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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第二章
42/55

吸血村

魔王の城付近には二つの村があった。

一つは龍神族の一つは吸血鬼の村である吸血村が今日も薄暗い夜を照らしていた。蝙蝠たちが飛び交い、枯れ果てた黒煙の木々がうねうねと生い茂り。永遠とも思える夜に吸血鬼はケラケラと薄気味悪い笑みを浮かべて村のたいまつの火の粉が分散するのでった。もちろん、ただ単に吸血鬼たちがケラケラと暮らしている訳でもない。今宵は吸血鬼たちにとっても‘ご馳走の日’なのだ。

それは━━━━━

「イヤ!!やめてー・・・!?」

拐われた人間の女を珍しく捕らえられたのだから・・・・・吸血鬼たちが意気揚々と女の四肢を押さえつけて、身ぐるみを一つ一つ剥がして行く。無論、これは吸血鬼たちが悪趣味に強姦している訳でもない。文字通り、吸血鬼たちにとってこれは死活問題━━━━生命宣言の一種だった。

吸血鬼たちの大半が男である。ごく稀に女の吸血鬼も誕生日するが、彼女たちは妙に生きることに弱く吸血村から行方を眩ましたり、自ら灰になったり・・・・・と子孫繁栄には繋がらず。

付近をうろつく人間の女たちから血を頂戴などとしていた。その行為は端から見れば醜い獣のすることだが、吸血鬼たちからしてみればそうも言ってられない。一時の行為で大半の命が決まってしまう・・・・・生きるためならばどんなに汚いことでもしなければ━━━━━群がる吸血鬼たちをよそにスリ・ランカーは遠くの方から彼らを眺めていた。

それは軽蔑の眼差しと小さな哀れみを含んだ瞳であった。その様子に気がついてか、仲間の吸血鬼がスリ・ランカーを見るや生意気な態度でスリ・ランカーの肩を組んだ。

「なんだなんだ、スリ・ランカー!まぁたハブられてるのか?」

「そうじゃない、私はここまでして血に飢えたくないだけだ」

「馬鹿言うんじゃなねえよ!俺ら吸血鬼はただでさえ、血を飲まねえと生きて行けないってのに。女吸血鬼たちが行方を眩ましたりするから、みんなやっけになってるんだろ?それに襲った人間の女からはいつも記憶を消してるし、問題ねえよ」

「・・・・・だと、良いのだがな」

そのままスリ・ランカーは森の奥へと消えて行く。

「ったく、連れねえ野郎だぜ」


しばらく歩いた後、虫の呼吸と川のせせらぎが阿吽を交わす場所を見計らって。スリ・ランカーは息を漏らした。ただでさえ、生命宣言に飢えているというのに。仲間の前でも我慢するのは息が詰まる。けれども、スリ・ランカーも吸血鬼に当たる。多少なりとも血を啜らねば生きていけない。血以外でも食べ物を食べて飢えを凌ぐこともできる。だが、他の種族に比べても食べ物だけではまやかし程度にしかならず。結局、解決の糸口にはならない━━━━━そんな時にスリ・ランカーがやっていることがある。それは。

「っはむ・・・・!!」

そう、スリ・ランカーは飢えを凌ぐために己の肉を喰らうのだ。下手をすれば自殺行為に等しい奇行。だが、それが唯一。スリ・ランカーに‘だけ’許された行為ならば・・・・・話が変わってくる。

スリ・ランカーには多少ながらも実は女性器官の役割を持つ部位が隠されていたのだ。男と女の器官を持つ吸血鬼はスリ・ランカーの他にはなく。スリ・ランカーは夜な夜な一人で飢えを凌ぐのだ。罪悪感と背徳感にまみれながらスリ・ランカーの食事が終わる。

最初の頃は罪悪感と一人だけズルをしているようで思いきって皆にカミングアウトをしようとしたことがあった。だが、それにいち早く気づかれた魔王デンスによって皆に伝達するのを止められた。生命宣言もそうだが、お前ばかりが無理に背負うことはないと・・・・魔王デンスの一言でスリ・ランカーはどれほど救われたことか。

食事を終わたスリ・ランカーは急いで魔王の城へと戻る。いつもの男服を脱ぎ捨てて下着を整え、化粧や香水。あらゆるチェックをした後にふりふりとした豪勢なドレスに着替えて━━━━━城の奥のベッドにいる魔王デンスの元へと駆け出した。

「魔王様~♡」

「遅かったな?スリ・ランカ━」


「私、寂しかったんですよ?ずっと澄ました顔して我慢するの・・・・・責任。取って下さい♡」

「・・・・馬鹿だな、そんなのいつでも取ってやると言うのに」

「えへへんっ」

そこはまさしく、誰もが決して覗いてはいけない禁断の園である。魔王の部屋ではだけたシャツを着こなす魔王デンス。その気楽にして妙に色気のある風貌で。魔王たる気品とは別の一人の女を前にした一人の男の姿である。

吸血鬼のスリ・ランカーもいつもの強気な振る舞いや忠犬のような忠誠心は微塵もなく。愛猫のようにデンスの膝元をスリスリしては甘えた目付きで誘っていて・・・・・つまり、二人はそういう関係なのだ。最初こそは家族ミックスとして配下として接してきた。だが、スリ・ランカーの体内にごく一部ではあるが女性器官を有していることが分かり、匿う形で魔王デンスがスリ・ランカーを部屋に招き入れたことから始まる。最初は無言の時間もあれば、配下と君主として距離を取る中で。次第に距離が近くなっていた。そうして時間は流れていき、スリ・ランカーは魔王デンスと二人きりの時だけ。こうして甘えてくるのだ。

魔王デンスがスリ・ランカーの前髪を撫でながら艶のあるスリ・ランカーの瞳をじっくりと眺める。スリ・ランカーはご主人に「待て」と言わんばかりに我慢をするも━━━━━待ちきれなかったのだろう。スリ・ランカーは唇の奥に隠した牙を魔王デンスの首筋へと近づけた。だが、魔王デンスも意地悪な人で。そっと唇に指を添えて逆にスリ・ランカーの首筋をしゃぶりつく。

魔王デンスは吸血鬼と龍神の血を引いているが。魔王デンスは魔王になったせいか、食事の要らない身体を手に入れていた。なので、別にスリ・ランカーの血を啜っても意味はない・・・・・が。こうして息を荒くして喜ぶ彼女の姿を見ていると啜らずに居られなかった。好きな女のことを考えるのに種族なんて関係ない。デンスの歯形がスリ・ランカーの首筋にくっきりと転写される。そこには確かに愛すべき人の温もりがあって。

汚れた体液を己の頬に浸した。ああ、きっとこれが幸せ・・・・・これが満たさる。この人さえいればきっと明日も。

「魔王様、私もう・・・・!♡」

「ああ、おいで」

スリ・ランカーは魔王デンスの血を啜った。



「お前たち!働く手が止まっているぞ!?びしっとせんか!」

翌朝、魔王の城では吸血鬼や龍神がせっせと汗を流していた。

以前の襲撃で城のあちこちがほころびかけていたので、思い切って改装しようと家族ミックスの決議が下された。丸太を運んだり、城塞をトンカチで直したりとかなり古典的なやり方である。設計図通りとは言え、少し時間がかかる。箇所によっては魔力で塗装されもするが基本は手作業だ。

手を動かすのも実践の内━━━━魔王デンスと龍神ラスト・エンペラーの意向に合わせて。理由として暇をしている部下たちを法外のギリギリまでこき使う・・・・などではないらしい。多分。

それでもあと一晩もあれば、城の設備は完璧な物になるだろう。

実践の経験と人間国家との同盟を結んだ今ならば、きっと愛殺しの蛇すらも打倒する事ができるやもしれない・・・・・・

スリ・ランカーは物思いにふける気持ちで空を仰ぎ振り返ると何やら部下たちと話し込む魔王デンスの姿があった。

「あっ━━━━」恐らく時間にしてみれば目が合った、位の認識だろう。それでもスリ・ランカーは内心ニヤけつつも一瞬の妖艶な瞳を閉じて。スリ・ランカーは部下たちに叱咤の声を漏らすのだった・・・・・・。





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