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ムーンライトの剣~守りたいものがそこにある~  作者: 西銘勇河
二部 第一章
34/55

序章の蛇、時既に遅し

どこかの世界、どこかの時空に巣を張っている愛殺しの蛇は牧畜した体積をひしひしと揺らしながら。理不尽な怒り、不条理な愛を身体に吸収させていき再び大きく咆哮する。

「ああ・・・・感じる!?生命の愛が!命が!僕の身体に染み込んでくる・・・・!?ここまでの力を溜め込むために数億年の歳月を要してしまった。だが、それももうおしまい━━━━━━全ては‘ムーン・ジャスティス・ミウの愛’を根こそぎ奪い取るためなのだから・・・・・・!」

愛殺しの蛇が興奮の吐息をあげながらしっぽを揺らす。その瞬間、愛を奪われたか弱わな人間たちが幾人と死んでしまったことを人々は只の病死だのと思うのみだった・・・・・・・・



いつものように魔教人考古学者にして指揮官であるノウス・オールドがいそいそとペンを走らせている時だった。突然、研究室の扉が開かれたのだ。

他の魔教人やましてや大天使イヴ様じゃあるまいし・・・・・一体、誰が━━━━━━

「え?」

「ノウスさん・・・・!私に、文の書き方を教えてくれませんか!?」

そこにいたのは紛れもないミウ自身だった。

ノウス・オールドは何事かと動揺しながらも興奮するミウをなだめるような口調で「どうしたのですか?急に文を教えろと言われても困りますよ?」と返した。それに対してミウはさらに顔を近づけて断言する。

「貴方の文が未来を紡ぐみたいに、私もレトゥー見たいな人を守れるような・・・・・言葉を遺したい!でも、私にはそんなたいそれた事は書けないけど。だからといって諦めたくもない。これは完全な私のわがままだけど、お願いします・・・・・!」

「━━━━━教えろと言われても、私ノウスは只の研究者。ミウさんが望むような答えはないかも知れませんし。何より、これは人に教わる事ではありません。ですが━━━━━見学するくらいなら支障はありませんよ」

「・・・・ありがとうございます!」



「しかしまた、ミウさんは突飛なことを為さいますね?私に文を教えろなどと・・・・・それにミウさんが先ほどから持っている本━━━━━━そうですか、噂には聞いていましたが。彼女は旅立っしまったのですね・・・・・・」

「・・・・・ええ」

「それで、歴史書を常に記すノウス・オールドならと先ほどの子どものような愛らしい瞳で飛び込んで来たのですね・・・・はは、いやはや。歳を取るのは怖いものです。まるで孫や姪っ子と話している気分になりますね」

「///冗談はこれくらいにして!結局、かれこれ二時間・・・・お昼時間まで話し込んじゃいましたけど。お仕事に支障はないですか?見学どころか只のおしゃべり会になっていて、お邪魔じゃなかったでしょうか・・・・・?」

「いえいえ、薄暗い研究室で一人黙々と作業するよりも返って良い気分転換になりましたし・・・・・何よりも明日の便箋師レトゥーが書いていたのは人類の未来などと言った大層なものではなく、今みたいな何気ない明るい日々こそがそこには記されているのではないですか?━━━━━もう、気づいているはずです。その本はもう二度と完結しないし。ましてや私自身にでもそれは無理です。彼女が最後まで貴女を想い、本を遺したなら・・・・・その答えはミウさんが出すべきです。でもまあ、最初から決まっていたのでしょう?」

「━━━━━はい、私。この本をレトゥーが遺した最後のページから・・・・・未来を!」

その瞬間、ミウが魔教人童謡説にペンを書き加えたと同時に童謡説が淡い光を放つ。それはレトゥーから未来のバトンを託されたかのように本の権利がミウに譲渡された瞬間でもあり、ノウス・オールドが自然的にその保証人となった瞬間でもあった。

ノウス・オールドがミウの保証人となった意味をまだ誰も知らない・・・・・・



「・・・・・・・」

南部隊隊長の椅子からミウが魔教人童謡説の権利を受け継いだ瞬間を見届けて。クイニー・ジャスティス・ミウは息を吐いた。

確かにクイニーには魔力や武術といった秀でた才能はない。だが、クイニーは誰よりも他者に寄り添う力を持っていて。

変換魔法の才能を持ち合わせていた。

だが、そうは言っても平均的に変換魔法に優れているだけで第一変換魔法を使える者が非常に少ないのだ。

クイニーはその少なからずの利点を生かして空気を変換魔法の力によって双眼鏡へと変えることで。先ほどのミウの行動を観ることが可能となった。

ミウを観ていたのは敵の視察も含めて、実の我が子を心配する親心から来るものでもあった。表向きの活躍が出来ない分、クイニーはクイニーにしか出来ない‘仕事’をやるのみだ。

「そろそろね・・・・・」

その時、とんとんとノックがして合図をする。

「隊長、地下牢の準備が出来ました」

「お疲れ様、後は私に任せて」

「御意」

そこからクイニーは意気揚々と廊下を抜けて地下牢に足を運ぶ。

地下牢とだけあって、そこには小汚い人間の囚人がいた。

囚人はさも悪びれることなくクイニーがくるなり「助けてくれ!」と懇願した。だが。

「あなた、嘘をついてるわね?」

「へ?」

クイニーは全て、お見通しだった。

囚人がどのような悪行をして、どのような嘘をついているのか。

変換魔法の力によって囚人の心を見透かしたからだ。

囚人が無罪を訴える被害者を気取ればここから簡単に出してくれる・・・・・そんなアホ面の奴らだと。

そんな些細な愚痴までもがクイニーには全て読み取られていたのだ。そんなこともついしらず、囚人はしばらくポカンとした後に改めて被害を訴えだした。

「嘘じゃありません!俺はただの一般市民で・・・・・たまたまそこにいや遭わせたのが野蛮な山賊だったのです・・・・!その証拠に俺は何の装備もなく、現に山賊から命を狙われたじゃありませんか!?あれのどこが罪だと言うのですか!」

「・・・・簡単に言ってしまえば貴方はあの山賊の親玉であり、常日頃から山賊の仲間たちとよく揉めていたこと・・・・・次に貴方は王都だけでは飽き足らず、その他の町にも盗みだけではなく残虐極まりない行為を至るところで見受けられ、町人の証言や貴方方のお顔をバッチリと映した写真もこの通り━━━━他にも貴方方が常連の酒場からも情報を頂いて。身元の特定も終わっています。そこら辺の調査は上位裁判官ミッツ・ジャスティス・ミウの実力でしょうね。後は貴方方のお仲間は一人残さず捕縛しました。貴方が親玉であると簡単に暴露してくれましたよ?さあ、他にも言い逃れる証拠はありますか?あるのなら考えなくもありませんが━━━━━?」

「・・・・・あはは、ははは。ははは!?そうだよ!俺があいつらの親玉だよ。今回はしてやられたぜ。甘い顔してりゃ、簡単に出してくれる奴らばっかりだったから今回も期待してたのによ・・・・ああーああー。終わった、終わった」

「・・・・・嘘はついていませんね。では━━━━━」

「あ?っうぐ・・・・・!?」

その瞬間、クイニーはおもむろに牢屋の鎖をかけたかと思うと突如として牢屋の至るところから鉄で出来た丸太が囚人を貫いたのだ。あまりの苦痛に囚人は息を切らしながら「何しやがる!?」と叫びを上げるもクイニーは聞く耳を持たず、まるで執行のボタンを押すかのようにこう呟いた。

「時既に遅し」

「・・・・!?」

次なら執行が始まる直後、囚人の身体を丸太が完全に貫き通してしまい。囚人が動かなくなる。

以上がクイニーの責務の内の一つ、クイニーは常に表には立たない。けれども娘を想い、愛する者達のためにクイニーは誰かの頭上に糸を垂らすことだろう・・・・・・・



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