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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第二章
44/55

死に別れ、死に相対する

ミウたちが住まう人間国家から少し離れた廃町で。何者かが一心不乱に剣の素振りをしていた。

全身漆黒の鎧姿に覆われてはいるものの筋肉の構築美は実に見事で、惚れ惚れするくらいの剣裁き━━━━━悪魔中層幹部にして人類最初のアダムことグランが剣の素振りを終えて汗を拭った。

グランは今、人間国家に奇襲をしかけて世界を滅亡の渦へと巻き込もうとするも大天使イヴとミウたちの攻防の末に敗北を期した。

後に大天使イヴの手によって地獄へと送られることとなるが、閻魔大王の気遣いの元。こうして永久的に仮釈放の身となった。とは言え、もはや世界を滅ぼすのも困難・・・・・・その鍵を握る死又はX、災厄が人間国家に就いてしまっては。

そもそもグランが世界を滅ぼそうとしたのは━━━━━

「イヴ・・・・」

一人の女を守れなかった自分自身への恨みだ。

グランが決意を新たに剣を握りしめて、素振りを再開しようとした時。時刻は深夜を廻っていた。

辺りの花畑は静寂に包まれて静かに風の寝息が聞こえて来る。そこには‘美しい星月夜’が顕現されていて・・・・・・

その光の主がグランの前に姿を現した。

上位裁判官にして悪魔三将月将ムク━━━━━ミッツ・ジャスティス・ミウが長い銀髪を靡かせてふてぶてしくグランの前に現れた。

「久しいのぅ?グラン?」

「元気にしてたか?月将いや、今はミッツと呼んだほうが適任か?珍しく認識阻害を使って来ない辺り、何か吹っ切れたか?」

「別に、長く生きてをれば。考え方の一つや二つ・・・・・変化が起こるのは当然じゃろ?お主とて前までは世界に噛みつく番犬のような出で立ちだったのに。今ではその牙すらも剥がれて丸くなりよって・・・・・幾分か良い眼をしとる」

「ふん、面白い。わざわざ世間話をしに来たのではなかろうて。で、要件は何だ?」

「まあ、色々と申したいことはあるが・・・・・例えば。災厄を蘇ろうとした時にミウを巻き込み兼ねなかったこともそうだし。来た理由としては貴方の力を借りに来たからよ」

「ほう?それはもしやあの蛇が・・・・・?」

「ええそうよ。いよいよあの愛殺しの蛇が動くみたい。貴方としても数億年の因縁を晴らせるじゃない?」

「そう簡単に言うな。確かに愛殺しの蛇が討つことができればそれは願ってもないことだ。だが、愛殺しの蛇は討伐不可能、討伐困難、遭遇率不可能と言われる化け物だ!下手に倒そうとすれば世界のバランスが崩壊しかねない。愛殺しの蛇がこの世界を産み出したと断言してもいい・・・・・世界の親を討つということは世界を討つに等しい。お前だって分かるだろ?愛殺しを討たねば、世界は滅ぶ。けれど愛殺しの蛇を討てば世界は滅びる━━━━この矛盾をどう説明して・・・・・・」

「そのパラドックス、解消することが可能だとしたら?」

「・・・・!?」

「討伐不可能が可能に、困難が達成されて、遭遇率が100%保証されるとしたら━━━━━お主はどうする?」



場面は変わって。再び人間国家に移る。

東部隊レッドライ騎士団の寮にてばたばたと素足を動かして、ムーン・ジャスティス・ミウはベッドに飛び込んで意気揚々としていた。仕事終わりからの安らぎか、それともミウ自身の機嫌が良いのか?答えは後者に当たる。

以前、ミウはノウス・オールドの見届けの元。明日の便箋師レトゥーが所有していた魔教人童謡説の権利を手に入れた際に一分時間ロスト・タイムが発動されて。一日一回、一分という短い時間だけ今は亡きレトゥーとの対話が許されるのだ。

ミウとしてもそれは嬉しかったし、何よりミウにとってレトゥーはクイニーやミッツと言ったいわゆる母親のような存在であった。初めて会った時からレトゥーは常にミウを気にかけて、母御の如く心配してくた。あの時、最後までミウを守り抜く顔付きがどこか切なく満足感のあるようにも見えた。

ミウは勢いそのままに魔教人童謡説を開いて一分時間を発動させた。本のページがめくれ出し、光の粒子がが小さな偶像を司る。明日の便箋師レトゥーがゆっくりと目を覚ました。

「お久しぶりです。ミウ」

「うん、久しぶり!」

「本当、見ない内に大きくなりましたね」

「えへへ、そんなことないよ~」

「そうですか?ミウが気づいていないだけで。周りにいる人たちもどこか変わったように見えます。ミウと元々仲が良いロックやリンバラも微弱ではありますが、前よりも肝が据わっていますし。ミウの両親であるミッツ、クイニーにエターナルにも大きく変化をもたらしています。それはもちろん、ミウたち以外の仲間も例外ではありません。だからミウはもっと胸を張って良いと私個人としてはそう思いますね」

「━━━━ありがとう、お母さ・・・っ!あ、いや。じゃなくて!?」

「ふふ。ミウ?それではミッツやクイニーに怒られますよ?まあでも、私としてはいつでも‘お母さん’って呼んでくれて構いませんよ?」 

「~・・・・!?!?レトゥーの馬鹿ッ」

「ふふふ・・・・」

(ミッツとクイニーに聞かれたら不味いですね・・・)

レトゥーが小さな恐怖を覚えながらも一分時間ロスト・タイムが過ぎて行った。



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