過ごすことができる天国の片隅を創ろうとしたのだ。私は、その為であったら犠牲は厭わない。君は積極的平和主義という言葉を知っているかね?」
「何だそれは?」私は、訝しげに問うた。
「積極的平和主義とは、全ての人が武器を持たないで平和に生きる消極的平和主義とは違うアプローチのことを言う。つまりは、後に平和となるのであれば手段強いて言えば、その土地を焦土と化しても構わないという事だ。」
その時のアンクルの考えは歪にしか思えなかった。
「じゃあそういうあんたの言う平和になった時あんた自身はどうするんだ?」
「私は消極的平和には必要のない人間だ。積極的平和から消極的平和への橋渡し役に過ぎない。故に平和となれば私は消える。」
「そうか、じゃあそれをお前には、見せる事は出来ないな」
私はナイフを頸動脈に刺し、すぐさま足を薙ぎ払いその体を倒した。
祖国に平和をもたらさんとする男の最後はあっけないものだった。
少し、呆けていると佐々木が声をかけてきた。
「これで、任務は完了だなこんな蒸し暑いクソみたいな場所とっとと失せようぜ」
私達はアンクルの殺害の証拠写真をとり帰路へついた。
途中、発砲音が聞こえた。
まだ、指揮官が死んだ事を知らないまま処刑を続けているのだろう。
ふと、そう思いながら生ゴミと香辛料の混ざった匂いがする街から去った。