薔薇の芽狩り
改めて話をまとめると。
ものをふわふわ浮かせた水色メガネで緑髪を束ねた女の子がエラ。
三つ子の次女である彼女は強気で負け知らず。
総合的な強さでは中の下ぐらいだが、三つ子の中でも浮力を操ることに長けてをり。
三つ子がいつもの如く、殺し合いをした時にエラが突如としてキレてしまい。
あろうことか、どこかの廃城やら隕石やらを浮力で落とした時には流石の三つ子の二人も肝を冷やしたという。
無論、しっかりとバーヤたちに叱られた。
次に頬にそばかすをつけて、印象が薄い地味な子ことミラ。
ミラは三つ子の末っ子で、一番バーヤたちからも可愛がられた。
それにより、見た目に反して自己意識が高く。
三つ子の二人を見下してるふしがある。
口調や声音こそ弱いが二人に負けて劣らず、戦闘能力が高い。
彼女は周りの空気を圧縮する力がある。
それは人や生き物、微細な生命すら彼女の圧縮には耐えられない。
そして、ミラにはもう一つ。三つ子の二人に隠した小さな能力があった。
それが、磁力。
まだ初級のランクだが、周りの空気を圧縮することぐらいはできる。なので、二人はミラ相手には至近戦をとらない。むしろ魔女は変換魔法で遠距離から攻めるのが基本なので、あまり大差はない。
そして、長女のサラ。
彼女はやけに自信に満ち溢れてをり、常に高笑いをしている。
三つ子の中でも一番身なりや美意識が高く、変換魔法も見た目の綺麗さにこだわりがある。
無論、戦闘能力としても強力だが・・・・
そんなサラは花火の魔法を得意とする。
小さな火花から蜥蜴や不死鳥を操り、相手に噛みついたりじゃれついたり、縄になったり。
意外と便利である。
そして、そんなサラにも奥の手があった。
それが不死だった。
サラは夜や暗い場所では発動しないが、朝や明るい場所では不死を発動できる。
そして万が一、サラが死ぬことがあれば体内に隠した宝石の粒によってかろうじて生き長らえるが、宝石を撃ち抜かれたり、宝石を取り抜かれたら元もこもないが・・・・・
とにかく、この問題児たちこと三つ子エラ・ミラ・サラが一通りの営業スマイルをした所で。
ひきつった顔でミウが改めて変換魔法の講義を頼んだが・・・・
『イヤよ。イヤ、です・・・。イヤですわ!』
三者三様に断れた。
だが、ここまで来てはいそうですかと尾を退く訳にもいかない。懲りずにミウが了承を取ると、緑のメガネの縁を持ち上げてエラが「だったら、行為でしめしなよ」と挑発気味に言うと今度はサラが高笑いをして、「私たちに勝ったら教えなくもなくよ?」と意気揚々としていた。
明らかに舐められているミウ一行の背後に突如として恐ろしい殺気が込み上げる。
死、又はx━━━災厄がウルフの身体に乗り移って現れた。
「ミウ、ここは任せて貰おう」
「え、それはいいけど。その・・・・殺さないでね?」
「ふ、分かっている」
災厄がいつもの如くほくそ笑むと自嘲気味に「吾が相手になろう。お前らの相手は一人で十分だ」と逆に挑発して見せた。
すると案の定、三つ子の魔女たちもそれを真に受けてか『容赦はしない!』と杖を構えた瞬間━━━━
━━━━ひれ伏せ
災厄の具現化された力が世界の法則となり。
魔女たちはあっという間に地べたに頭を垂らした。
これにはかなり驚いたようだ。
「う、動けない・・・・!?」
「足が、びくとも、しません・・・」
「何ですの、これ!?全くもって意味がわかりませんわ!?」
「降参する気になったか?ならば早く変換魔法を供述しろ。さもなくば━━━━」
「誰があんた何かに・・・!!」
「変換魔法は魔女の特権、赤の他人に何を教えろだ!!」
「何も知らないくせに!!」
魔女たちはそれでも講義をとるどころか、むしろ。
頭を垂らしてなお反抗の意思を示した。
流石の災厄でもこれ以上は難しい・・・・ならば、強制的にさせるのか?そんな考えがミウたちの脳裏に過る最中、災厄は実に薄気味悪くニヤリとした笑みで三つ子たちを見た。
それが、実に愉快だなと言わんばかりに。
「な、何よ?まさか襲うつもり!?」
「私たちに、何をしよう、と?」
「やるならエラとミラだけにしなさい!」
「はあ!?何言って!」
「そ、そうです!」
「ではその罪を宣告する」
三つ子同士、仲良しになり互いに‘恋人’となれ
『・・・・・はあああぁぁ!?!?』
これにはミウたちも呆けてしまい、たじたじになりながらリンバラが災厄の下した意向について聞いた。
「ただ、ひれ伏すなら簡単だ。代わりはいくらでもいる。それに今の宣告の方が平和的だし、なにより面白い(愛殺しの蛇もそう言ってるし)彼女たちの吾の思惑通りに困惑し、頬を赤らめ、仲良くなる行程は実に悪魔的だろ?」
「うわ、そうでした。この人、悪魔の親玉でした。というか、ラスボスでした・・・・・」
災厄の力によって、三つ子に変化が起きたかと言うとさほど変化はなかった。
だが、先ほどよりも妙によそよそしくなったり。
手と手が触れあっただけで、顔を赤らめたり喧嘩したり・・・・これは完全な‘それ’であった。
じわじわと大きな変化が起きていた。
ロックやリンバラ、他の同行していた者たちも三つ子の変容ぷりにさぞかし驚いていたが、一番驚いていたのはバーヤたちだった。
バーヤたちが三つ子たちが仲良く手を繋ぎ、談笑するやいなやこれは幻覚かい?とミウたちに投げ掛けるくらい衝撃だったらしく。
これをやったのが災厄だと聞くと、号泣された。
少なくとも四回は災厄を抱きしめて、縁起担ぎとして悪魔払いの儀式を軽くした(悪魔の親玉)
そして村人たちは今日は宴だと、祭りの準備をする始末・・・・
あの三人、どれだけ仲が悪かったんだ?
それはともかく、早いところ変換魔法について教えて貰わねばとミウが改めて三人に話しかけた。
「変換魔法について、でしたら、その。今夜が良いと思いますわ・・・」
ミラがいつも以上にそわそわして言ったのに対して。
エラは魔女のハットの爪先をやたりと触って「そう、だね?」と何かを意識したような口振りである。
長女のサラは「え、ええ・・・」と一番頬を赤らめていた。
それに一番目を引くのが・・・・
(((こ、恋人、繋ぎ・・・・!?)))
明らかに先ほどまで、険悪だったムードは一変。
災厄の’宣告‘によってめでたく三つ子はデキてしまった・・・・それも一線を越えそうなほどに。
「そ、それより!ミラ。あなたは元がいいんですから、もっと肌を大事にした方がいいわ!わたくしの化粧品を使いなさい。」
「あー、サラったら、ズルい~♡ミラにはもーと似合う服だってあるのに・・・・それにサラも私に構ってよー」
「二人ともヒ・ド・イ!私もエラとサラのためにやりたいのに・・・・なら、変換魔法の講義まで時間あるし?その、初めての‘初夜’━━━二人なら、いいよ?」
「ええ、望むところですわ♡」
「もちろん、どんとこいだ♡」
ミウたちが長い夜が来るのを待つ傍ら、バーヤの村人たちの急な祭り騒ぎの声に混じって三人の魔女の嬌声がかすかに響いた。
「では、変換魔法について説明するよ?」
妙に艶かしい声色で艶々になった緑の髪を弄るエラがメガネが曇る勢いで言うのをどうにか、見ないようにして。
ミウたちは本格的な講義をとった。
まず、杖を持つミウとロックとウルフは杖の細かい振り方から詠唱をより早くしたり。無詠唱を叩き込んだり・・・・とまあ、ここら辺は変換魔法を得意とするエターナルやミッツ、炎将レイや災厄から手解きを受けていたので問題はない。
では何故、わざわざ魔女たちに会いに行って変換魔法を教えて貰うかと言うとそれはやはり神の国に行くための『架け橋』を作るためだ。
その魔法は代々、魔女たちしか使えないもので。
そう簡単には使えないようだ。
現に災厄が強制的にそうしないのがいい例である。
災厄がしないということは悪魔の契約に反するということ・・・・
加えて、それを実行するのも魔女から直接教わらないといけないからで。ここまで紆余曲折して、色々とあったが、後は肝心の『架け橋』の魔法のみ。
だが、三つ子の魔女たちはきょとんとした顔で各々がこういった。
「今のあなたたちなら、もう使えるはずですよ?」
「だって、魔女から変換魔法を教わった時点で資格は得てるし?」
「それさえクリアすれば、後は簡単でしてよ?」
つまり。
「任務完了、だな?」
ロックのどや顔にリンバラが引き気味になるも。
つまりは魔女から簡単な手解きを受けただけで良かったのだ。
それが、こんな。
仲の悪い魔女たちのせいで散々振り回された挙げ句、災厄の力によって無理やり仲の良い間柄にしたと思えば、バーヤたちから感涙されて。
急な祝祭が開かれて、その裏では三つ子たちはただならぬ一線を超えて━━━━━
余りにもミウたちは手間を取りすぎたのだと実感した。
だが、まあ。
任務は果たしたのでこの村には用はない。
帰る前にミウはウルフの身体から離れた災厄に駆け寄り、耳元で『彼女たちを元に戻してくれない?』と頼んでみると以外にもあっさりと災厄は元に戻してくれた。
すると、先ほどまで仲睦まじい三姉妹が急に我に帰ったように激しい赤面と後悔と涙がこみ上げて来て。
祭りムード一色の村に大きな爆発を起こした。
まるで、全てを爆散してキレイさっぱり忘れたいと言わんばかりに。
それに乗じてミウたちはひっそりと何も見ていなかったとバーヤの村に背を向けて人間国家へと帰っていった。
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