おわかれと捕縛の関係性
悪魔の骸の山で、二人の悪魔が立っていた。
一人は炎将レイ、一人は災厄。彼らは常に動じずただただ互いに睨み合うだけ。その場の空気が炎将の魔力によって爆惨し、街の空気は一変。
何も残らない焼け野原と化した。
災厄という無敵の存在を除いて・・・・・
「変わりませんね。こうして災厄様と相対すると初めてお会いした時を昨日のように感じられます━━━━これは只の独り言ですが、今この空間は援軍の来る悪魔達からは死角になる火災です。直ちに撤退してくれるならそこの近道がスーの元へ行ける最短ルートになっています。これは決しておっせかいではなく、‘只の独り言’ですので・・・・!スーのこと、頼みましたよ?災厄様」
「・・・・ふ、当たり前だ」
「・・・・・行ってしまいましたか。援軍!直ちに全軍せよ!敵は味方の支援へ出向いた。ここを叩けば我ら悪魔軍の栄誉なり!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魔教人童謡説、レトゥーの手によって記され続ける未来の禁書にして絶対。余程のイレギュラーがない限り、それは覆らない。明日の便箋師レトゥーにとってその未来だけは絶対に阻止しなければならなかった。だが、ダメだ。
この未来だけは誰にも変えられない。絶対に・・・・・
「・・・・・覚悟を決めなさい、レトゥー!」
レトゥーはいても経ってもいられずに例の場所を飛び出して、戦場へと赴いた。
「氷繊執行・・・・・!」
「おらっ・・・・!?」
ロックとリンバラは刻々と膨れ上がる水将スーの体積を剣術で弾くもまるでビクともしない。攻撃はバネのように跳ね返り、かと言って直積的な攻撃に出ても鋼のように響かない要塞そのもの。
その度に苦戦を強いられてしまう。
「なんて、硬さだ・・・・!敵は一向に攻撃してこないのに。俺たちの魔力が消耗しやがる。しばらくしたら、馬鹿みたいな攻撃来るって分かっているのに・・・・」
「正に時限爆弾ですね。でも、彼の魔力の源は一体どこから━━━━━」
と二人が飛空を飛びながらも辺りを見渡した時、リンバラは街道を走る二人の姿を見た。それは・・・・・
「ミウさん!それに━━━━━何でレトゥーさんが?」
「おい、リンバラ。よそ見してたら俺たちは御陀仏だ!気を引き締めろ・・・・!」
「・・・・了解」
「これは・・・・」
ミウが来る頃には水将スーは今にも破裂しそうな勢いで。
魔力の暴走が目に見えていた。あのままでは世界から水が消えてしまう・・・・・暴走を止める何か━━━━━━
「来たか、ミウ」
「!ウルフお兄さん、いや。災厄?どうしてここに・・・・・」
「あそこでのたまう馬鹿を連れ戻すために少しばかり準備を整えていたのだよ。あいつは昔から懲りないことばかり、今宵は吾が責任を以てあやつに再び━━━━罰をつかまそう!」
その瞬間、災厄が手を翳すのを合図に。血塗られ色の大型魔法陣が現れて魔力の発動を待つかのように。
悪魔と悪魔との根比べが始まった。
それを横目にミウ自身も「加戦します!」と剣を構えて銀色の波動を放とうという瞬間。ミウの背後から一歩も動かないレトゥーが何やら呟いて手を傾けたと同時にミウの剣術とは違う妙に眩い光が剣を包み込んで、光の波動が初めて水将スーに大きな傷を与えたのだった。これにはミウも呆気に取られる。確かにいつも通りに剣を放ったはずだが・・・・今の攻撃からは二つのいや、二つに似たオームの光が月の魔力が僅かに匂う。
ずっと後ろから着いてきたレトゥーの様子だって・・・・・これではまるで。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッアアアアアッッッッ!?!?!!」
ミウの攻撃が効いたのか、突如として水将スーが咆哮した。
水球の形から徐々に変形していき、ドクンドクンとまるで心臓かのように暴れ出し。頂上の頭が花弁を纏わせて一気に水分が爆発した。火山が噴火したようにほんの一部ではあるが爆発した水分は街並みや大地に当たると地形という地形を溶かし尽くし。咆哮するだけでも嵐のような荒ぶれである。
上空にいたロックやリンバラはどうにか回避したものの。
災厄が多少庇ったのもつかの間、ミウが片脚を負傷した。レトゥーの回復もあり大事にはいたらなかっが。下手をすれば死んでいたかも知れない。これも二人がミウを守ってこそではあろう。
肝心の災厄は魔法の発動に時間を喰らっているため、完全には援護出来ないがロックやリンバラ、ミウ達がここをしのげばどうにかなるかも知れない。だが━━━━━
「これでは、ミウが・・・・・」
レトゥーは内心、顔には出さなかったが焦りを感じていた。援護する者も力があるにも関わらず。一番大事な物を目の前で失うのか?と葛藤の末にある恐怖、覚悟。その瞬間レトゥーの脳内では月将ムクとの茶会での会話が流れる。
もし、貴女が魔教人童謡説の未来を破棄するとき
もし、貴女が魔法を使い攻撃するとき
もし、貴女が童謡説の筆を折ったとき
もし、その全てを成したとき貴女は━━━━━━━
死を以て、契約は解消される
刹那、レトゥーは何の躊躇いもなく童謡説を投げ捨てた。
それは未来を捨てたも同意。筆を折り、レトゥーは久しぶりに魔法を唱えた。過去のレトゥーが最も得意とした炎の魔法━━━━
「Fine・・・・・・!」
「・・・・!?レトゥーさん━━━━━」
「さよなら」
水将もろとも明日の便箋師レトゥーは炎の中へ旅立った。
「あっ、あ、痛い。痛い痛い痛い!炎の女が憎い・・・・」
水将スーに負荷でおわすも、まだまだ水将を押さえ込むまでには至らなかった。にも関わらず、ミウの目の前で愛する人がまた一人旅立ったのだ。憎悪も悲しみも怒りも悔しさだって・・・・・!ミウの全身にのし掛かる。転がった魔教人童謡説にはページを巡ってもそこで筆は止まっていた。涙がぴたぴたと
レトゥーの温もりを生きていた証拠が黒く涙によって濁り抱きしめて。ミウはその場に立った。泣いていても覚悟だけは挫けまいと内部通信を通してロックとリンバラにも確認を取る。
幸いにも水将は衰弱している。そこを叩くには絶好のチャンス。
傷跡を中心に攻撃を連携する。その間に災厄も徐々に準備を整えつつあった。その瞬間まで、レトゥーの分まで・・・・生きる!!
「お遊びはここまでだ」
いよいよ災厄の準備が整った。
血塗られた魔法陣から禍々しいほどの魔力の塊が龍神の如く呻きをあげる。だが、それは決して龍神でもなければ蛇でもない。腕だ。死又はX、災厄は地獄の底から閻魔大王を召還したのだ。無論、閻魔大王そのものを出すこともできるが、今はウルフ・ジャスティス・ミウに隷属している身。誤ってしまえば、ウルフの身体が持たないし何よりも災厄の力をもってしても途轍もない時間を有するため、そう簡単には使えないのだ。それゆえに右腕だけの召還、それゆえに罰を執行するには‘丁度いいハンデ’である。
「閻魔ノ右腕・・・・!」
落雷に撃たれた。そこにいた者達からはそう思われてしまうほどの迫力、力、裁き。それら全てが水将スーの頭部をかち割るかの如く重い一撃が全てを受け止めて。地面もろとも潰れてしまって・・・・右腕が上がる頃には全てが終わっていた。
「御苦労」
災厄がそう呟くと閻魔大王の右腕はヌメヌメと魔法陣の中へと帰っていき。変わりに元の大きさに戻ってぺしゃんこになった水将の胸ぐらを災厄が掴んだ。
「軽く意識が残る程度に生かしておいだぞ?スー?」
「ハハハ・・・・御気遣い痛く染み渡ります・・・・」
「あれで手加減してたなんて・・・・」
上空から帰って来たロックやリンバラも含め、ミウですらその会話に懸念すら抱いた。まるで、それが日常茶飯事だと言うかのように━━━━━
災厄はため息を溢して、ある術式を水将に施した。
「これは・・・・」
「束縛魔法、主に罪人や奴隷に使う魔術だ。よくエターナルが使うのも束縛魔法であるから・・・・今日を持って貴様は吾の奴隷だ。お前の部下達も‘そういったこと’が好きなのだろう?なら、災厄にして最恐のご主人様にはワンと吠えるのも嗜好であろう?」
「・・・・!!はい!いえ、ワンワン!嬉しい限りですワン!!」
『・・・・・・・・・』
「リンバラちゃん」
「なんです、ミウさん」
「ああなってはダメよ?」
「なりませんよ、ねえ?ロック隊長?」
「・・・・・・」
「黙らないでください」
「あと、そこにいるのは確かリンバラ君だったかな?」
「あはい。なんでしょうか?」
「しばらくでいいのだが━━━━━」
「こいつ(水将)を飼ってはくれないか?」
「・・・・・え、え~!絶対に嫌です!!」
リンバラの悲鳴が青空へ響き渡った。
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