表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第二章
43/55

龍神村

魔王の城付近に吸血鬼の村があれば当然、龍神の村もある。遥か彼方の上空━━━━曇天とした落雷の光景。これは自然現象の一種などではない。

龍神が住まう天の世界がもたらす云わば‘縄張り’のようなモノだ。

龍神は神々に近い存在故に人の姿から外れて永い時を暮らしている。なので、人間や他の種族と比べても衣食住は比較的にいらないので。天空を延々とさ迷う形でも暮らす分には問題ない。が。

龍神と言えど、譲れないモノもあるようで・・・・・

縦社会を生き抜く中で闘争心だけが全てだった。

龍神の中でも比較的若僧の龍神と若僧よりも年食いの龍神が口論の末に闘いを選んだ。

理由がどうあれ龍神族が闘いをするということは敗者と勝者つまりは新たなる上下関係を築くということで。

若僧と年食いが闘いの末に朽ち果て、肉対戦に持ち込んだことによって一歩先に年食いの龍神が息を吹かした。若僧の勝利である。

「今日も勝ち越しか?あの若僧」

「ああ、そのようだな」

ラスト・エンペラーともう一人の龍神がそんな愚痴を漏らした。それも無理はないとラスト・エンペラーが思索しつつも、もう一人の龍神が言葉を続ける。

「だってこれで十連勝だぜ?最近の勢力争いの筆頭株。今や若手のエースだぜ?」

「若手が育つことは良いことだ。生命宣言をしている身としては次の世代が弱くては意味がない・・・・それに、あの若僧が嫌いならば戦って勝てばいい。それが龍神族のルールだ」

「・・・・わかったよ。冗談に決まってるだろ?これだから最古の龍神様は恐い恐い」

「ほう?それとも私と手合せがしたいのか?勝てば龍神最強の名声が得られよう」

「ばっ!馬鹿言うんじゃないよ!?あんたに挑もうなんて、首がいくらあっても足りねえよ!」

「ハッハッハッ・・・・主もまだまだ若いのぅ」


「・・・・・」


ある日のことだった。龍神村の縄張りには龍神たちが各々に闘い、討論、談笑といった具合にそれぞれの群れが賑わっていた。その中にはラスト・エンペラーの姿も見受けられ、龍神の中心でにこやかに微笑んでいた。だが、その談笑を気にくわない龍神もいた。

最近、龍神族の中でも筆頭のエース株の若僧が気にくわない様子で歯ぎしりを立ててついにはラスト・エンペラーの前まで迫ってこう言いのけた。

「俺と勝負しな。俺が勝ったら今日からこの村の長になってやるよ!」

若僧が龍神族最強にして最古の龍ラスト・エンペラーに決闘を申し込んだことは瞬く間に広まった。

龍神族のエースと最強の龍神が相対するのは実に興味深かったし。なかなかラスト・エンペラーに挑む者もいなかったからか、ラスト・エンペラーの実力も未知数である。とはいっても、人間国家を襲う際に悪魔月将ムクと東部隊副隊長エターナル・ジャスティス・ミウとの死闘を繰り広げていたが・・・・・あの時は双方共に手を抜いていたようにも見えた気がした。

なので、尚更気になるのだ。最強の龍神か若きエース株が勝つのかを━━━━━━

注目の闘いを見守る中には吸血鬼たちの姿がちらほらと見受けられた。そんな中でも余裕の笑みを崩さないラスト・エンペラーを若僧の龍神がさも気に入らなそうで。

「ほんっと、何がそんなに可笑しいだよ!?毎度毎度ムカつくだよ。ヨボヨボのジジイが最強の座に就いて、何をするわけでもない癖に浮かれてるんじゃねえ・・・・・!!」

「若僧もまだまだよのう。逆恨みをするのは勝手だが、その調子ではいつか戦場で足を掬われるぞ?」

「!・・・・うっせ!!それに俺は若僧じゃねえ。ソウって名前があるんだよ!どいつもこいつも勝つたびに若僧若僧だの。勝ちもしねえで、ひがむじゃねえ」

若僧ことソウが怒りの勢いで拳を繰り広げて来る。

下手をすれば初手で回避することは困難である。だが、その相手が最強にして最古の龍神ならば話は別である。

「なっ・・・・・!!!?」

若僧ソウの拳を指先一つで防いで見せたのだ。

さながらカンフー映画の師弟対決を見せつけられるが如し、技術と経験。そして戦闘に置ける血を浴びた回数も桁違いなのだから━━━━━━

ラスト・エンペラーは常に笑みを崩さなずに若僧ソウの拳を握りしめて。尻尾を鞭のようにしならせながら若僧ソウの顔面をぶった。どん!と鈍い音がした。若僧ソウの顔面は真っ赤に腫れ上がり鼻血が吹き乱れた。それでもラストエンペラーの砲撃は止まらない。一十百千万と嬲 り続けて一切の反撃を許さない。時間にしておよそ数分、恐らく若僧ソウでなければ死者が出ていただろうと見守りを続ける龍神は皆。そう思った・・・・・・そして一方的な嬲り殺しはまだまだ続けられて若僧ソウの意識が朽ち果てるまでラスト・エンペラーは猛攻を許さなかった。

「・・・・・・」

意識を失った若僧ソウと血の気の引いた龍神たち。

ラスト・エンペラーはさも気にする様子もなく、若僧ソウに近付いて絶対的な治癒オブルソート・オアシスを付与した。すると瞬く間に傷が癒されていき、はっと若僧ソウが目を覚ました。

そして理解する。己自身が敗北したことに・・・・・

そんな若僧ソウをラスト・エンペラーは嫌がる訳でもなく、どこか嬉しそうな調子で若僧ソウを撫で回した。

「やめろ!ジジイ!!負け惜しみをされるならトドメを刺せ。ったく、これだから最古の龍神は・・・・」

「ハッハッハッ、若き者が長年の長に挑んで何が悪かろう?回りの龍神たちは私の強さに怖じ気付いて、神の如く奉る始末━━━━だからこそ、お前のような存在が嬉しくてな。例え理由がどうであれ、‘孫自身’が相手ならなおのこと」

「けっ、じいちゃんこそ。口では本気でした~見たいに言ってるけど。全然本気じゃなかったろ?それくらい分かるつーの」

「ハッハッハ、悪態を着けるのならまだ闘う意思は潰えてないようだな?」

「ああ、もうひと暴れすっか!」

それから一日、龍神村の縄張りに怒号の地響きだけが空を支配した。闘いの果てに若僧ソウが勝利する事はなかった。だが、若僧ソウとラスト・エンペラーの顔付きはどこか生き生きとしてをり。互いに切磋琢磨しているようにも見えた。

これは他の龍神たちにも良い刺激となった。互いのために精進し、次の世代にバトンを繫ぐのだから・・・・・

けれども絶望や不安と言ったものはそんな時に限って訪れる。

雲がどんよりと暗がりを帯びる。ごろごろと先ほどとは明らかに違う殺伐とした空気。‘それ’は突如として現れた。


「黒竜・・・・・!」

ドス黒いうねうねとした鱗の光の一粒一粒からは気味の悪い目玉が右往左往と睨んでいて、黒竜の咆哮が天空の全てを飲み込んだかに錯覚する程のパワー。今までの黒竜とは規模が違うし、何よりも一体何故。黒竜がこの場に現れたのだろう?

そもそも黒竜とは神々が反転した力、もしくはグレイの力を得て時の番人リークが作り上げた怨念の塊である。本来ならば人間国家とも同盟を結び、グレイや時の番人リークも黒竜を産みださないと誓いを立てた。もしや裏切ったのか?いや、それとも同盟を結び直前に時の番人リークは魔王の城を襲撃しに来ていた。

その時にリークが取った行動が無抵抗だった。恐らくはその時に・・・・・

「ガアアアアアアァァァァァァァッッ・・・・・!?!?」

「そうこう言ってられないようだ。ソウは皆を連れて縄張りに避難しろ。最悪な場合、家族ミックスを集結させて魔王デンス様にご報告を━━━━━」

ラスト・エンペラーが指示を仰いだ正にその時、黒いマントを羽織った人間らしき人物が天高くに浮遊していることが分かる。

吸血鬼と龍神の血を引く家族ミックスの首領である魔王デンスが姿を現した。

魔王デンスはさも落ちついた様子で混沌とした現場の者たちを制して皆一様に頭を垂らす。魔王デンスは「すぐに終わらす」と最後に言い残してとある水晶をかざした。すると、あのおぞましく凶暴な黒竜を吸いこんでいくかのようにどんどんと汚い黒雲を水晶に押さえ込んでいって・・・・・呆気ない程に討伐したのだ。

魔王デンス様万歳!と一斉に声を張り上げ喜びに浸かる中、魔王デンスを始めとする強き者たちは気付いていた。

黒竜の煙が剥がされたことで、それに憑依していた被害者が目を覚ましたことに・・・・・・

 

            神

それは正しくそうとしか言いようがない存在。天使や悪魔、龍神とも違った純粋な神があわれもない姿で、眠りから起きた調子で投げかける。

「あ、やっほー。君たちがひょっとして起こしてくれた系?」

天秤の女神ワワ・ジャッチが寝ぼけ眼でそう呟いた。




             次へ


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ