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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第三章
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天秤の女神

「・・・・・・っな!?」

時を遡り。天空高くに聳え立つ魔王の城にて吸血鬼族と龍神族、そして魔王デンスが見つめる先に先ほど魔王デンスが倒したはずの黒竜と入れ替わるように煙の中から現れたのは露もない姿の女神だった・・・・・・

唖然と驚愕に包まれた一同を真横に置いて、魔王デンスが裸体の女神に強く反応した。

「お前は見たところ純粋な神々に近しい存在だな?名を名乗れ」

それに裸体の女神がうにゃうにゃと寝ぼけ眼を擦りながら実につまらなそうに呟いた。

「なまえぇ~?なまえは~、天秤の女神ワワ・ジャッチ・・・・・ふわぁ~。もう自己紹介したし、寝ていい系?」

「ああ、好きにしろ」

「あんがとね~・・・・」

魔王デンスに言われなく、天秤の女神ワワ・ジャッチはあっという間に眠りに着いた。その呆気ない一連のやりとりに龍神族のラスト・エンペラーと若僧のソウが恭しく聞いてくる。

「魔王様、これはいったいどういうことですか!突如としてあの忌々しき黒竜が現れたかと思えば。目の前で眠ってらっしゃる方が神だとは・・・・・」

「同感だぜ?今までの動向もそうだが、魔王様にしたってこれは都合が良すぎる・・・・エンペラーのジジイ見たいな反応をするなって方が無理だ」

だが、それでも魔王デンスはいささか落ちつき過ぎている。まるでこうなることを読んでいたかのように・・・・・その千里眼探求ルツボの眼によって。

『・・・・!?まさか!?』

そこで皆、気づく。我々の主が如何に優秀でどれくらい家族ミックスを大切にする人かと。

そして魔王デンスには起源の生い立ち全てを見通すまるで予知のような強大な力を━━━━━━

「ワワ・ジャッチを捕らえよ、丁重にな?」


「クゥ~・・・・むにゃむにゃ」

丁重にワワ・ジャッチを拘束してからしばらく。天秤の女神様は相変わらず、眠りに着いたままで。空中でふゆふわと浮かんでいた。

その神秘的且つ、あまりにもシュールな現場に吸血鬼のスリー・ランカーは妙な汗をかきながら我らが主人。魔王デンスへと投げかける。

「にしても、まるで実感が湧きませんね。今目の前にいる人が神様で、しかも黒竜に取り憑かれていた・・・・なんて。今でもまるで全て嘘だったと言われる方がしっくり来てしまいます。それに━━━━━」

「いくら任務のためとは言え、裸の女性と魔王様が二人きりなのはその、私としても見過ごす訳には行きません!」

普段、表向きには見せないスリー・ランカーの表情はいつもにも増して真剣で。純粋なる乙女の一面でもあった。

その可愛らしい瞳をいつまでも観ていたくなるし、そっと口づけを待つ恋人のように見えた。魔王デンスはいつもにも増して眼を細めて、優しくスリー・ランカーの頭を撫でる。

「大丈夫だ、私がいくら他の異性に迫れようとも魔王デンスの意中は決まっている。それとも私が神如きの裸を見ただけで浮気なんて可愛げのあることはしない。それとも、私の口から言わねば分からないか?」

「/////!?いえ、その。はい・・・・ありがとうございます・・・・・////」

「ふふ、では楽しみはまた今度━━━━任務を遂行しようではないか」

「・・・・了解」

その瞬間から乙女な恋人は再び意識を改め、吸血鬼最強のスリ・ランカーへと戻るのだった・・・・・・


『・・・・・・・』

それからしばらく、魔王デンスとスリ・ランカーは天秤の女神から採取した黒竜の煙幕を閉じ込めた水晶とにらめっこをした後にぐつぐつと煮えたぎる水晶をじっと見ていた。

別に他にやることがなくて、暇をしている訳ではない。

魔王デンスには千里眼探求ルツボなる力が備わってをり、例えそれが道端にある小さな石ころでさえ。魔王デンスの眼にかかれば、その成り立ちが分かって終う━━━━なので、この千里眼探求ルツボは敵の脅しや心理戦、更には嘘も通用しない。

それが謎に包まれた黒竜と目の前に浮遊する天秤の女神ワワ・ジャッチを知る手がかりにもなる。

他者からすれば、ただ水晶を眺めているだけ・・・・・だが魔王デンスからすれば。現在進行形で世界の心理に近づく大事なことだった。

だからこそ、信頼の出来る部下が欠かせない。無論、家族ミックス全体のことは信頼しているし。仲間以上に本当の家族だと思うくらいだ。いや、だからこそなのかも知れない。

信頼しているからこそ言わずに置きたいのかも知れなし、だからと言って隣にいるスリ・ランカーにも迷惑はかけたくも無かった。

それでも、スリ・ランカーは魔王デンスの隣にいた。

何度言っても配下として当然の義務ですと聞く耳を持ちやしない・・・・・まあ、吸血鬼のスリ・ランカーは別の意味でそう言っているのかもしれないが━━━━━とにかく、出来る限りスリ・ランカーに無理を強いることのないようにとスリ・ランカー

には記録の係を任せた。

別に魔王デンスの頭脳があれば、記録もいらないし。何より千里眼探求ルツボによって一発だ。でも、これはこれで悪い気はしなかったし。配下であるスリ・ランカーを傷つけたくない魔王デンスの現れでもあった。

そんな寡黙を破くかのように水晶の気泡がぐつりと煮え滾った。

すかさず、スリ・ランカーに詳細なデータを伝言し。慌てて記録をし出す。そんなスリ・ランカーを見る魔王デンスの顔は優しく甘い色を帯びていた。だが━━━━━

『・・・・・!?』

突如として異変が起こった。黒竜の閉じ込められた水晶が暴走した訳でもなければ、スリ・ランカーの身に何かあった訳でもない。そう。

「うぅ~・・・・!」

天秤の女神ワワ・ジャッチが実に苦しそうなうねりを上げて、身体から‘黒竜の煙’を吐き出していた・・・・・・


「魔王様!これは・・・・」

「落ち着け、これは只の煙に過ぎない・・・・が。再び天秤の女神が暴れだすかも分からない」

「では早急に天秤の女神の始末を!ここは城内━━━━下手をすれば家族ミックスの全滅も有り得ます」

「ふ、考えすぎだ。スリ・ランカー。だとしたら私は天秤の女神の首を跳ねていただろう。最愛なる部下を巻き込んでまで研究などしない・・・・それにだ」

「この煙も天秤の女神も今は私の‘所有物’なのだからな?」

「・・・・え?それはどういう━━━━」

刹那、先ほどまで苦しそうにうねりを上げていた天秤の女神ワワ・ジャッチが今では大人しく寝息を上げているではないか!それに天秤の女神から溢れだしていた黒竜の煙も消え失せ、代わりに魔王デンスが研究していた水晶の中がよりどす黒くなっていた。

そう、魔王デンスが微々たる煙すらも水晶に収納したのだ。

そして、その水晶の中と天秤の女神ワワ・ジャッチの胸元には強い魔力の紋章が刻まれていた。

それを見た吸血鬼スリ・ランカーは全てを理解した。

魔王デンスが天秤の女神と黒竜を隷属させた、と。

聞いたことがある。魔王デンスの究極の拷問秘術、魔王拷問デーモン・ロード

千里眼探求ルツボによって捉えられた者のみを魔王の隷属させる拷問魔術。いかに神であろうと解くのは困難。完全に防御出来る者は限られていく・・・・・だが、天秤の女神と水晶に閉じ込められた黒竜は違った。完全に意識を奪われ、身を囚われ、魔王の千里眼探求ルツボの支配から抜け出せていない。正に魔王の奴隷である。

「やはり。魔王様は魔王様ですね・・・・」

スリ・ランカーは至極当たり前だったことに気づかされたのだった。




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