グレイと魔教人の密会条約
地球を離れて、グレイ達は円盤に乗って宇宙をさまよっていた。最初こそ宇宙の資源やら探索に専念していたところ。あまりにも‘過去の地球’で深手を負いすぎて・・・・・円盤にもその誤作動は伝染していた。
『操縦不可能!操縦不可能!これより、過去の地球へ再度緊急着陸する!』
『また、あの災いの地へ降り立つと言うのか・・・・!?』
『畜生め・・・!畜生め・・・・!』
『くっっっっっっっそぉぉぉぉぉがぁぁ・・・・・!!!!!!!!!!』
ものすごい速度で円盤は過去の地球へと舞い戻った。
『・・・・・・・・・・・』
しばらく無音になる。お互いに戦力もろとも底を尽きた。仲間に連絡を取ろうにも時間がかかかるし・・・・・なにより、敵の拠点で吞気に暮らせるほどグレイ達もバカじゃなかった。
では一体どうするべきか?苦肉の策だがそこは歯を食いしばって━━━━━━グレイ達はある薬を互いの口へ飲み込んだ。
その薬は危険区域での潜入捜査にグレイ達がよく投与しているモノで。例えば、この星に住む人間に化けることすら・・・・
「・・・・どうやら、上手くいったようだな」
「ああ」
「では、いくぞ。魔教人達の集う教会へ!」
「・・・・・なあ」
「なんだ?」
一方で教会の方では魔教人達が今日も魔法陣を唱えているときだった。いそいそと小さな会話が流れる。
「俺たち、もう必要とされていないんじゃないか?」
「・・・・!き、貴様!?何を言うかと思えば。我々は神聖な儀式を行っていて━━━━━」
「でもそれは大天使イヴ様を蘇らすだめの儀式であり・・・・現にイヴ様は復活して。ノウズ・オールド様以外の下っ端魔教人はもう・・・・」
「・・・・・・・」
各自、各々。言われなくとも分かっていた。こんなことしても何も変わらないくらい━━━━━━そんな時だった。
見慣れない顔の魔教人達が姿を見せたのは。
『・・・・・』
「見慣れない顔ですが。もしや、遠方の?」
「いいえ。我々はどこにも属さず、自ら神々を創造せし者━━━━竜神、未来神AIキョムがその一例と言えるでしょう」
「!まさか!?」
「そうです、我々は宇宙人。グレイと呼ばれる存在です。まあ、あなた方に説明しても無駄なので単刀直入に致します。魔教人の皆様━━━━━」
「和解条約・・・・・をして頂いても?」
『へ?』
あまりに意外な答えに思わず呆気に取られる。
だが、その表情は冗談や敵を油断させるための罠ではないと魔教人達にも察しがつく。見るからに魔力はボロボロ、行く当てもなく苦肉の策に出たということは顔を見ても分かることだし。第一、我々のような下っ端魔教人達に声をかけてくる辺り。隠密的に和解を試みているのだろう。本当に和解を求めるなら直々に大天使イヴ達のところへ出向かなければ意味が無い。
魔教人達もグレイ達も立場が乏しく無いに等しい立場━━━━
ならば、いっそのこと敵と一時的な和解を試みることで新たなる関係性を築こうと双方の会話で合致した。
だが、そうは言っても口約束にしか過ぎない条約を全ては鵜呑みには出来ないので。双方の血━━━━契約を施した術式をかけることで一種の契約を交えつつ、魔教人サイドからこんな提案が出された。
「我々は今、この魔法陣を唱えることで共鳴魔法によるセキュリティを万全にしていた訳だが・・・・・まんまと君たちに一杯食わされた。だから、その。君たちにも共鳴魔法の術式を組み込んで欲しいんだ・・・!もちろん、街の安全と和解の証明にもなるだけじゃなく君たちの安全管理にも繋がるはずだ・・・・ここまで来て、異論はあるかね?」
「・・・・分かった。その条件、飲むことにするよ。まあ、せいぜい一時の和解に案ずることだな」
「・・・・宜しいのですか?」
「ええ、お構いなく」
一方で。魔教人考古学者にして指揮官を務めるノウズ・オールドは大天使イヴに対してグレイと魔教人達の邂逅について疑念を抱くも大天使イヴは平然としかし実に余裕のある返答をした。
「問題ありませんよ。もはや彼らに戦う余地はありませんし。何より、下で溜まった新人を無駄にはしません。彼らと彼らの邂逅は実にちっぽけです。ですが、数々の童話にも一騎当千せし者よりもみんなのために成る者ほど存外楽しいのですよ?」
「ははは・・・・いやはや。やはりイヴ様の懐は広いですなぁ」
「━━━━そのようですね・・・・」
と互いに含みのある会話をして、名も無き条約を見守り続けるのだった・・・・・
「ハアハア・・・・・・もう、我慢の限界だ!」
行方をくらましていた水将スーはシルエットの認識阻害を解いて。人型のまま人波に流されていた。とてもじゃないが立つことも喋る気力も湧かない。これはおそらく、悪魔としての欲望━━━━隷属者の存在が実に大きい。例外として中層幹部のグランや他の三将がそうだが。悪魔とは相手の感情こそが精神の鎖となる言わば薬に等しい。それがどれぼど大事で、隷属者に頼らねばならない悪魔ほど慎重に選べばならないと言うのに水将は一向に学びはしなかった。今さらになって後悔する。
抑えきれない欲望が脂汗をひしひしと垂らしながら・・・・・
魔力に包まれた身体は徐々に膨張していき・・・・・
「なんだあれ!?」
「きゃぁ!」
「嗚呼、嗚呼!憎い!?私を捨てた女達が憎い・・・・!」
水将スーは逆恨みの力を最も徐々に街から‘水という概念’を消失させていった・・・・・・
それは正しくパニック状態。街人を落ち着くようにと任務に出向いたロックやリンバラ、ウルフにクイニーの四名が勢ぞろいしていた。クイニーは街人の避難を含めて水将スーの包囲網を手掛ける。徹底された対応もさることながら、ロックやリンバラ達のサポートも流石としか言いようがない。
そしてあっという間に街がしーんと静まり返って、前方から見慣れない悪魔━━━━━水将スーの部下達がいかにも戦闘装備を纏っていけしゃあしゃあと来たではないか。
「ここは吾に任せてくれないか?クイニーは街人の安否確認をロックとリンバラ達にはその援護・・・・・あそこで膨れ上がった水玉に一針差し込んで貰いたい」
「了解」
「わかりました!」
「助かります!」
各々が各自の現場へと赴いて、水将スーの手下は意気揚々とウルフもとい災厄に向かって指を指して。
「おいおい、災厄様ともあろうお方が人間の味方をするのですかぁ?それだけの力があって。何故、世界を滅ぼさないのか━━━━━理解に苦しみますよ?」
「ああ、そうだな。お前達の気持ちも良く分かる。だがその考えはもう古い!世界を滅ぼそうが殺そうが、その世界には吾しかいない退屈でへんぴな世界にしかならない。それはどれだけ屈辱的で傲慢でどれだけ悲しいことか・・・・・お前等の親玉が背後で叫いているのがいい証拠だな?」
「・・・・残念ですよ、災厄様。私たちはずっと信じていたのに━━━━貴方には悪いがここで死んで貰います!!」
「その必要は無い。死ぬのはお前らだけでいい・・・・」
死ね
『・・・・・ッぐっは!?』
「ざっと半分か。これでも負けを認めないか?吾の権能を知った上で」
「く、それでもだ!!殺すなら殺せ!!」
「ふ。その覚悟、見事なり!・・・・褒美を遣わしてやろう」
その言葉と共に災厄は懐から拳銃を取り出した。災厄なりの手加減というヤツである。
敵の攻撃が青龍の如く幾つもの砲弾が災厄の前後を囲うまで災厄はわざとゆっくり弾丸を弾いた。
スローモーションで弾丸の煙と龍の砲弾が一つ、衝突した瞬間。
敵の砲弾と砲弾を壁と壁に弾丸が跳ね抜けて砲弾を放った悪魔の全身を貫通した。そして、壁と壁から跳ねた弾丸が敵の脳天を貫き。バタリと倒れ込むまで実に一秒とかからなかった。
その神業を敵の残党が認識した瞬間、我を忘れて我先にと逃げ出すのを災厄は見逃さなかった。
「2」
弾丸が敵を貫通して更に恐怖が高まる。
「3」
恐怖で立ち尽くす悪魔が瞬殺される。
「4」
瀕死の敵が命を落とす。
「5」
敵がごく僅かとなる。
「最後━━━」
最後の弾丸を災厄が撃ち込んだ正にその時、誰かが災厄の放った弾丸を弾き返して最後の残党が息途絶えた。
「来ると思っていたよ。おっせかいな炎の悪魔さん?」
炎将レイが災厄の前に立ち上がった。
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