焚き火を起こす
「ん、ここは━━━━━?」
とある刑務所、ループエンドにて。
以前までは東部隊隊長ムーン・ジャスティス・ミウが殺されない死刑囚のゴッド・キルまたの名をエターナル・ジャスティス・ミウが冤罪の隠し場として使用されていた。後にゴッド・キルことエターナルはミウの実父であることが分かり。ミウを命辛がらに守り抜いていたことが発覚、黒幕としてグレイに操やれていた貴族のリークを捕縛。後に悪魔五天王にして悪魔中層幹部のグランの手によって脱出するも再びミウたちの手に堕ちた・・・・・そしてリークも今やミウたちに就いている訳で。ループエンドの重要性は著しく逓減してしまい。
今ではもぬけの殻である。後はミウの以降によって定期的にループエンドの清掃が行われて前とは比べものにならないくらい綺麗だということのみ。だが、その刑務所には誰かが捕縛されていた。それもとてつもない化け物が━━━━━━
悪魔五天王にして三将の炎将レイその人である。
彼は以前、西部隊隊長ロック・サンダースと同じく西部隊副隊長リンバラとの邂逅の末に。
和解を差しだそうと瞬間、謎の天使エッグの手に堕ちた。それも
スノーライトの剣を無傷で受け止めた上に炎将レイの専門分野でもある炎魔法で捕縛するほどの実力・・・・・・・
うっすらとした意識の中で炎将は身体を動かそうにも特別な魔力が隠った鎖によって身動きが取れない始末。案の定、目の前には大天使エッグが露骨な笑みを浮かべて炎将レイの姿を見下ろしていた。
炎将はさも気に入らなそうな目付きで大天使エッグの衣めがけて唾をかけ飛ばして。もう一度、睨み返した。
「天使様は相手が悪魔なら監禁も暴力にだって物を言わすのか?大して悪魔やら天使やらと対した区切りもねぇんだな!?」
「ええ、そうですね。悪魔と天使に区切りなんてモノは存在しません。我々の産まれる遥か前より人間も神も悪魔に天使・・・・様々な種族間に区切りは‘なかった’。それを貴方はよくご存じのはずですよ?」
「はん、洒落の通じねぇ天使だ。言われなくても分かってるさ。俺らの上司に当たるグラン様がアダムとイブの片割れであるぐらい・・・・・だが、そんな世間話をアンタみたいな大天使がわざわざするために俺を拉致したりはしねぇ。剣の資格がないとか言っていたが、俺は誰の剣にもならないし。ましてや天使相手に隷属もしねぇ・・・・・・痛ぶりがいがあるだろ?」
「ふ、そんな事はしませんよ。第一、時間の無駄でしかありませんし。何より一時的に貴方を匿う部屋がここしかなかったのです・・・・・私はあくまでも‘彼’のサポート。彼から剣になるための修行の心得でも学ぶことですね━━━━━」
そう言い残すと大天使エッグは空気に溶け込むかのように姿を消した。それと同時に炎将レイを捕縛していた鎖が解かれた。
恐らく大天使エッグの仕業だろう。ここまで手の込んだことをして、一体誰と引き合わせようと言うのだろう・・・・・・・
「え?」
刹那、炎将レイの顔色が変わった。顔は真っ青にただ呆然と。
「久しいな、レイ?」
悪魔中層幹部グランとの再会を果たした。
「グラン様ッ!?一体今までどこに・・・・」
「ああ、すまない。少々旅に出ていたからな。天使の女に地獄に落とされたかと思えば。罰を受けた挙げ句、閻魔大王自ら追い出されてしまい・・・・・仕方ないから放浪の旅に出たところをあの得体の知れない天使に呼ばれたらレイがいた訳だ。いやはや、実に無様だったぞ?」
「悪かったですね、というか。その言い方だと全部見ていましたね?はあ~勘弁してくださいよ。それに━━━━なんだか、強くなっていません?」
「ふ、分かるか?流石はレイだ。我も我とて修行はしたからな」
確かに以前のグランとは比べ物にならないほどの魔力である。鎧越しからでも分かる鍛え抜かれた肉体、鎧や巨大刀は錆びれていたり歯こぼれがあるもののしっかりと手入れが施されている。
それにグランの身体からは魔物を屠ったことを連想させる獣臭がした。そしてグランの首もとには赤いスカーフが巻かれていた。
グランは小さく吐息を吐いて改めてレイに問う。
「レイ、お前は剣にはなれないし。なりたくもない━━━━━━だから最低限その気にさせてやる。誰かを守りたくなるようなそんな気分にな」
「・・・・・」
場面はまた変わり、先程現れた謎の天使エッグの魔の手により連れ去られた炎将レイがいなくなってからしばらくして。東部隊隊長ロック・サンダースと副部隊隊長リンバラス、そして変態のスー。
彼らは任務の失敗と交渉相手を失ってしまったが。
裏を返せば、謎の天使エッグとの接触を図れたのも実に大きい。大天使エッグ━━━━二十年前、人々の血塗られた争いに終止符を打ち。尚且つ魔教人なる存在の進行にも大きな影響を与えてをり。ミウ達が過去改変を行った際に災厄の隷属者ウルフ・ジャスティス・ミウにも何らかの強い変化を与えたのは間違いないし。それにクイニーや災厄などと言ったイレギュラー分子が崩壊しないのも、推測の域を出ないがもしかしたら大天使エッグの能力なのかもしれない・・・・・・
ロックがそのような思考に思いを馳せているのを横目にリンバラが両手を閉じたり開いたりしていた。
まるで手に実感がこもってないかのように。
「変なんですよね、ロック隊長」
「?何が変だって?」
「いや、だって。いくら凄い天使だからってスノーライトの剣をまるで’なかった‘見たいに━━━━あそこまで無防備な状態で。敵に背中を見せておきながら無傷で。確かに感覚ではやった!って思ったですけど・・・・・・・」
「━━━━単純に性能が悪かったんじゃって何で剣を向けるんだ?リンバラ?しかもそれ、スノーライトの剣じゃねぇか!?悪かった!悪かったから許してくれー!?」
「ご覚悟!!」
『ハアハア・・・・リンバラちゃん、すこ』
「だが、まあ。大天使と言えど確かに変な話だよな?今までの経緯もそうだが。スノーライトの剣すらも効かないって・・・・・それこそ災厄やら神々クラスの━━━━━そうと決まれば教会に行くべきだろう。目には目を大天使には大天使ってな!」
「そうですね、真っ黒焦げになりながら所々凍ってなかったら格好良かったですけどね?・・・・・スーもそう思うでしょう?」
「はい!」
「ははは・・・・だな」
そんな二人のやり取りに失笑しながらも改めてロックはリンバラに隷属する悪魔五天王にして三将。水将スーの容姿を眺めた。敵対していた時は人型のシルエットや暴走状態の姿や変質的な悪魔の姿を見て来たが。
今回の姿は完全なる人間体で。すらりとした長身にタキシードを着こんだ青髪の紳士だが━━━━━
「ハアハア・・・・リンバラちゃん、肩でも揉む?お胸のサイズいくつぅ?ハアハア・・・・」
「・・・・・うっ!!!」
「ああ痛い!ありがとうございます!!」
「・・・・・」
嫌な仲間を持ったものだとロックは内心呟いた。
そして気がつけば教会である。案の定、中には大天使イヴと魔教人考古学者にして指揮官のノウス・オールドともう二人の来客。ウルフ・ジャスティス・ミウと時の番人リークが怪我の手当てを受けていた。
ロックとリンバラは一瞬キョトンとしながらも先日魔王軍なる存在が襲撃しにきたことを思い出し。その時に率先として戦ってくれたのが彼らだと報告に上がっていた。魔王軍の情報もそうだが、ウルフやリークもいるのなら都合が良かろう。
「傷の手当てを受けている最中に申し訳ない。魔王軍の情報もそうだが夜分遅くにいきなり押しかけたことを許して欲しい。大天使イヴ様と考古学者であるノウス・オールドさんに是非とも聞きたいことがある。━━━━━大天使エッグ・・・・その全貌を」
『・・・・・』
大天使エッグ、その名が出た瞬間。その場が凍り付いたように思えて仕方ない。只でさえ静かな空間に更なる緊張感が増したような感覚・・・・・ここにいる者達は少なからず大天使エッグと関わりがある。
ロック、リンバラ、スーは戦いの最中に。リークは過去改変で。
大天使イヴは立場上として、ノウス・オールドは研究者として。ウルフに至ってはエッグから洗礼を受ける始末━━━━
誰かしらが何らかの情報を得ているこの空間は正に爆竹。
小さな火から焚き火を起こさんばかりに。けれど、謎は謎のままに終わることを誰しも分かっていて。
「真実」
刹那、辺りに強い光が放たれる。真実。それは天使のみが使える秘術にして神の領域。大天使イヴはその真実の光を隠蔽したのだ。
「それはまだ、言えない約束だからね♪」
大天使イヴの背後で大天使エッグがほくそ笑んだ。
そして彼らの脳裏からは大天使エッグの情報は一切消え失せた。
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