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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第四章
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墜ちて来た因縁


「ぐわわわわわわわわわああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?」


「ん、何だ!?」


「愛殺し...!?」


中央の布陣を固めたミウたちの目の前に突如、爆弾とも呼べる断末魔が地面のクレーターを抉った。一瞬、愛殺しの蛇が直接仕掛けて来たのか?と思ったが違う。どうやら誰かが吹き飛ばされて来たらしい。



「がっは、がっは。クソ、愛殺しの蛇め!この距離からでも一発......!」


「悪魔中層幹部グラン!まさか、混乱に乗じて人間国家を襲いに!?」

ロックの焦燥と共にリンバラとミウも体勢を整える。無論、手元には炎将レイと水将スーが剣となって握られている。

グランもミウたちの殺意に気付いて初めて眼を合わせた。この邂逅は王都で乱戦して以来の空気感だった。だが。


「悪いが、今はお前たちと遊んではいられない。大人しく玩具の剣を持って見ていることだな」



『そいつはどうですか?グランさん?確かにあんたならあのどでかい蛇に風穴の一つくらいは開けられるかもしれません━━━━━ですが、‘それだけ’です。巧く急所を得たとしても今のグランさんじゃすぐに死んでしまいすし、何より。愛殺しの再生能力と権能で即無傷になるはずです。それはグランさん自身が一番分かっているはずです』



「そうだな、レイ。お前の言う通りだ、このまま戦ったとしてもあの蛇を止めることはできない......だからといって、墜ちて来た因縁を見過ごせる訳がない!アダムとして生まれ、悪魔として生きて。最後にイヴに顔向けもできないなら━━━━我はその因縁に蹴りを着けに行く」


『グランさんらしいですね、私からはもう止めめせん』


「ああ、すまない......」


その言葉を最後にグランは天高くへと飛躍した。

炎将レイも何かを言いかけて、言葉を詰まらせていたが。それにロック・サンダースが剣となったレイの鞘から何とも言えぬまどろみを帯びた熱を感じて。


「けど、良かったのか?仮にも元上司に最後かもしれない言葉をかけなくて」


『そんなものじゃ、グランさんの気持ちは計り知れない。只、その役目は他の‘誰か’にふさわしい』


「そういうもんか...」



南方、災厄及びウルフ・ジャスティス・ミウはたった二人の勢力で布陣を任されていた。

それだけ二人の力が絶大で、ミウたちの最後の切り札たる所以でもある。

ウルフはこれからの激戦で内心、そわそわしていたものの逆に災厄の方は至って落ち着いていた。

それに対してウルフが両手に息を吹きかけて話す。


「でも、こうしてサイと身体を隔てて行動するのも久々な気がするね?いつもは僕の身体を使って行動するのに。あまりリスクを負いたくないからって言ってなかったけ?」


「隷属者とあまりにも隔てて行動すると契約のペナルティが発生する。出来ることなら契約破棄にはしたくないからな。だが━━━━上にある馬鹿を何とかせねばならないとなれば、話は別だ。仮にこちらに攻め込んできてもあの馬鹿は我々には勝てないし、ましてや我々も勝てない......だが、それまでに対策は万全。断言する、愛殺しの蛇は我々には勝てない。ましてや我々が負けることもあり得ない。これは私の具現化の力ではない、必然だ。だから気にするなウルフ」


「うん、サイがそう言うなら大丈夫そうだ」


「それに最悪、町やウルフに危害が加わり。吾の助力が得られない場合には雛鳥の閻魔大王と家族ミックスの援軍を控えさせてある。後は彼らに任せよう......ムーンライトの勇者たちに」



東西、グレイ、魔教人、レッドライ騎士団、未来神AIキョム。


彼らは未だに慌ただしく揺れ動いていた。

混乱と仲間割れの中、どうにか連帯し。空をも大い尽くす蛇めがけて攻撃の音が止まない。

大砲や銃撃、教会魔法に禁術、グレイの攻撃に未来神の超次元的攻撃にも未だに歯が立たない。


「くそ!もう弾薬が尽きた。一体、どうやったら......」


「喋ってる暇があったら、とっとと弾を補給しろ!デカイのが来る。至急詠唱の準備を━━━━」


『く、今更ながら。人間と手を組むことになるなんて━━━━それもましてや愛殺しの蛇を相手にするだなんて。クソゲーにも程がある。我々の攻撃も皆無に等しい.....未来神様もそうか』



『$#*^§`{µ ²こう、±¿;げき、¬«きかな«い?』



彼らも決して弱い訳ではない。一人一人が精鋭で、武術に魔術、そして地球外生命体とその神々の力を以てしても愛殺しの蛇には痛くも痒くもないのだ。

時期に愛殺しの蛇から反撃が来るのも時間の問題......多少なりとも時間稼ぎはしなくてはならないし。それに、彼らは決して愛殺しの蛇に傷を負わすことはできないとは‘思ってはいなかった’。


『うぅん?』


突如、愛殺しの蛇の鱗にひび割れが生じて。

あたかもワインが割れたかのように血を吹き出したのだ。これには流石の愛殺しも驚いていた。


「いくら頑丈と言えど、同じ場所を集中的に攻撃すれば自ずと穴が開く。戦の基本だ」


だが。愛殺しの蛇はたかが外れたのか、血を吹き出すのも構わず大いに笑いこけた。

それは人間国家中に響き渡るほどの咆哮で━━━━


『!?...隊長!?あれを!』


『ん、何だ。あれは!?』



それは小さな地獄とも言うべきか。

愛殺しの蛇から放出した血液が突如として霧散し。

辺りの空という空を覆い尽くした。その霧散した血の霧に触れた渡り鳥は惨たらしく大地へと墜ちてゆき、草木や水面は真っ黒に腐敗していく......

これは災厄があらかじめ説明していた愛殺しの権能。

数億年の歳月をかけて、人々の愛を食らいつくし。

腐敗した人間の愛情を吐き出す━━━━漠然とした能力だが改めて実感する。

これはヤバい、と。



「退避ー!!退け、退けぇぇぇぇ!?」



『〈〈〈〈〈〈〈〈〈盾〉〉〉〉〉〉〉〉〉〉』



『貴方がたは、天使!?ということは......』


「どうやら間に合ったみたいですね」


そこには天使の配下を引き連れた大天使イヴが彼らの前に助太刀し。猛毒の血から街を守った直後だった。



北、ミッツ・ジャスティス・ミウ、エターナル・ジャスティス・ミウ、クイニー・ジャスティス・ミウ、時の番人リーク、大天使イヴ。



「えぇ?東西の援護に行かれるのですか?」

例の場所から市民を避難させて、万全な布陣を誇る鉄壁の教会で時の番人リークは大天使イヴがそんな突拍子もない発言に腑抜けにもそんな反応をしてしまった。

無論、イヴとてそれは分かっているはず......

最強の要たる教会の神が何故そのように言ったのか?

遠からず、リークの予想は当たっていた。


「東西の方角で愛殺しの蛇が動く頃合いかと、それに援護と言っても守るだけです。後は配下の天使たちに任せるつもりです。ここの教会は既に磐石のものですし、貴方やノウズなら大丈夫ですし。それに━━━━嫌な予感も少しあります......愛殺しの蛇に誰かが、大切な人が消え失せてしまうような。そんな予感が......」



「分かりました、くれぐれもお気をつけて。分かっていらっしゃることは重々承知して尋ねますが。敵は強大、神々の力を集っても決して叶わぬ相手です。どうか無理だけはなさらないで下さい......」


「ええ、分かっているわ━━━〈空間跳躍〉!」


「イヴ様、どうか目先の因縁に気を取られず。そして愛しのアダムと旅立たないようお祈りしてをります......」



時の番人リークはそう呟いた後、かの神話アダムとイヴの次頁の空を眺めて。教会の窓を閉めた。




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