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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第一章
37/55

侵入、全軍せよ

孤島の城にて空間跳躍から無事に帰還した魔王デンス軍一行は初めての先陣からの脱力感や猛烈な息切れに加えて汗。彼らの戦不足が如実に現れていた。吸血鬼たちは回復ヒーラーとしての力は抜群だが、仲間同士の連携が今一歩だったためにろくな回復もほどせなかった。

一方の龍神たちは長年の洞察力に加えて勘も鋭く、咄嗟の対応で全軍を帰還させる配慮は良かったものの。やはり個人個人の対応にも限界があった。これは家族ミックスの連携━━━━━団結が足りないことが今回の敗因だろう。

吸血鬼スリ・ランカー、龍神ラスト・エンペラーも幹部としても悔いある結果に悔しくもあり、己の指揮の甘さを呪った。だが、誰一人として魔王デンスが悪かったなどとは思わなかった。それはきっと、魔王デンスの表情がとても有意義ものを得たという・・・・・卒兵にはなり得ない王としての威厳かあるからだろう。

    千里眼探求ルツボ

正に魔王デンスにふさわしい王の力だと負けて尚、魔王デンス軍は大きく全進した・・・・・かに見えた。

「大変てす!城に侵入者を発見・・・・!!直ちに援軍を━━━━━」

「侵入者?ここは一切の情報を漏らさず、隠密し続けた場所・・・・今さらそんなことが起きるのか?」

吸血鬼スリ・ランカーが疑問を抱くのに対して龍神ラスト・エンペラーは髭を撫でながら「先ほどの戦いで、月将ムクがスパイを送り込んだのではないか?」と仮説を立てたことで一同はスパイ疑惑の高い侵入者を迎え撃つことになった。龍神たちは際奥を守る柱として固まり、吸血鬼たちは侵入者を迎え撃つために先陣をきった。


「情報では、正道の広場で侵入者と応戦しているらしい。俺が侵入者の野郎を惹き付けている間に負傷者の援護だ!」

『はっ!』

吸血鬼たちはスリ・ランカー率いる軍勢は瞬く間に正道の広場について、侵入者と思われる青年の男を捉えた。男は吸血鬼たちを見るなりうやうやしく頭を垂らして名を告げた。

「初めまして、私。人間国家に属する北部隊隊長ウルフ・ジャスティス・ミウと申します。以後お見知りよきを━━━━━━」

「人間国家・・・・・そうか、やはり貴様が侵入者か。ここから先は我々吸血鬼が相手だ!のこのこと敵地に乗り込んだこと、後悔させてやろう・・・・・!」

「ええ、そうして頂けると助かりますね・・・・!」

ウルフが先手を打ったのは先ほどスリ・ランカーの指示によって仲間の吸血鬼たちを援護していた方角である。

無論、援護に回っていた吸血鬼たちからすれば攻撃から逃れる術はない。だが、今回だけは違った。ウルフの波動が放った剣術をスリ・ランカーは先読みして援護に回った仲間に結界を張っていたのだ。それにはウルフも一瞬驚きはしたもののすぐに体勢を整えた。

「さすが、といった所でしょうか。自分のテリトリーでも中々ああはいきませんよ?それほどにこの城の警備が硬い・・・・でも。もう一発食らっても防げますか・・・・!?、ッ?視界が━━━━━━」

「囲め!蝙蝠たち!敵の視界を奪った今、肉片の一つ残らず吸い尽くせ!」

蝙蝠たちがウルフ・ジャスティス・ミウを捉えて確実なまでの距離に迫る。回避も出来なければ死角もない。ましてや防御をしながらでは災厄の隷属者でもあるウルフでも至難の技であり、人間に出来る芸当ではない。そう、他に‘協力者’がいない限りは・・・・・・

「!」

刹那、気が付けばウルフ・ジャスティス・ミウはいなかった。

正確に言うならばウルフと入れ替わりで謎の扉が現れたかと思えば、蝙蝠たちは謎の扉へ吸いこまれていき扉が吐き出したかの如く蝙蝠たちは石化した状態で放り出された。

そして、吸血鬼スリ・ランカーの背後にはウルフ・ジャスティス・ミウが刃を構えて━━━━━━━瞬時の対応で受け身を取った。スリ・ランカーも戦略に関しては自信がある。だが、それは相手とて同じことで・・・・・・互いの手札をめくりあいながらその場は膠着状態となった・・・・・・・・



場所は龍神たちが待ち構える最奥地、龍神たちは最後の要である魔王デンスの盾となる存在にして力や知識、長年と秀でた勘を持っていた。彼らは正に王将の駒を守る絶対的騎士である。

そしてその陣地に一つの歩が歩みを寄せた。

例の場所がゆっくりと開かれて一人の老人がずかずかと現れたかと思えば忌ましい表情を浮かべた元貴族にして時の番人リークが龍神たちと相対した。元々リーク自身がふてぶてしい態度を取ることに変わりはないが。リークとしても彼らの相手をするのは気が引ける。リークはグレイにそそのかされて例の場所を産みだし、怨念の力によって黒竜なるおぞましい存在を世に放ってしまい・・・・・・・それは龍神たちも知る事実だ。

因果応報、因縁の対決と言えよう。

「初めまして、じゃな?悪いが任務のためにもそこをどいてくれないか?ワシとて無駄な体力はとりとうない。勿論、龍族がそれを許さぬのなら好きにするがよい」

「ならば、言わせていただきます。何故、ここに来た?それも黒竜なる邪悪な竜を産みだした貴様自身が?何もなく帰すと思うか?」

龍神の一人が眼光を限界まで見開きながらリークを捉える。その怒りは蚊の羽ばたきさえも許さない圧力。きっと内心ではその他の龍神さえも同じ気持ちであろう。長年生き長らえて寛容な心を持ったとしてもクローンとも呼べる邪龍を解き放ち、龍の威厳を地に下げただけではなく龍神たちの倫理観にも大きく響いたのだ。反論の余地もないしましてやその元凶の張本人が現れたとなれば・・・・・・

「主たち、謝罪の一つや二つしただけでは許されないのは分かっておるし。ワシを瞬時に殺してもその怒りが消えることはなかろう━━━━━━じゃから」


        ワシを永遠に殺すがよい


「は?何を言って━━━━━━」

「ついに狂ったか?ならいいさ、殺してやるよぉ!!?」

「うっ!?」

べしゃんとまるでトマトを潰したような嫌な音、文字通り。時の番人リークを殺した瞬間だった。

「はあはあ、は。大したこともない・・・・?」

「ぶっ!?・・・・がばっ、ぁぁああ・・・・・・!!?」

血みどろの現場から激しい痛みを上げたリークがその場から蘇ったのだ。しかも先ほど潰された痛みを持った状態で━━━━━

「何がしたいと言うのだ!?貴様は・・・・!!」

「ガッバ・・・・・じゃから、幾らでも殺せと。言ったじゃろ━━━━━」

次にリークが殴り殺されると同時に蘇生され、内臓を引き裂かれ、握り殺され、龍神たちのブレスを浴びせられて、精神的に痛め付けて・・・・・・果てなく果てなく殺してもリークは蘇り続けて。互いに磨耗した。龍神たちも息を切らして汗を撒き散らし、魔力も底をつきかけていたし。何よりも時の番人リークの精神状態が危なかった。

いくら蘇ろうとも痛みを持ったまま何の抵抗もなく、攻撃を受けるのは苦難の技である。抵抗もなく痛みも和らげず、サウンドバックとして永遠に殺される・・・・・・・・それはつまり。

「・・・・・・・・」

心を殺すに等しい。

時の番人リークがもはや、言葉も発さず。目の移ろいも消え失せて肉体が死ねば肉体だけが蘇生される。

龍神たちはそれほどまでの回数を重ねてしまったのだ。いくら敵とはいえ、流石にやりすぎである。

途中まで殺意を露にした龍神たちの中にも殺意が薄れて動揺が隠せない龍神もいた。

だがやはり。そんな龍神たちの中にもまだ根に持った悪意━━━━━━殺意を隠せない龍神もいるようで。

その龍神がずるずるとリークの元へと近付いていき、

顔面を握り潰して。蘇生されると同時にふん!と地面に叩きつけては一発一発ゆっくりとけれども重量のある拳を繰り返す・・・・・・・      ざわ

もうやめてくれ  やめてくれよ・・・・

    もういいだろ    これじゃあまるで

ざわ       ざわ      ざわ

 龍神の私たちが・・・・・   ざわざわ


龍神たちはもはやそんなことすら思っていた。

望まない戦い、望まない過ち、望まない血。

誰かが、きっと誰かがそう言ってくれる。そう。

「・・・・・・いい加減に!!せぬぬかかかかかかかかかかかかかかかああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!?」

ついに戦いに終止符が打たれた。龍神最強にして最古の龍神ラスト・エンペラーか咆哮した。




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