お待たせ致しました
「ったく、ミウのお義母さんもそうだが。かつての敵に良いように使われて先に交渉相手を横取りされるとか・・・・ミウさんやリンバラには言えないな」
「ふん、勘違いするな。今の関係性はあくまでも利害の一致に過ぎない。王都を進行した際に受けた傷を忘れはしない」
「まあ、あそこまで見事な首切りはわらわでも中々お目にかからないからのぅ?プライドが邪魔して、素直に協力出来ぬグランが悪い」
「・・・・・侵害だな?娘を心配する余り、悪魔としても人間としてもぼろが見え隠れする老婦が何を言うか・・・・・」
「ほほう?・・・・ふふふ」
「・・・・ハハハハハハッ!」
「悪いが、話はまた後にしてくれないか?炎将レイとのけじめがまだ着いていないし・・・・・」
とロックがやれやれと頭を掻いて場違いな気まずさを紛らわしながら言うと。ミッツとグランも思いの外、理解が早く本題の炎将レイについて語られた。
「そもそも、この世界には天使や悪魔と言った概念は存在しない・・・・・いや、存在してはいけなかったのじゃ。そこにいるグランが良い前例じゃろう。そこで、全てのいざこざを解消するために悪魔三将に白羽の矢が建てられた。レイも分かっているるはずじゃが、わらわ達三将は悪魔以外の役割をもつ。それこそが三将の剣━━━━水将スーのスノーライトの剣、炎将レイの達磨殺の剣、そして。わらわの‘ムーンライトの剣’を解放した選ばれし者が全ての元凶を討つ・・・・・そんな愛でたい大それた役目をな?」
「つまり、私は悪魔の力を最大限引き出した上で。そこにいるロック・サンダースとの契約に従えばいいんですね?━━━━ですが」
「最期に一つ、ロック・サンダースと手合わせ願いたい。契約出来るかはそれに尽きる。感覚的な問題だが、そんな気がしてならない」
「よかろう、好きにするがよい。無論わらわたちは一切手出しはせぬ。よいなグラン?」
「ああ、漢同士の闘志に異論はない。ロック貴様もそうだろ?」
「はいはい、何もしていない分。みっちり働きますよっと」
そして西部隊隊長ロック・サンダースと炎将レイが姿勢を構えて
風が素肌を撫でると同時に二人はバチバチと近距離で火花を散らした。ロックの剣激と炎将レイの火を纏った拳がまっすぐにぶつかり合う。別に構えたり追撃したりはしない。ただ、相手の実力を人生の全てをこの一撃で天秤にかけているのだ。
いささか大袈裟かもしれない。だが、それでいい。互いを知り認め合うことで契約は成立する。
そう言うなれば、必然。これはまさしく必然の他ない一撃で。
炎将レイの拳が淡く光り出して、見る見る内に姿を変えて行く・・・・・剣。それは火を纏い血を塗り込んだかのような毒々しい剣。達磨殺の剣がここに召還した。
『あ~、やっぱり。成功したか。今の私が剣になったということはそういうことなのですね・・・・・』
達磨殺の剣となった炎将レイが分かりきっていたとばかりに大きく落胆しつつも。西部隊隊長ロック・サンダースには確かな実感が込められていた。以前にもリンバラが悪魔三将水将スーを剣にした時にも、隣でロックは似たような既視感を覚えていた。
悪魔を剣として操り。その何かを切り裂くような考え・・・・・それはいづれ、自分にもやって来るんじゃないかと。
まあ、リンバラの場合は契約する悪魔が悪魔だけにかなり嫌がってはいたが━━━━━だがこれで確信した。
これは必然なのだと。その必然は恐らくミウさん自身にも。
義母であるミッツも実に複雑そうな面持ちだったように見えた。
ロックはその思考を一旦保留にして、手に握られた達磨殺の剣を解除した。すると、解除と共に炎将レイが元の姿で現れた。
ロックとグランとミッツとレイはその後は何も他言せず、互いに頭を降ってその場を後にした。
別に次の日から再び作戦を練り直す訳ではない。
ロックが炎将レイを納めるに相応しい器かどうか確かめられただけでも収穫だろう。後はご自由に己が為すべきことを全うするのみ・・・・・・
グランは来る日に備えて、鍛練し。そしてイヴと逢うために。
ミッツは過去の布石を悪魔としての使命、最高裁判官としても一人の母として・・・・・・
炎将レイは悪魔の命運をやるべきことを探して。
そしてロック・サンダースは━━━━━━━
ある日、ある場所にて。人ならざる者が立っていた。
彼は悪魔最強にして無敵。今は人間国家に手を貸す形で死又はX、災厄は何の変哲もない場所ですっと手を構えるような仕草をした。すると、手をかざした先に空間が捻れたような薄気味悪い七色の‘軋み’がそこにあった。
災厄は得体の知れない空間へ何らためらいもなく、入って行く。そしてお目当ての物━━━━━いや。正確に言うならばそれは巨大な塊。それほどまでに大きな‘生き物’が腹を伸縮させていたのだから・・・・・
「よう、久しいな。兄弟?」
「嬉しくもないよ、災厄・・・・」
巨大な生き物━━━━愛殺しの蛇と災厄が兄弟の何とも言えぬ悲しい再開を果たしたのだった。
「何をしに来た?別にお前が僕を倒せるとは微塵も思ってないよ。それとも、本当に感動の再開・・・・・見たいな嫌みを言いに来たのかい?」
「ふ。半分正解と言った所さ。久しぶりに顔を見に来たのもそうだが、お前に一つ。警告してやるために」
「警告?」
「ああ、知っての通り。お前を倒せる方法はただ一つ。あの三将の剣に他なるまい、ムーンライトはまだしも残りの二つは契約済み。おまけに悪魔や天使と言った勢力も愛殺しの蛇に傾けられている・・・・流石のお前でもここまで徹底されては骨が折れるだろう?」
「それがどうした?三将の剣はまだしも、他の連中が僕に叶うとは思えないね。それとも、兄弟として災厄が僕に手を貸すのかな?」
「いいや、その逆のことを言いに来た。こちらに付け、愛殺し。もはや討伐は必然だ」
「ふざけるな!せっかく、話に耳を傾けてやったというのに・・・・!?討伐だとぉぉぉぉぉ!?」
「ああ、それに向こうには例の‘あの娘’がついている」
「・・・・!?」
「ムーン・ジャスティス・ミウ。全ての勢力をまとめ、いづれ。ムーンライトの剣を手にする女を━━━━━━」
「黙れぇぇぇぇぇぇ!!!!!!黙れ、黙れ、黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
愛殺しの蛇が突如として巨大な身体を空間ごと暴れ出した。その暴走はまるで地響きが間近で起こったかのような衝撃。ミシミシと不安定な空間にもひび割れが露になる。それでも愛殺しの蛇は暴れることを辞めない。そこにあるのは小さな怒りと悲しい虚しさにも思えた。遠目からではあるが、うっすらと泣いている気さえしてしまう程に━━━━━
災厄はゆっくり目を閉じてこの場から立ち去るビジョンを思い描いた。すると、災厄が脱出すると同時に二人がいた空間は完全に押し潰されるのだった。
「はあ・・・」
災厄は少し、後悔していた。いくら兄弟とは言え敵同士・・・・災厄にも多少なりとも悔いはあった。
複雑な心境である。絡まった毛糸がチクチクと肌に刺さるような嫌な感情━━━━━長らく生きていれば反吐が出るくらいの思いは山ほどあるし、死に行く者の末路を何度も見てきた。災厄に隷属する者も悪魔の配下達、災厄自身が殺してきた敵の数々。
それなのに、愛殺しの蛇を自分の手で殺してしまうかもしれないと思うだけで何とも悲しい気分になってしまい・・・・・・
「っく!これだから兄弟は・・・・・!」
災厄は少し、自分らしくないと心を落ち着けて。
隷属者であるウルフ・ジャスティス・ミウに身体を委ねるのだった。
次へ




