乗り越えた先に
「いい加減にせぬか!?龍神ドモ!!」
「しかし、こいつは龍神族の品位を汚した張本人・・・・・!黒竜を産み出した怪物━━━━そんな奴を生かそうとでも!?それを龍神代表、家族であらせある貴方が」
ラスト・エンペラーは龍神の片割れの言葉に深く賛同した。龍神代表とは言ってもラスト・エンペラーにだって感情はある。それがどれだけ長命な種族だろうと理に富んだ種族だろうと一時の迷いや一つの発言に翻弄されもする。それが生きていることであり、生き物としての摂理だ。
我々は只の龍神であって傀儡などではない。
そこに転がったリークのように傀儡となって罪を償うことしか出来ない種族ではない。だけども、
いくら相手が悪いからと言っていくら怒りを買ったからと言ってそれ以上の行動に出ては一環の終わりである。手を出せば、同じく手を出してそれ以上の殺しを加えてはリーク以上・・・・・・黒竜よりも気持ち悪い。倫理がどうのこうの我々に言う資格はもはやない━━━━━━
ラスト・エンペラーは絶対的な治癒によってリークの心身の傷を洗い流し。リークが目を覚ます前に龍神たちに拳を振り下ろした。異論ありそうな龍神には後で叱っとくとして、そうこうしている内にリークが目を覚ました。
その光景はリークすらも目を疑う光景だった。
龍神が皆、リークに頭を垂らして謝罪の意を示していたのだから・・・・・・
城の最奥に魔王デンスの間があり、当然魔王デンスは悠々と侵入者が来るのを待っていた。
だが、それはあくまで建前で。既に侵入者は魔王デンスと対峙していたのだ。それも互いにお茶を交わし合いながら・・・・・・・魔王デンスは今回の人間国家侵略失敗の背後、この城の侵入を企てた主犯。死又はX、災厄が目の前にいるのだから・・・・・・
「にしても、良かったのですか?敵とは言え隷属者であるウルフ・ジャスティス・ミウの単独行動に加えて。時の番人リークをも送り込んでしまって・・・・いくら貴方が独立した悪魔だからといって、あまりにもリスクが大きいのでは?」
魔王デンスの問いに互いが茶を啜って各々が持参したお菓子を食べて。災厄は答えた。
「心配いりませんよ、以前の隷属者でもあるグランは少々。吾の扱いを心得ていなかった。だが、ウルフは違った。それだけでも独立して動くに越したことはない。魔王軍にだって実践経験にもなる上に互いの生命宣言にもなる・・・・・・これがどれほど重要な意味を持つかは言わなくても分かることだ」
「ああ、我々には子孫反映の文字はない。栄えることもなければ朽ちることもない。一見すれば理想郷のような話だ。だが、生き物がそれに手をかける限り‘アダムとイヴ’の呪いは解けない━━━━━」
「愛殺しの蛇か・・・・・」
「ああ、我は吸血鬼と龍神のハーフだ。それ故に魔王になった。だが、吸血鬼の母と龍神の父はある日突然━━━━殺された。しかも目の前で。愛殺しの蛇は愛を求める。愛が深ければ深いほど、歪んだ分だけ愛殺しの蛇の肥料になる・・・・・幼かった我は何も出来ず見ていることしか出来なかった。そして気がつけば愛殺しの蛇の姿はどこにもなく。父と母の姿もなくなっていた・・・・そう、愛という思い出と共に」
「つまり、愛殺しの蛇は吸血鬼の母と龍神の父という存在を消しただけではなく。魔王デンスからも存在を抹消させたのか」
「ああ、そうなる。だが我の両親がいたかも今でこそ怪しい。親の名前すら知らないと言うのに種族名だけは分かる・・・・・・下手をすればこれも全てあの蛇の仕組んだ策略かもしれない」
「いや、あの蛇がそこまで知恵が回るようには見えない。恐らく面倒になって手を抜いたのだろう」
「なんだか、詳しいな。まさか知り合いだとでも?」
「いや、吾は知り合いではなく兄弟━━━━愛殺しの蛇が捨てた心臓ってところだよ。気まぐれで吾を捨てるくらいだ。話の筋としては間違っていない」
「・・・・なるほど。貴方の強さの秘訣が少し分かったかもしれません。あの時、千の軍勢の中に災厄がいて。その脅威に身体が反応した・・・・・これは全て偶然なのでしょうか?こうして災厄と魔王が相対して憎き蛇との因縁もある。その蛇も倒そうと思えば倒せるのでしょう?それとも血の繋がった兄弟を討つのは流石に抵抗が?」
「いや、愛殺しの蛇は必ず討つ。それは決定事項だ。そのためにはまず魔王軍にも力を借りたい。魔王軍の生命宣言の手助け、魔王デンス自身の因縁も晴らせる・・・・・それに」
「君も気になっているムーン・ジャスティス・ミウとの邂逅も進めよう。そのためには剣が足りない。炎将レイと月将ムクの二つの剣が━━━━━━」
「ふぅ、よかろう。前向きにその話を検討させて貰うとしよう。直ちに立ち去るが良い━━━━━」
そう言われると死又はX、災厄は空間跳躍によって姿を消した。
それと同時にウルフ・ジャスティス・ミウと時の番人リークの消失が確認された。魔王デンスは城に巡らされたコールを通して撤退を命じた。
「くそっ!ウルフ・ジャスティス・ミウめ!我々吸血鬼たちをあざ笑うかのようにあしらって・・・・・!畜生め」
「それは我々龍神とて同じだ。スリ・ランカー」
スリ・ランカーの嘆きに龍神ラスト・エンペラーがなだめる。
「我々龍神たちは目の前の敵意に飲まれて危うく黒竜同然の立場になっていただろう・・・・・」
「けどよ、俺たち吸血鬼はウルフの野郎に笑われるだけで済んだ。だが、あんたらは違うだろ!?憎き相手に頭を下げるなんて・・・・・俺には出来ねぇよ」
「うむ、確かに屈辱以外の何者でもない。だが時として戦場に出た時我々は再び頭を垂らさねばならない。今回のような醜態を人間国家でやっていたのなら━━━━━我々は只では済まされなかっただろう」
ラスト・エンペラーの呼び声に反論を示せる龍神はいなかった。
事実も事実だけに言い返せないのもそうだが。龍神ラスト・エンペラーの眼には強い殺意が隠っていたからだ。それほどまでに龍神たちの行いに激怒したのだ。吸血鬼のスリ・ランカーもお手上げとばかりに手を上げる。実質、吸血鬼たちを含めスリ・ランカーは龍神ラスト・エンペラーの手によって育てられた。なので、この時のラスト・エンペラーを敵に回そうなら命が幾つあっても足りやしない。そして、その中には魔王デンスも含まれてをり。
正真正銘の家族なのだから・・・・・・
そして魔王の間からその人物は現れた。皆一斉に膝を付き、頭を垂らす。全ては魔王のために、全ては家族のために・・・・・・
『魔王デンス様━━━━━━』
各々が魔王デンスへの忠誠を今日も明日も募るのだった。
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