天使と悪魔、反転
「大天使イヴ様!イヴ様自らが我々を助けようなど......」
「話はあとです。時期に愛殺しの蛇が本格的に攻め立てて来ます。今のような生易しい攻撃じゃすみませんよ」
大天使イヴが胸元に両手を添えるとかすかなる暖かい気持ちがイヴの身体を行き渡り、それを力へと変えていく・・・・・
あの日。愛殺しの蛇にそそのかされ、大きく歴史を変えてしまった事は悔いがないとは言わない。
けれどもあの時、アダムと━━━━グランとの最後のキスをして。もう何億年も経つと言うのに、その愛は変わらず枯れ果てるどころか年々強くなっていて。そう、それが‘天使である私の身体に悪魔の力を宿す’くらいに・・・・!
「な、何と言うお姿....!」
『嘘だろ?どうして天使である神が、悪魔の力も持っているんだぁ......!?』
「ふふ、愛情とでも呼んで下さい♡」
大天使イヴは悪魔と天使のフォルムを纏って。つぶらな瞳でウィンクをした。
そしてそのまま東西の護衛の援護を天使たちに任せて空高く愛殺しの蛇へと白黒の羽を散らして見えなくなってしまった。
グランが地上から離れて少し経つ。
目の前には憎き因縁の蛇がグランを嘲笑うかのように浮遊してをり、時期に接触するだろう。そんな時に炎将レイの言葉が脳裏に過る。
『致命傷を与えることができても、それだけです。愛殺しの蛇はすぐに治癒されますし。例えグランさんでも勝てません。分かってて死ににいくようなものです』━━━━━━
分かっているさ。我の力だけでは倒すこともできない......だが。
「天使の力も使えればの話だがなぁ!」
グランの肉体に暖かい血の温もりが行き渡る。
それは遠い遠い過去の話。初めて二人が出会い、引き剥がされた瞬間━━━キスをした。
その時にほんの僅かな天使の温もりを受け取っていたのだ。その愛は何億年もの月日が流れても衰えず、高まるばかりだった。そして、グランには分かっていた。彼女がイヴが近くにいると。
そして目的も考えも一緒であると。
愛殺しの蛇との距離が間近に迫ろうとした正にその時に悪魔と天使の翼が交わった。
「いくよ、アダム」
「いくぞ。イヴ」
『審判!!』
瞬間、辺りは光に飲まれた。眩い咆哮から初めて蛇が悲痛な呻き声をあげる。蛇の血すらも無に変える力と心臓を食らう血の呪いを合わせた攻撃は即死とまではいかなかったがかなりの打撃を与えた。
そして愛殺しの蛇という人間から見れば大きな城塞か隕石の塊が落ちて来るように人間国家へと大きな爆音とクレーターを残して。
『よくも、よくも僕を辱しめてくれたねぇ!?人間如きがあぁぁぁぁ...!!!!』
だが。
『これは、‘例の場所’の......!?』
愛殺しの蛇が人間国家に降り立つのと同時に待ってましたとばかりに例の場所から幾つもの鎖が愛殺しの蛇を捕らえていた。動けば動くほど、鎖が絡まっていく......
『アダムとイヴ!最初から人間共に肩入れしてたのか!?何故だ?神をも越えるお前等が何故?』
「答えてあげる、その神様たちが私達に味方をする理由を東部隊隊長ムーン・ジャスティスミウがね!」
『ミウ.....?ああそうか、あの時の。災厄のせいで一度殺しそびれた‘あの’?』
「そうよ!もうあなたに勝ち目はない。大人しく降伏しなさい!私だけじゃなく、ロックくんやリンバラちゃんだっているんだから」
『思い上がるな、人間。アダムとイヴを仲間に引き入れたのはいいが奴らだけでは僕を倒すことはできない。勿論、他にいるグレイや神々たちも同様に。致命傷すら.....ほら、この通りすぐ治る!!災厄や閻魔大王はイレギュラーだが、血を分けた僕とは戦いたくはないだろうし。悪魔としての立場もある。よほどの事がない限り家族も加勢には来ないだろう?』
「だとしても、あなたを倒せるとしたら?」
『はぁ?』
「僕たちがこの剣を持っていても?」
『ん!そ、それは...!?』
「そう、リンバラちゃんが持っているスノーライトの剣とロックくんが持っている達磨殺の剣はどれも悪魔三将のスーとレイが契約の記しとして変化したもの。それもあなただけを倒せる武器として━━━━可笑しい話よね?なぜあなたが近くにある脅威を潰さなかったのか。いや、‘潰せなかった’としたら?」
『・・・・!?』
『そう、アダムが後に悪魔のグランになったように。血を分けた実の兄弟の災厄が悪魔の親玉になったり.....あなたの身体にも流れているはずよ。悪魔としての契約の血が、ね?』
『なるほど、だからそれほどまでに自信がある、か。確かに血の契りはともかく幾度も災厄に行動を拒まれていたのは事実だ。その時に契約の穴をこじつけたのだろう。だが、まだ‘足りない’。あの女の━━━ムーンライトの剣がなぁ?』
「・・・・」
『それとも言われたか?お前にママのおもちゃはまだ早いってなあ!?』
ミウの鞘がびくびくと揺れ、正に剣を取ろうとした時。ロックの緊迫した声が漏れる。一瞬、ミウを呼び止めようとしたのかと顔を半分振り向いた時だ。
リンバラが剣を片手に宙を舞った。
狙いはやはり、愛殺しの蛇、今ならば話に隙を突かれ油断が生じる。だが、その油断したはずの愛殺しの蛇は実に奇妙に微笑み言葉を口にした。
『毒楽園狂曲♪』
瞬間、辺り一面に毒の煙が街を襲った。
飛び込んだリンバラも毒煙に巻きこまれる。だが、幸いにもリンバラも剣の力を使って防いでいたようで。氷の壁を伝ってミウたちの場所へと戻り、援護した。
だが、煙から見えたのはいつもの街の姿ではない。赤い夜空を纏いどこか血の匂いがする空間━━━正に愛殺しの巣である。
周りには愛殺しの蛇が殺したであろう死人がうようよとさ迷い、愛殺しの蛇をサポートしているようにも見えた。
「以前、ミウさんのお義母様が月将の幻覚を使った時に似てますね」
「似てるなんてものじゃないわ、ロックくん。この牢獄では愛殺しの蛇が全ての権限を握っているわ。例えそれがアダムやイヴ、災厄クラスの敵が相手でも歯が立たなくなる・・・・愛殺しの奥の手だって」
「詳しいですね...もしかしなくても災厄から?」
「ええ、だからこうなった時のプランは━━━━」
「吾を呼んで、時間を稼ぐ......だな?ミウ」
『災厄...!!?』
「話は聞いた。後は吾に任せるといい」
「でも、どうやって?」
リンバラの素朴な疑問に災厄は「簡単だよ」と口角を上げて呟いた。実に嫌な表情で。
「ここに閻魔大王の雛鳥を召還する。お前たちは一分時間を稼いでくれれば、召還出来る」
「召還って言っても、閻魔大王そのものを出すのは難しいんじゃ......?」
「ああ、それにミウさんの所持している魔教人童謡説には閻魔大王が臨界に出れば地獄の管理がおろそかになるからかなり危険だと━━━━」
「誰が閻魔は一人‘しか’いないと言った?」
『!?』
「確かに閻魔大王が地獄の管理をおろそかにすれば、囚人は荒れ果て、この世とあの世が壊れてしまう・・・・だが、それは閻魔大王が一人しかいなかった場合━━━地獄を管理する雛鳥とは別に先代も生きている。先代の首を掴んで玉座に座らせれば、何も問題はあるまい」
『なんてめちゃくちゃなことを......』
呆れて思わず、同じことを口にした三人。だがこれはありがたい。閻魔大王の力も得られるならば、かなりの戦力差が得られる。ロックとリンバラも災厄の周りを死守する形で陣形を取る。
ミウもすかさず、陣形に入ろうとした時、災厄が意外な提案をした。
「ミウ、お前はここを離れろ」
「ど、どうして!?」
「例え雛鳥を呼んだとしても召還出来る時間は一分だけ。それだけでは愛殺しの蛇を討伐はできない!だから、ミウ。ミッツ・ジャスティス・ミウのところへ行くんだ!あいつを倒せるのはムーンライトの剣しかないんだ。時間を稼ぎ、閻魔の力で毒楽園狂曲を破壊してその間にムーンライトの剣を手に入れろ。何、相手はミウが好きで好きで堪らない母親だ。何も心配はいらない!途中までの道にウルフやエターナルもいるはずだ。あの二人なら心配はない。いざとなれば例の場所に逃げろ。お前が頼りだ。お前だけに死なれたら、今度こそ吾は討伐される━━━━行け、ミウ」
長い災厄の叱咤の声にミウは走っていた。それを災厄にして珍しくいきいきとして。
リンバラもロックもどことなく、いきいきとしていた。そして━━━━━
「行け、閻魔!」
閻魔大王が召還された。
「ねえ、レトゥー」
「?何でしょうか、ミウ」
いつもの時間で夜中のベッドに寝そべりながら。
ミウは魔教人童謡説にある権能、一分時間を通して今は亡き明日の便箋師レトゥーとの対話に花を咲かせていた時のことだ。
何気にミウが以前、興味本位でページをめくった時に気がかりな内容が童謡説に記されていたので。
それを書いた張本人に聞いたという訳である。
「昨日、童謡説を見た時のことだけど。その中に『孤独な月』って変な話が書いてあったんだけど...あれってレトゥーが書いたの?」
「ええ、書いたのは私ですが.....その話は大分前に作られた有名な童話を書き記しただけです。良かったらお聞かせしましょうか?」
「いいの!?」
「はい、喜んで」
それからレトゥーが消える時間内で、『孤独な月』の序章が語らた。
━━━━昔、あるところに。
火と水と月が仲良く暮らしていました。
火は人の暮らしと地中の恵みを届けて、
水は惑星と生き物の命を繋いで、
そして月は全ての者に安息な眠りを与えて、
それぞれがそれぞれに出来ることをしつつ支え合っていました。
しかし、
ある日を境に人々の喧嘩が盛んになり、地中の恵みも悪くなりました。
火は驚きました。あれほど仲の良かった人々が急に喧嘩をしだしたと思えば、大地の恵みも悪くなったのですから、火は誰かがそうなるように仕組んだのではないか?そう、思いました。すると━━━
やあ、どうやら困っているみたいだね?
火が頭を抱えていた時、突然親切そうな蛇が話かけてきました。
蛇は親切丁寧に火の困り事の相談にのり、一つ一つアドバイスをしました。そして次第に火は蛇の言うことが全て正しいと思い込むようになりました。
その様子に蛇は笑ってこう呟きました。
それをやったのは水のせいだよ、と......
火の様子が変になってから、しばらくして。
今度は水にも変化がありました。
ある日を境に急に水のめぐりが悪くなり、沢山の生き物が死んだのです。
それにより、惑星はどんどん衰え。次第に生き残った生き物たちは一滴の水のために争うようになりました。
水は大変、こころを痛めました。
恵みをもたらすことが逆に響いている。
そんな中です。あの蛇が現れたのは━━━━
お困りですか?宜しければ仲裁しますよ。
蛇は生き物たちの仲裁に入り、まるで先程までの争いが嘘であったかのようにしんと静まり返りました。
水は大層驚きました。そして、そんな恩人である蛇の気さくな性格にこころを惹かれるようになりました。
するとすぐに水は蛇の考えに浸透し、蛇意外の考えにしか信じられなくなりました。
そして蛇がいいます。
悪いのは火ですよ、と。
月は悩んでいました。
あれから火も水も人が変わったかのようにどこか張り詰めていて、それ以降遊ぶこともなくなりました。
その頃から周りにも変化がありました。
人々は血を浴びた戦争を愛し、地中はマグマが沸き立ち。惑星は死にかけ、生き物は互いを殺し合うようになりました。
それは月にとっての‘恐怖’でした。
正確に言うのであれば、それは脅威です。
それからは安息である夜すらも人も生き物も皆、休むことなく騒ぎどこかやつれていました。
そんな時です。
愛想笑いを浮かべたあの蛇が月に近寄って来たのです。
蛇はいつものように言葉巧みに月を惑わします。
けれども月は蛇の言葉に耳を持ちませんでした。
何故ならば、月にはヒトのこころを見透かす力があったからです。だからすぐにこの蛇が全ての元凶だと悟ったのです。ですが、見透かす方では蛇のが上手でした。
蛇はわざと月に近づいて、ある二人の人物から目を反らしたのです。
それが火と水でした。
火と水は完全に洗脳されて、月めがけて殺し合いました。酷かったです。一方的な争いの果てに残されたのは月だけでした。
焼き焦げた空っぽの星で、月は孤独になりました、とさ━━━━━
「以上が話の全貌です」
レトゥーが長らく語り終え一時の余韻が生まれる。
ミウは実に複雑で不服そうな顔をしていた。
それにはレトゥーも気づいていて、『孤独な月』の文字を撫でた。
「確かに、作品てして実に悲しい話です。ですが、これには続きがあるんです」
「続き?」
「はい、それが━━━━」
長い回想の後、息を切らして走るミウ。
そして、見慣れた顔が二人いや三人もいる。
一人は最愛の父エターナル、次に義理の兄ウルフ。
その中央にミウたちが必要としこの戦いの鍵になる人物。
「ミッツ、お義母様......!」
ミウの背中が見えなくなった直後、災厄の詠唱が全て吐き出されて。
「閻魔、召還」
すると辺りからまがまがましい地響きと共に大きな魔方陣から巨人のような男━━━閻魔大王がぐるりぐるりと現れ、和太鼓の演出を観ている気分だった。
その迫力と力はリンバラやロックにも伝わって来る。
確かに‘これ’は敵に回したくない相手だな、と。
閻魔大王の全貌は愛殺しの蛇と同等の大きさで。
いわば怪獣同士の対決とも言えよう。
災厄は召還するや否や片手を挙げて、「行け」と言った。
それに答えるように閻魔大王は愛殺し目掛けて渾身の頭突きを繰り出して。
負けじと愛殺しも頭突きで返した。
その瞬間、辺りに凄まじい爆風が鳴り響いた。
耳を押さえていないと鼓膜が破れそうな騒音だったが、災厄は以前としと平気そうである。
その影響か、愛殺しの蛇が創った毒楽園狂曲に小さくヒビが生じた。
毒楽園狂曲ではどんな攻撃も神々すらも無に等しい。だが、災厄や閻魔大王、そしてムーンライトの剣であればその城壁を崩す事が出来る。だが、相手は愛殺しの蛇......
そう簡単には上手くいかない。
確かに城壁を崩すことは可能だが、それを‘三回も’繰り返さないといけなかった。
それも一人一枚崩すのが限界で━━━━閻魔大王と災厄、ムーンライトの剣を使ってギリギリ破れる訳だ。
それから弱体化した蛇を相手にするのも骨がいる。
だから。
「殺れ」
「閻魔ノ右腕!」
閻魔大王の右ストレートが愛殺しの蛇の顔面を屠った。その瞬間、愛殺しの蛇から大量の愛憎の感情が漏れだし、一枚目の結界が破られた。
続け様に二枚目の結界にもヒビが生じた。
「閻魔ノ両腕落トシ《フルアタック》!!」
続けて閻魔大王が渾身の攻撃をした。
時間としてもこれが限界だろう、しかし。
『・・・・調子に乗るなよ!?小わっぱがぁぁ!』
愛殺しの蛇があらかじめ、予測された位置に防御魔法を張っていたのだ。見事に攻撃を交わした段階で閻魔大王の胴体はがら空きで、見事に毒の攻撃を受けてしまった。
閻魔大王が倒れる瞬間、愛殺しの蛇は忘れていた。
決して油断してはならない血を分けた兄弟の存在を━━━━━
『!?ッぐはぁ...!?』
「少々、本気を出させて貰った」
災厄が長い火縄銃で愛殺しの腹部を撃ち抜き、見事に二枚目の結界を破ることに成功したのだ。
変わりに横になった閻魔大王━━━雛鳥によくやったと目で訴えて、雛鳥は時間切れで地獄へと帰って行った。
「まさか、また。ここに座る日が来ようとは.....」
地獄の果てで先代の閻魔大王は赴き深く呟いた。
いつだったか、もはや覚えてはいないが。
先代が当時まだ小さかった雛鳥を育てて、囚人を裁いていた時に死又はx、災厄と呼ばれる悪魔が現れた。
ヤツから発せられる覇気からはまるで死神の如し。
いわば、無敵だと先代は思った。
だが、そんな無敵な存在は意外にも中立的で。
悪魔だからか色々と制限があるらしい。
災厄と初めて交友を持ってから色々と互いのことを知って行った。災厄がどのように産まれて、その兄のことを実は大切に思っていることやお喋りや紅茶が好きだとか.....
逆に先代は前先代の愚痴をこぼしたり、雛鳥のことになると過保護になること。閻魔大王として、任期を全うしたら雛鳥に閻魔の地位を譲り。その一貫としてこっそり袖口から仕事を見せていることなど.....
そんな何気ない付き合いから何年もたった頃には何でも話せる腐れ縁となった災厄と先代だが。ふと先代が災厄に気になったことを聞いた。
「今更だが、サイは何故地獄へと降りて来たのだ?お前なら死ぬことも負けることもない。不自由で無敵のお前が.....?」
「簡単だよ、’死‘を感じて見たかった...それだけさ」
「常軌の沙汰ではないな....」
━━━━━━━━━━━━
「先代を玉座に座らせ、雛鳥を戦場に駆け出すなど......正気の沙汰では、ない...はぁ」
先代は静かに頭を抱えた。
「お義母様...!」
「ミウ━━━来て死まったか。やはり、最初からミウを戦場に立たせるべきではなかった....」
「!?だとしても、私は!私自身の意思でここに来たと思う!!ミッツお義母様、私と契約して...!」
「━━━━嫌じゃ」
「!?どうして?」
「簡単だろ」
「え?」
話に割り込む形で、隣にいたエターナルがいつも以上に真面目な顔をして。まっすぐな眼でミウを捉えて言った。
その顔は一人の騎士としてではなく、一人の父としての顔だった。それがどういうことで、娘をどのように思っているかは一目瞭然だった。
「誰だって、自分の子供には無理はさせたくないし。ましてや戦場に送り出すんだ。抵抗しない方が無理がある。」
「で、でも!パパやお義母様だって私のことを今まで命がけで守ってくれて━━━━」
「当たり前だよ」
「・・・・ウルフ、兄さん?」
今度はエターナルの隣にいた義理の兄、ウルフが声をあげる。その顔は実に覚悟に溢れていた。
「僕がサイと契約してることや天使のエッグから洗礼を受けたのも全てはミウやクイニー母さんにお父さん、ミッツお義母様に仲間のリンバラちゃんやロックさん、それに街の皆さんだって.....!僕はもう、目の前で大切なものを失いたくはない!!だから、ミウの気持ちも分からなくもない、けど。それ以上にミウ、お前が大事なんだ。もっと自分を大事にしてくれ」
「・・・・分かった、これ以上ミッツお義母様にムーンライトの剣のことは迫らない。けど、私だけじゃ力不足だし。勝てるかもギリギリで...だから!助けて。私とみんなに力を貸して?」
『うん。分かった。うむ。』
「はああああああ!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」
一方で、愛殺しの蛇を相手にリンバラとロックは苦戦を強いられていた。
リンバラが握るスノーライトの剣はどんなものでも凍らす程の冷気と鉄壁の防御を誇り、ロックの達磨殺の剣は街一つを焼き尽くす火力を誇り、所持者の消耗と集中力が上がるにつれ力を出す。
それほどまでに強力な剣を使ってもやっと結界の一つにひび割れさせるくらいだ。
流石に骨が折れる。
「首よ曲がれ」
瞬間、災厄が言葉を念じてすぐ愛殺しの蛇がごきりと物凄い音を立てて身体が変形したのが分かる。
だが、愛殺しの蛇は長年溜め込んだ愛憎の力で直ぐに再生してしまった。
「念じるだけで攻撃できるなら、死ねとか適当に言って倒せないんですか?」
リンバラの受け答えに災厄は直行で「無理だな」と即否定した。
「悪魔としての立場がある。それに契約上の理由もある。それに...」
「分かりました。ミウさんが来るまでサポートお願いします」
「・・・ああ」
(リーク、聞こえるか?)
(うわっ、びっくりしたわい!災厄か。なんじゃ今は例の場所の管理で忙しい。手短に頼むぞ?)
(ああ、今。吾が視ている方角にごく小規模な例の場所の扉を繋げてくれ)
(小規模な扉...?それに視ているってアイツは愛殺しの蛇!災厄、お前は一体何を企んで━━━━)
(早くしろ)
(・・・・分かった)
時の番人リークが災厄の要求を飲んで、愛殺しの蛇にごく小規模な例の場所の扉を開いたとたんに扉から何かを蛇に埋め込んだように見えた。
そしてすぐに例の場所は閉じられ、何かを埋め込まれた愛殺しの蛇には痛くも痒くもないと言うかのように
隙だらけの災厄を押し潰そうと━━━━
『んん?何だ?‘鎖’?』
突如として愛殺しの蛇を鎖のようなものが捕らえた。
だが、例の場所の束縛にしては余りに禍々しく。
威力が桁違いだった。
さらに。
「蟲喰時計!」
その瞬間、空高くに大きな時計盤が現れたかと思えば余多の蟲たちが愛殺しの蛇の肉体を喰らい。
時間を屠り出した。
エターナル・ジャスティス・ミウとミッツ・ジャスティス・ミウが災厄たちの援護をし。続け様にウルフも剣の猛追を追わせて、更にその援護と言わんばかりに魔教人やグレイ、未来神AI・キョムの遠距離攻撃が毒楽園狂曲の三枚目の結界に大きくひび割れを開けた。
『・・・・・』
「いよいよ終止符か」
とエターナルが口ずさんだ時だ。
愛殺しの蛇が小さく、だが決して揺るぎない決意をあらわにこう呟いていた。
『どいつもこいつも、ミウミウミウミウ...!そんなにこんな小娘が大事か?なら、見せてやる。この女の無力さを...!!』
『!?ミウ、危ない.....!!』
刹那━━━━皆の悲痛な叫びが届く前に愛殺しの蛇の小さな結界がムーン・ジャスティス・ミウを捉えて。愛殺しの蛇と共に闇へと消えてしまった....
ここは...?
『ようやくお目覚めか、ムーン・ジャスティス・ミウ』
あなたは愛殺しの蛇!
という事はまだここは毒楽園狂曲の中?
『いいや、これは更に深い城塞━━━貴様の精神と肉体を食らうための結界だ。こうしている間も貴様は死に近づいている。己の無力さを感じながらな!』
それでも私はここから出て、あなたを倒す!
『無理だ、なんならやって見るかい?』
言われなくても、ハアアァ...きゃっ!?
『ここではどんな攻撃も無意味だ。ましてやムーンライトの剣も持たない貴様では...さあ、死ぬがいい。ムーン・ジャスティス・ミウ!!』
「そこまでじゃ」
絶体絶命のその時、愛殺しの蛇とミウが対峙する空間に別の見知った声が響く。
長い長髪と貫禄のある風格、悪魔月将と上位裁判官の地位を誇り。ミウの義母に当たるミッツ・ジャスティス・ミウが愛娘のために助太刀に来たのだ。
お、お義母様!?一体どうしてここへ?
「最愛の愛娘のために駆けつけないで何が母親だ。ここからミウを助けに来た!」
『何が助けて来ただ?所詮は一人増えただけ...同じように屠ってやるよ』
「忘れたか?わらわの本当の姿を━━━━」
ミッツが愛殺しの蛇にほくそ笑んで、愛殺しもそれを察したように。ミウの手元にはミッツと入れ替わる形で光の粒子の線が凝縮され、みるみる内に淡い美しい銀色の剣が姿を現した。
ムーンライトの剣。
愛殺しの蛇を倒す最後の武器である。
『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!く、糞があぁぁぁぁぁぁ!?』
「ミウ、心を落ち着かせゆっくり瞳を閉じよ。さすれば見えざる者も切り落とせる」
「うん」
瞳を閉じ、心を落ち着かせ暗闇になる。
小さくそして小さく、魔の元凶を捉えて切り捨てる!
瞬間、ミウを閉ざした結界が破れ。大きく壊れた結界から人間国家の仲間たちが顔を見せて、愛殺しの蛇を吹き飛ばすと同時に最後の結界を破った。
だが、愛殺しの蛇はまだ生きている。
あれだけ戦ったと言うのに━━━━
「ここからは持久戦じゃ、ミウ。どちらが先に倒れるかの踏ん張り所じゃ!」
「うん、でも。もうみんな体力の限界だし...災厄は他の神々もこれ以上は立場的に戦えないし。一体どうしたら.....」
確かに持久戦で踏ん張れば、愛殺しの蛇を倒せるかもしれない。だが、そうじゃない。もっと他に━━━━
「『孤独な月』?そうだ、童謡説!魔教人童謡説ならレトゥーが....あれ?返事がない。どうして?これは━━━━━」
魔教人童謡説の最後の一文には‘三つの剣’とだけ書き記されたメモだけがあり、そして目の前には頼れる仲間の二人がいた。
「・・・・ロックくん、リンバラちゃん」
「はい、ミウさん」
「俺たちも同じこと、考えてましたよ」
「勝負は一度きりよ」
「上等です!」
「了解」
『人間如きが、神を超える者に歯向かうなど...!合ってはならぬ!?』
『合わされ!三つの剣よ!火と水と月の悪魔たちよ我らに祝福の賛辞を与えたもう!全ては真実を捉えん!眼の元凶を打ち払え!!』
三つの剣が一つとなり、白い光の諸刃の剣となって全ての元凶の喉元へと矢の飛んでゆく。
激しい攻防の衝突の叫びが今、決する。
『認めない!只の人間無勢が神を超えようなど!?ありえぬ、ありえぬ、ありえぬ、ありえないいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ...!?!?!?!?』
最後の言葉と共に愛殺しの蛇の霊力が消滅し。
人間国家の勝利の歓声が決着を物語った。
『に、にん、間ドモめ...!僕は生きている!弱体化してミジンコ程度の身体になったが。いずれ、また、貴様ら、を━━━━!?』
密かに息を忍ばせていた愛殺しの蛇を背後から撃った者がいた。死又はx、災厄である。
災厄は小型銃で愛殺しにトドメを刺し、やれやれと頭を掻いた。
「やはり、お前は渋いな。あらかじめ例の場所の扉から‘契約痕’を撃って正解だったよ。お前が弱体化すれば、契約痕でお前を服従させることができる。ましてや吾よりも再び強大になっても服従の呪いは解けない・・・来い、俺の兄弟として」
災厄の言葉と共に愛殺しの蛇の亡骸がみるみる形を変えて災厄の薬指にまるで指輪のような出で立ちで。
愛殺しの赤い瞳がぎょろりと輝いた。
そのタイミングで災厄の隷属者ウルフが慌てて駆けつけた。
「サイ、ここにいた!探したよ?やっと愛殺しの蛇を倒すことが出来たって。報告しに来たけど.....サイ、その指輪みたいなのは何?」
「いいや、ただの‘見せしめ’だよ?」
その不可解な言葉に頭を傾げながらもウルフは災厄と一緒に皆の集まる場所へと溶けていく....
その時、災厄の指輪の蛇がこちらを見たような素振りを見せながら・・・・夜になった。
夜に考古学者のノウズ・オールドは静かに月を仰いでいた。愛殺しの蛇との決戦から一夜、ノウズ・オールドは傍観を貫きただ見ていた。
それほど‘価値のない’戦いだったからだ。
そしてそれ以上、ノウズ・オールドは他言せず。
片手で‘月を掴むような仕草’を真似てから、手をしまい。何も言わずにその場から去っていった。
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