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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第二章
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一分時間《ロスト・タイム》

キー・ゴールドは己の存在について考えることがあった。いつからこの世に生を受けて自我を持ち、いつから天使となったのだろう?

無論、今の現状に文句はない。ミウ達には良くしてもらってるし。大天使イヴ様やノウス・オールド達にも大いに支えられている。だが。

「一人、足りない・・・・・?」

そこにはどこか物足りないものがあるようでキー・ゴールドには仕方なかった。一体何が?一体誰が?キー・ゴールドは十分に━━━━━


  キー・ゴールド


「!誰・・・・!?いや、知ってる。これは━━━━━」

その時、キー・ゴールドは見知らぬ誰かの名前。大天使エッグの本当の名を呟いた。

確かにキー・ゴールドには愛すべき人がいた。

それが男かも女かも人間かさえ分からないし、かといって愛すべき人を忘れた訳でもない。二十年前━━━━━人々の争いに終止符を打ち魔教人なる存在を知らしめた大天使。それがエッグ、それこそが愛しき恋人。以前遥か天空の彼方、美しい星月夜の元で突如として大天使エッグは現れた。

声音や体格、風貌からは何故だか性別の判断がつかない。恐らく大天使エッグによる認識阻害だろう。

大天使エッグが誰なのかは正直どうだっていい。只あの時、大天使エッグの手元の指には小指がなかった・・・・・それもキー・ゴールドが大切に偲び撫でていた鈴と響き合うかのように。

それだけで、キー・ゴールドは満足していたし。何よりも速く区切りを着けるためにもまずはミウの所へ行かねばなるまい。

ミウが持っている本はあまりに危険で。あまりにも残酷だ。

魔教人童謡説━━━━━それは明日の便箋師ことレトゥーが遺した産物にしてありとあらゆる事実が記された禁書。その権利をムーン・ジャスティス・ミウがレトゥーの死と引き換えに受け継いだ。一時は只の空書に成り果ててはいたが、直ぐさまミウとの契約によって新たなる力を以てして蘇ったのだ。

キー・ゴールドは急いで現場へと向かっていった。


「どうやら契約は成功したみたいですなぁ」

教会のある研究室にて魔教人考古学者にして指揮官のノウス・オールドがミウと童謡説の契約を見届けた後にゆっくりと腰をおろした。

ぼろぼろの老体は皮だけが骨に染み付いてるような痩せこけで。いつも研究ばかりしているせいか、すっかりノウス・オールドの身体と椅子がぴったりと癒着するほど姿勢も悪くなっていた。だが、今回だけは違う。これもまた運命の悪戯か?魔教人童謡説を引き継いだのがあろうことかムーン・ジャスティス・ミウなのだから・・・・・

ノウスは可笑しくて可笑しくて笑いを堪えるので必死で。だが、それは決して表には出さなかった。

何故ならば’今の私はノウス・オールドだから’━━━━━

「ノウスさん!聞いてますか?」

「・・・・・ええ、すみません、少々考え事を」

「それはいいんですが。これからは私はこの本をどのようにすれば良いのでしょう?」

「どのように・・・・とは?例えば前の持ち主であるレトゥー氏の意思を引き継ぐのか。それとも日記としてもしくは思い出として残すのか。それとも━━━━」

「全ての意思を引き継いでレトゥー氏の力とは違う新たなる童謡説の力を駆使するか・・・・いやはや。ミウさんからすれば愚問の域にもなりませんか。貴女ならその全てを引き継ぐことだろうとレトゥー氏自身、分かっていたのやもしれませんね」

「ええ、改めて覚悟が決まったわ。この本の道筋が━━━━━━!!」

その瞬間、ミウの手にしていた魔教人童謡説がまばゆい光を放ちながらめくり出す。それはまさしく童謡説が新たなる権能を解放する瞬間にしてミウの覚悟が決まった瞬間でもあった。そして魔教人童謡説の光が消え、一時の静寂に包まれる。

ミウとノウス・オールドが息を整えてページがめくると双方呆気に取られる。何故ならば、死んだはずのレトゥーが本のページの真上でうたた寝をしていたのだから・・・・・


「レ、レトゥー!?どうして貴女がこの中に!?というか、かなり小さくなっているし・・・・・というか!あの時、レトゥーは確かに水将スーから私を守り抜く型で死んだと思ったよ!今までどうして━━━━━」

それに慌てた様子もなく明日の便箋師レトゥーがミウを諭しながら説明した。

「確かに私レトゥーはあの時の魔法の制約によって確かに死んでいます。けれど、今やこうしてミウ自身が私の意思を引き継いだ事により新たな能力を得た。それが一分時間ロスト・タイム。一日一回、私と一分の面談が許される権能━━━━こうした型ではありますが。もう一度貴女の顔が見れてよかった」

「・・・・!何よそれ。そんなのズルイよ、散々心配させるだけ心配させておいて。少ししか会えないなんて・・・・そんなの!?」

「ミウ、心配かけてごめんなさい。側にいられなくてごめんなさい。守り抜けなくてごめんなさい。いっぱいいっぱいごめんなさい・・・・・正直、こんなこと言うのは難だけど。今の一分があることが嬉しいのよ。例えミウを守り抜けたとしてももう会えないまま死んでいたらきっと私はあの世で後悔していたと思う。また明日もミウに会えるんだって━━━━━━」

そこで一分時間ロスト・タイムが消失し、レトゥーの姿が淡く消え失せた。それはとても切なくとても悲しい時間。

けれども絶望や失望ではない。ミウは涙を拭いながらにこう呟いた。

「バカ・・・・お帰り」



一分時間ロスト・タイム・・・・凄まじい権能ですな。魔力量からしてもただならぬというのに、死者との意思疎通が可能とは・・・・・!」

魔教人考古学者にして指揮官のノウス・オールドが感嘆の音を上げながら髭を擦った。これは他者から見ても凄まじい権能のようである。ミウは改めて魔教人童謡説を抱き抱えて、再びノウスに謝礼した。

「ノウスさん、この度は本当にありがとうございました・・・・・!このような形ではありましたが、こうしてまた大切な人と出会えた・・・・・」

「私は何もしていませんよ。何も、ね?」



一方で。魔教人童謡説の異変にいち早く気づいたキー・ゴールドは高くそびえる家瓦の柱に足を着けて。

ことの発端を眺めた。一分時間ロスト・タイム━━━━━━確かにその能力は脅威である。死者との意志疎通に加えて、明日の便箋師レトゥーの獲得。そして童謡説全ての権能も保持したのだ。

これ等の吉報は敵対勢力をさらに脅かすだろうし、過度な刺激にもなっただろう。それら含めて、ミウ自身を守り抜く手段を得られたのはキー・ゴールドにとっても嬉しい話だ。だが、一つだけ。キー・ゴールドには解せないことがあった。それは・・・・・


「魔力量が多すぎる・・・・・」

そう、いかに魔教人童謡説とはいっても魔力量が桁違いに多かった。一時はミウとの契約によるものかと思考したが、違う。これは明らかな’第三者の介入‘である。それにどういう意図があるのかは分からない。

だがこれだけは言える。

この事は他者には寡黙であると━━━━━━

見えない力によってそう言わされているようでキー・ゴールドの身体に虫酸が走った。




「クイニーよ、主は魔教人童謡説についてどう思う?」

「どのように、と仰いますと?」

とある場所、とある時刻にて。上位裁判官にして悪魔三将、月将ムクの正体であるミッツ・ジャスティス・ミウと二十年前の過去改変によって蘇った南部隊隊長クイニー・ジャスティス・ミウがまたいつもの如くママ友会に花を咲かせて。和気あいあいとしていた時、ミッツの口から案の定━━━━ミウが新たに契約した魔教人童謡説について触れざる得なかった。

クイニーは分かってたと言わんばかりに「そうね」の言葉に続けて自分が思う感想を述べた。

「良く言えば、ミウを守る要が増えたとも言えなくもないし。悪く言ってしまえば第三の敵対勢力にも目をつけられ易くなった・・・・とも断言できる」

「うむ、敵対勢力の構図は膠着を極めている・・・・天使や悪魔。蛇に神々━━━━おまけに魔王までミウに色目を付けだした。これは由々しき事態じゃ。」

「ええ、だからこそ。そのややこしくなった構図をひっくり返さねばなりません。まずは━━━生命宣言にのろしを挙げた魔王デンスから落とすのが有利でしょう」

「ほぉ?では、その魔王をどう誘き寄せるのかのぅ?」

「簡単なことです。以前、魔王の城を襲撃した際、死又はX、災厄さんが魔王本人にここ人間国家に来るよう招待してあります。生き残りを望む魔王軍にとっても悪い話ではありませんからね。フフフ・・・・」

「・・・・相変わらず、良い性格をしとるのぅ」

義母ミッツ実母クイニーの密かな面談が終わり迎えた。



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