何故、貴方が?
「なんで、あなたが・・・・・」
そこにいたのはロックでもリンバラでもなかった。鎖を武器に血塗られた傷だらけの体、髭は伸びきり顔は息を潜めた獣じみた風貌をした通称ゴッド・キルはニヤリと答えた。
「なぁに。ただの気まぐれさ。お前に死なれたらどうにも面倒なだけさ。そこにいるグレイとその竜・・・・・・まずはそいつらを殺らねぇと貴族の野郎はとっ捕まえられねぇしよお?」
「・・・・・」
なぜだろう、いつもに増して不思議と落ち着く。
さっきまでの不安が嘘みたいに体から剥がれ落ちてゆく━━━━━━━こう言った気持ちをなんて呼んでたっけ?きっとすぐ。分かる気がした。
『小癪なことを・・・・・!!今さら足掻いた所で戦況は変わらない!お前も僕の体の一部として、心を奪ってやる・・・・・!!』
「カカカ・・・・悪いな?そんな惨めな姿でよく言えたもんだ。こっちは殺す殺せないの問題だって言うのに━━━━━なぁ!?」
刹那。ゴッド・キルは一瞬にしてグレイの目の前へ迫り、その心臓を鷲掴みにして抉り取り。
鎖ごとグレイを竜のいる方角へ投げ捨てた。
そして、十字架に架けられたリークを捕らえ確保すると同時に両手を交差させ━━━━━━━━
凄まじい魔力砲をグレイと竜に満遍なく降り注がれた。夜空に光沢が産まれ、けたましい騒音が王都を駆け巡った。
そして何もなかったかのように、日が沈んだはずの王都は青空が広がり。火の海はどこにもなく、平和その物と化していて。呆然とするミウは急に
ゴッド・キルにぶつぶつ魔法か何かを囁かれた後、意識を失った。
「こ、ここは・・・・・・?」
「!ミウさん、良かった目をさましたんですね!今ロック隊長と一緒に倒れていたミウさんを運んだんですけど、何か覚えていませんか?」
リンバラがとても心配そうに顔を近づけて、ミウは内心照れていた。見た目こそ可愛い女の子だが。実はあれが生えた男の娘で、先日リンバラのあれを誤って鷲掴みにしてしまったのだ。
それなのにリンバラは怒るどころか、こうして心配までしてくれる。ミウはそんなリンバラのこともロック同様に好きだなあと思いつつ、本題について考え始めた。
確かロックとリンバラとミウで例の場所へ向かい、そこで謎の竜と戦った末に━━━━━━━━
「ま、町は・・・・!王都はどうなったの!?あれから日が経っているだろうし。まさか、みんな・・・・・」
「落ち着いてください、ミウさん。王都は無事、ケガ人も無く平和そのものてす」
「そう・・・・・」
ミウが安堵の息を付き、心からよかったと思うのもつかの間。
リンバラが「ただ」と言葉を付け加えて。
「変なんです。確かに王都は今もなお平和的に続いていますが。どうやって、あの悲惨な現状から脱したのか誰も分からないんです。それにその惨状の引き金となった例の場所や貴族のリークが行方をくらましてて。今でも魔教人や騎士団が全力を上げて捜索しています。ミウさんも覚えている範囲でいいので、是非教えてもらえないでしょうか?」
「・・・・・そうね。記憶としてはほとんど覚えていないけれど。ただ。誰かが私のことを守ってくれた気がするの。傷だらけで生々しくて。でもどこか懐かしさをかんじさせる。そんな暖かい気持ちになったとかかな?」
「・・・・きっと、その人がミウさんの心を救ったんですね。私もあの時、ミウさんを救えなかったのが悔しかったので。だから、今度はこのリンバラが!ミウさんを助ける番です!まだミウさんは診察や事情聴取があるのでまだ退院は出来ませんが、お見舞いに来ますので、またお買い物に行きましょう♪」
「フフ。変な子ね・・・・・リンバラちゃんは」
『くそッが!この僕に、あんな辱しめをかけてぇ!?』
「落ち着け、まだ我らは負けてはおらぬ。悪魔の呪いが有る限りグレイ等と我々悪魔は死にやしないし、逆に奴等は有限。また機会を窺いつつ策を練れば良い」
膨大な魔力の要塞の空間でグレイと悪魔達が円卓とも言える蹂躙とした会議が行われていた。
用意周到に計画を練り、貴族のリークを駒として利用し。
悪魔の協力を得て例の場所を作りそこから人間の負の感情を糧としてグレイ達が王都を侵略にかかったが・・・・・・・・
『何故、あの男がいるのだ!!』
そう、そこにはループエンドに収容されているはずの通称ゴッド・キルがグレイ達に立ちはだかり。力の差虚しく王都は守られたのだった。
「ゴッド・キルはループエンドにて魔力もろとも絞り取られていたはず。誰かの力なくして彼は動けません」
と円卓の一員である悪魔がそのように呟くともう一人のグレイもそれに肯定する。
様々な意見や討論が飛び交う中、一人の人物が手を挙げた。
その人物の風貌は異様で、顔の右半分が悪魔、左半分がグレイの形を為し。背中には小さな翼を生やして皮膚の色は赤なのか灰色なのか分からない曖昧な色をしていた。
その人物が声を発しただけで、円卓の空気がビリビリと静まり帰った。
その人物が述べたことは━━━━━━━━━━
「ぐばぁ!?ぁぁぁぁ・・・・・!!」
「ちょっとあんた、無茶するんじゃないよ!?」
ループエンドにて鎖に繋がれた状態からゴッド・キルが血泥を吐き。見かねたキー・ゴールドがゴッド・キルに寄り添った。
「あんたは魔力のコントロールがなってないんだよ!下手してたら死んでたよ」
「ギャハハ・・・・なぁに。ちぃと、体に補助魔法かければ、腕の一つくらい・・・・━━━━━━ッ」
「ちょっと!?倒れ込むんじゃないよ!あんたの愛は、あの子に対する愛はそんなもんだたのかい!?」
「━━━━━━━は俺が・・・・・・」
そこで唐突にゴッド・キルの意識は遠のいた。
王都の裏道を少し歩いて、ミウが入院する病院へと花束を抱えながらロック・サンダースは春愁の思いに駆られていた。
あの時、自分は何をしたのか?
誤った考えに陥り、行動し、ミウさんをみんなを危険な状態に追い込んだのではないか?
そんな自己満足な気持ちが渦巻いて仕方ない。けれども、結果的に誰一人と怪我人もなく再び平和な街が広がっていて。
ロックはゆっくりと病院の前まで来て、そこに二人のミウとリンバラがにっこりと手を振った。
「退院、おめでとうございます。ミウさん」
「ありがとう、ロックくん。その花束は私にくれるの?」
「そう言いたいんだけど。これはお供え用というか・・・・・それに、リンバラにも・・・・・・」
「ロック隊長は優しいですね・・・・・・でも、結果的に誰一人怪我人もいなかった訳ですし。気にする事は無いと思います」
「ああ、分かっている。けど、だからこそ目を背けたらイケない気がして・・・・・・ミウさん、リンバラ。よかったら、付き合ってくれないか?」
「ここですね・・・・・」
「ああ、ここだ」
「この街の業火の中で、グレイとあった。」
三人は何事もなかったかのように暮らす王都の人々を不思議と眺めていた。
人々の精神の歪みにより、一度は滅びかけたものの。
こうして今や心身豊かに暮らしていけると三人の目の前で証明されたのだ。だからこうして。誰一人欠けちゃいけない。
悪魔やグレイの餌になってはいけない。
ロックは花束を天高く投げ捨て、花びらが空でばらけながら地に着いたのを確認して。三人は現場を後にした。
「そういえば、あの戦いが終わった後。貴族のリークはどうなったんだ?利用されてたとは言え、重罪は免れないんじゃ?」
「それなんだけど・・・・実はとある刑務所に監修されてたわ。名前は伏せるけど、結構環境の悪い場所で。私もかなりびっくりしたけど、話しかけても返事がないしまるで。魂のない操り人形みたいなかんじで・・・・・もしかしたら直接的に悪魔やグレイからも精神を蝕まれてたかもしれないわね。お陰で上層部の方がピリピリしちゃって、その後処理が大変なのよ・・・・・・」
「うーっ。ミウさんが困ってる。こんな時はリンバラがぎゅっ~ってしてあげますよ!」
「そうね、ぎゅっ~♪」
「ふふ、よかった。元気になって」
(だが、また同じ惨劇が繰り返されるとも限らない。誰かが倒したという黒い竜やグレイだって、あの中間層幹部グランのように体力が回復次第、潰しに来るやもしれない・・・・・・次は次こそは俺の手で守って見せる!)
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