動き出す何か
闇夜より更に深い闇夜に殺されない死刑囚〈ノット・キル・ヒューマンズ〉が収容されている刑務所ループエンドにへらへらと笑う半裸の男、通称ゴッド・キルが両手を拘束され呻く。
「たく、いい気分だな?天使様よぉ。死にもしない囚人を玩具にして遊んだ気分はぁ?」
それに天使キー・ゴールドが羽を撒き散らしながらふんと鼻息を鳴らした。
「知ったことかい。あたいはあんたの歯車に使われて、あの子らと会った。そのあんたの未来視には何が見えてるかは分からないけど、ミウちゃんをこれ以上’騙す,のも気が引けるね。あんたの演技こいた顔がどこまど持つか、見ものだねぇ?」
「ぐへへへギャハハ!?そうかい?まあ、楽しみにしとくといいさ。その内分かる。世界のからくりとそのミウの運命がな・・・・・・・」
「全く、ひどい目に会ったわい」
その頃。二日前の悪魔による多発的テロに巻き込まれた貴族のリークはひしひしと表通りを歩いていた。例の馬車使いは悪魔のテロで当分は仕様禁止だし、護衛の者達も恐怖におののいて尻込みするわ・・・・・・なんて腹立たしいのだ!
民たちはひそひそとワシを小馬鹿にしよるし。何かないのか?
こう全てを滅ぼす何かが・・・・・・・
`力がほしいかい?´
「だ、誰だ!?」
急に耳元で妙な声がして、リークは慌てて左右前後を見渡した。
だが、周りには魔法を使う者はなくリークの挙動を怪しむばかりであった。
`ヒヒヒヒヒヒ・・・・・いるわけないよ。僕は君の心に直接話しかけるんだから´
━━━━心に?だが、魔教人共の共鳴魔法が・・・・・・
`共鳴魔法?そんなの簡単にくぐり抜けれるよ。だからグランに進行を許した。それに君の心は僕の支配下にある。
こんな風にね。´
刹那、リークが辺りの景色を認識した瞬間。
グレートーンのモノクロ映画のような世界がぐにゃりと王都を撮していて、リークはその中央に浮遊していた。
`教えてあげるよ。世界はこんなにも壊れやすいだって・・・・・・´
その瞬間、リークは王都から姿を消した。
とあるいつもの朝。
ロックは街の警備も兼ねて徒歩で歩んでいた。
あの悪魔の進行以降王都は平和そのもので。何事もなく空が青く続いていた。
━━━━━今日も平和その物だな。リンバラには軽い雑務を任せてあるし。あとはミウさんと改めてデートが出来れば最高なんだけなー。
と気怠げに欠伸を漏らし、街角をスルーしようとした時である。
その角に天使がいた。渦巻き模様の鈴を大切そうに撫でる修道服を着た金髪の天使、間違いないあれは。
「くっ!」
気が付けば追いかけていた。
逃げる天使の女を狭い角という角を曲がり手を伸ばすも、相手は天使。地面すれすれをあたかも歩いているかのように飛んで行く━━━━━ロックの屈強な体では狭い角は不合理だ。
そしてそのまま彼女の姿が小さくなり、「キー・ゴールドォォォォォォ!!」
その手が届きそうになった時、彼女は消えかわりに外へと出た。ゆっくり前を向いてバタリとドアが閉まる。
上には「BAR」と古びれた電球により怪しく艶を帯びていた。
あからさまな誘導に戸惑いがないと言えば嘘になる。
けれどもここを潜らねば何も始まらない。
そのBARに扮した強力な魔力砲の中へ・・・・・・・
中に入るとチリンチリン♪とドアが鳴りどこからかジャズの音が酒の匂いを濃くした。
席に着き辺りを見渡す。カウンターにはマスターらしき若い男がグラスを拭いていてきゅ、きゅと気持ちの良い音を鳴らしより一層酒が飲みたくなってきた。だが、変だ。酒場のマスターもいれば酒の匂いもする。なのに、何故‘本しかない’のだろうか?
しかもその本棚からは強い光が生じて外で太陽を浴びているようである。
「あ、あの・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・あの!ここは一体、何なんですか!?教えてください」
「んふ。どうぞ、手に取ってみてはいかがですか?」
そう言われ改めて本棚を眺める。だが、いくら眺めても本棚は光を帯びているだけ。やはり、手に取るしか・・・・・・
その時である。
一冊の本が異様なまでに光だしたのだ。
思わずいや、衝動的に足が動きその一冊の本を手にしていた。
`みて´
その声は間違いなくキー・ゴールドの物だった。
今ならまだ抗えたかもしれない。けれども、ロックの頭には反対の意義は不思議となくゆっくりと本をめくっていった。
瞬間。その光の中からロックの頭の中に王都の映像が流れる。
いつも通りの風景。いつもの平和な日々に突如、貴族のリークが囚人のような姿で現れその禍々しい魔力を解き放ち━━━━━━王都は火の海と化した。逃げ回る人々。黒焦げになる物や骨。その中心に十字架にかけられたリークがいて、それを取り巻くように黒い竜が蠢いていた。
そしてその強大な力の前に一歩及ばず、王都は崩壊した・・・・・・
映像が途切れると共に気が付けばBARは消え失せ、空き地と成り果てていた。
「・・・・・・急がなきゃ」
ロックは急いで角を抜け出すもまずは誰かに知らせねばならない。ロックはあまり人脈があるとは言えないが、とある二人なら心当たりがある。
強くてかわいいあの二人なら・・・・・・!
すくなくてもあの映像からは日没が沈んだ直後に王都は火の海と化していた。だからそれまでに貴族のリークを見つけ出し、王都は守らねば・・・・・・・
ロックがひたすら走り終える頃には西部隊の騎士団に到着していた。
「・・・・・という訳だ」
間もなく昼の十二時を指す頃、ロックはとある二人の女性を集めていた。一人は長身のすらっとした豊満な体付きに美しい銀髪をくねくね弄る東部隊隊長ムーン・ジャスティス・ミウと一見小学生にも見えてしまう幼い容姿に寄せ集めの胸が特徴的な少女(実は男)。西部隊副隊長リンバラがおずおずとでもどこか苛立ちに満ちた口論をロックに浴びせていた。
ロックはそれを無視しつつ、ミウがリークと関連が深いと聞いて詳しく聞くことにする。
「前にロックくんと初めて会った例の場所・・・・・・実はその存在を教えたのは貴族のリーク様なの。最初は何かの冗談かと思ったけど、日に日に妙な事件が増えていて・・・・・気が付けばそこの例の場所に通い詰めだったのよ!どうかしてたわ。通えば通うほど心も体もおかしくなるばかりだったし・・・・・まあ、でも。そうじゃなきゃ、ロックくんに会えなかったしね。ともあれ、リーク様と例の場所が関係しているのは間違いないわ。今すぐ探し出しましょ!」
王都へと急いで直ぐさま例の場所の扉をくぐり抜け、暗闇の世界に入る。ロックとミウは行き慣れているから平然を装っているが。リンバラは薄気味悪そうにロックの袖を掴んでいた。
いつもに増して、妙に緊張感がある。
一歩歩いただけでその足音が心臓まで響いてきやがる。
ったく。情けねぇ。リンバラは見るからに怖がってるが、ミウさんだって内心は怖いはずだ。
しっかりしねぇと・・・・・・
「シッ。誰かいるぞ」
刹那、ロックは二人に呼びかけその正面に聳える裸体の彫刻を睨む。いかにも怪しげにスポットライトを浴びた彫刻にロックは心当たりがあった。
それは初めてここでミウさんと会った時にもいた天使のことで━━━━━━━
「やあ、久しいな。お二人さん。あたいのこと忘れちゃいないだろうな?今見てるあたいの姿は魔力で作られた映像かなんかだと思ってくれ。たぶん、お二人さんの隣にはリンバラとか言う可愛い娘さんもいるんだろ?いいなーお前ばっか、羨ましいー!」
『・・・・・』
「ゴホン!まあ。お前等の言いたいことはよーく分かる。だから補足だけしといてやるよ。さっき怪しげなBARでロックに見せた通り、日没が沈んだ直後。王都は火の海まさに万事休すってね?その未来を変えるためにも動けるのはあんたらしかいない・・・・・・正確にはみんな魔法で洗脳されて悲惨な現状になっても楽しくしている。まあ、その時は救助を頼みたい。あたいも出来る限りのサポートはするし。なんなら一緒に戦ったっていい、けど。そんな回りくどいことをするより速く未来を変えるにはリークを引っ捕らえるしかない。場所は勿論、この暗闇の中。例の場所はリークの深層心理を現した空間なんだよ。彼の心の闇に漬け込んで、何かがリークを操り世界を変えようとしている。言うならば世界の終わりを意味する。だから、この空間での不安や恐怖は死よりももっと深い終わり・・・・・だから、負けないで!あんたらの強い心こそが唯一の鍵なんだから・・・・・・」
キー・ゴールドはそう告げると、彫刻もろとも姿を消した。
沈黙の中、三人の呼吸が鋭くなった時。
ゴゴゴと桁ましく地面が揺れた。最初こそただの地震かと思ったがすぐに剣を構え底から来る何かが地面を割り、牙を剥いた。
細長く巨大な黒煙色の竜。おそろく、これがこそがリークの心の闇その物なのだろう。
竜が咆哮すると共に、ロック達は地面に根っこを生やして踏ん張りつつ。周りに炎で囲まれたことに目を見張った。
これは、ロックが語った王都の惨状・・・・・日没も間もなく訪れれば間違いなく。王都は終わる。
ミウは頭と剣を振るうことにためらいがあった。
本当に`これを´倒してよいのか?曖昧ながも何故か無性に自分の剣が信じられなくなる感覚。あの時、ミウが母を守れなかったように・・・・・・消えればいいのかな?
そうすれば、母さんと・・・・・・・
ミウさん!ミウさん!ミウさん!!
「ミウさん!」
「えっ」
「あの竜、妙なんです。私達には一切攻撃してこないで、周りの暗闇ばかり火を吹いて・・・・・・まるで、そこにある何かを焼き払っているみたいに。おかしいと思いませんか?」
確かに妙である。
普通ならば、敵であるロック達を狙うはずだが。
何故か周りの暗闇ばかりを狙っている。
しかも耳を澄ませば、何やら人のうめき声もして・・・・・・
「もしかして。光を灯せばこの暗闇もろともあの竜も消えるんじゃないか?」
ロックがふと、そんな提案をするとリンバラも「それです!」と肯定し互いに杖と剣を構えた。
これなら確かに竜もろともこの暗闇は消えるかもしれない。
だが、何かがおかしい。
最初にキー・ゴールドは竜を倒せとは言っていないし。
この暗闇に光を灯せとも言っていない。
ただ単に、貴族のリークを引っ捕らえろとしか言っていないくて。その二人の過ちに血の気が引き、止めようとした瞬間━━━━━━━━━━━
光が灯された瞬間、世界は変わった。
地塗られた空間に響き渡る悲鳴。辺りは火の海と化し、王都は絶望に堕ちていた。
「・・・・・・ッッ!」
消え失せたリンバラとロック。ミウはその絶望の中、崩れ落ちた。守れなかった。王都もロックもリンバラもそして母さんも。
ミウはまた、大切な何かを失ったのだ。
そんなとき、声がした。
掠れた地響きのような得体の知れない声が。
「あなたは・・・・・」
『ボク?ボクはそうだな・・・・・未来人達からはグレイ、又は宇宙人と呼ばれているよ。ボクはね?人類が可愛くて仕方ないんだ。ちっぽけでゴミみたいな存在なのに、こうして身を寄せあって生きている。おかしいよね?だからボクらが、みんなを幸せに殺してるのさ♪死んだあともボクらの奴隷になるよう悪魔達にはしつけてあるし。だから君も死んで♪あの竜の餌になれば楽になれる。また、母さんに会える・・・・・・そのためにリーク君を利用したんだ。あそこで十字架に架けられてるのも見せしめとして・・・・・さあ。死んで?』
「・・・・・・」
何を言ってるのかは分からなかったけれど。その手を取れば、楽になれる気がして。ミウが手を取ろうとした時。
目の前にいる何かの腕が吹き飛び、赤紫色の血液が盛大に吹き出した。
『だれだ!ボクにこのボクをやったのは!?』
「グギャギャギャ・・・・・・誰かぁって?そうだな?仮に答えるとしたら一つある。殺されねぇ、キリスト殺しってよぉ!!」
と殺されない死刑囚通称ゴッドキルはミウを庇う形で舌を巻いた。