表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/55

アダムとイヴ

北と南。各々に協力な味方と新たなる家族との再会を期してミウ達は飲んでいた。

少し癪を外しすぎたかもしれない。たが、ミウ達の気が緩むのも無理はなかった。何故ならば様々な修羅場に加えて様々な死闘を乗り越えたのだ。

悪魔五天王の炎将レイと水将スー、月将ムクとは勝敗は期してもなければ炎将や水将に至っては対峙したこともないし。その他のグレイや悪魔の残党も消えたわけではない。だが、ミウ達はそれでも懐が冷える事はないと確信している。

例の場所の権利及び、リークの加入。悪魔中層幹部グランはミウと明日の便箋師レトゥーと大天使イヴの手によって地獄へ落とされた。大天使イヴ曰く、今もなおグランは生きてはいるが。閻魔大王の絶対の元、厳重に罰せられているそうだ。

そして、過去改変によってミウ達の未来を変えたことで。不幸か否か亡くなった実母クイニー・ジャスティス・ミウの生還と義理の兄に当たるウルフ・ジャスティス・ミウの心臓にグランがランダムで送り込んだ場所にたまたま災厄が入り込む形によって。悪魔最恐クラスにして終焉の危機を免れ、そして災厄自身が仲間になったことは実に大きい。だからこそミウ達は久々に羽を伸ばして片手に酒を掲げることができた。

そんな様子を見て、ミウはほろ酔い冷ましに酒場の裏にある休憩室にて仮眠を取ろうとして━━━━━━━ゆっくりとだけど静かに。ぬねぬねと這いずり、扉の鍵が閉ざされた瞬間。

バッ!!!?と何かがミウを捕らえた。突然のことにミウは血の気が引いて声をあらげた。感覚で感じる恐怖とミウを縛りあげるその姿はまるで・・・・・

「へ、び・・・・?」

蛇が今にもミウを飲み込もうとしたまさにその時。


 ━━━━止まれ

その声が発せられた瞬間。ミウや蛇はおろか酒場の者から街人の動き、小鳥や山々すらもしーんと静まり返るほどに。その場に置いて神ですら時を止められるだろう。その場に死又はX、災厄以外を除いては・・・・・

「全く以て、貴様は強情だ。数億年の歳月をかけて尚。人々の愛をくすねる鬼畜の蛇・・・・・いや、愛殺しの蛇という名であったか。お前を死に追いやることは実に容易い。が、現在━━━━吾はウルフに隷属している身つまりはそこに居るミウの仲間だ。仲間の首は取らしはしない。数億年の月夜に賭けても・・・・」


━━━━━━時間よ、戻れ

その瞬間、言葉通り時間が巻き戻されていく。蛇はどこかへと巻き戻されてミウが休憩室に入ったタイミングを合わせて災厄はその場から空間跳躍をした後に「蛇よ、ミウの前から消えろ」とぼそりと呟くと同時に愛殺しの蛇は姿を現さなかった。

つまりは災厄は空間を止めて数刻前の歴史を上書きしたのだ。

その事実にどんな魔法使いも神々ですら絶対に気付かれないであろう究極にして無敵の力である。

その証拠がミウが休憩室で寛いでいるのが良き現れだ。

災厄は酒場の裏側に出ると真っ先に内部に宿ったウルフと通信した。

「ウルフ、起きていたか?」

「ああ、サイ。大丈夫、起きてるよ」

「先ほどから酒場が賑やかだったから夜空の空気を吸いに来た訳だが・・・・・どうやら、酒場では‘小さな蛇’が出て騒ぎになったそうだが・・・・・・」

「蛇?さあ・・・・僕は少し仮眠していただけだから分からないや」

「そうか」

(どうやら、隷属者にも効果は適用されるか)

「いや、すまない。吾ばかり杯を交えた罪滅ぼしだ。皆と飲んでくるといい。━━━━━家族総出で円卓を囲むのは実にいい物だと二十年前に知ったばかりだからな」


しばらくして。月将ムクと茶会を終えた後、明日の便箋師レトゥーは現在進行形で魔教人童謡説を書いていた。刻々としずかに未来のみを書いていた時。再び、魔教人童謡説に新たなる記述が浮かび上がる。それは未来を書き記すレトゥーですら待ち望まない二つの悪夢。一つは数億年ぶりにあの愛殺しの蛇が人前に姿を現したこと。そして二つ目はその狙われた相手がミウだったことだ。愛殺しの蛇はその名の通り、最も愛され最も愛を注がれたかのような美しい美しい薔薇を摘み取るような。人の愛を蝕む悪魔とも神とも違う。かといって天使やグレイ、その他の亜種とも一線を画した存在。戦闘力はないものの、どの種族よりも古の存在であり。愛を蝕む以外を通さない異質な存在。なので、もし仮に愛殺しの蛇に愛を蝕まれると弱い者なら首を吊り上げるか仮死状態。強い種族ですら疲労こんぱいとなり。戦いは愚か、まともに歩くことすらままならない程に異質極まりない存在。

討伐不可能、討伐困難。遭遇率皆無。全てが不明か不可能に及ぶ。だからこその神々、だからこその災厄、だからこその大天使。だからこその閻魔大王、だからこそのレッドライ騎士団、だからこその秩序の番人、だからこその童謡説加えて私。

それぞれが最強にして最悪。

これ程までの化け物達が喧嘩せずに保っていられるのは皆様の絆とバランスがあってこそ━━━━━━

それに。

「所々、見えにくくなっていますね・・・・」

魔教人童謡説に僅かながら干渉の懸念があった。まるで、そこにある事実を上書きしたかのように━━━━━

「・・・・・彼女、ムーン・ジャスティス・ミウには再び命運が課せられることでしょう。それを私自身が告げるのです。待っていてくださいね、ミウ。貴女には・・・・いいえ、この月夜に誓って貴女を・・・・・お守りします」


突然だが、ミウは再び例の場所をくぐり抜けて明日の便箋師レトゥーがいる図書室まで呼び出されていた。ここまで来て何もないはずがないし、ここ最近のミウは暗躍というか誰か問わず呼び出しを良く受ける。ミウ自身はもう慣れっこだがレトゥーはそうはいかない。魔教人童謡説を書き続けながらおもむろに一冊の本を魔力の力でミウに手渡す。

それは魔教人童謡説とも童漫とも違う古びた一冊の本で・・・・

題名に『アダムとイブ』と神話の物語が記されていた。

以前にもロックから聞いた話になるが、天使であるキー・ゴールドからも似たようなアプローチを受けたと聞いた時と同じくこの本を開くと同時に本の世界へ迷い込むだろう。

全ては分かった上で。ミウは何のためらいもなく本をめくった。


その世界は人類は愚か、生き物や文明も何もかも存在しないいわば世界の始まり━━━━━━その伝承は古く人類の最初の男女を文献にはこう記されていた。アダムとイブと。

『・・・・・・・・・』

アダムとイブは無論、何のとっぴおしもなく産まれて服は愚か。会話をする手段も持ち合わせてはいなかった。正確には自分という存在も含め何もかもが新鮮で名新しく、突然の出会いに戸惑いの方が強かった。

アダムは初めて女という生き物を知って。逆にイブは男という生き物を知った。まじまじと衣服を纏わない露わな状態で恥じらい気遣いそしてお互いの存在を気にかけた時━━━━━カサカサと茂みの方から近づく存在が一匹、ニコニコとした愛玩動物らしい小さな小さな蛇が二人に近づいた。

「やあ、初めまして。僕は蛇。愛殺しの蛇だよ宜しくね」

突然の声音にアダムとイブが戸惑う。何しろまだ。彼らはまだ会話をするというコミュニケーションの成り立ちをまだ知らないからだ。それを察してか、愛殺しの蛇は実に奇妙な含みのある笑みを浮かべながら舌を小刻みに動かした。すると愛殺しの蛇が舌を動かすほど、アダムとイブの口先が妙に回り出したかのような感覚に陥る。生命としての知識を筋肉を動かすことによって徐々に━━━━━━━

「あ、あなたは・・・・蛇?君は、男?」

「へ、びに。女・・・・・喋る?」

それから会話が流暢に話せるまで差ほど永くもなく、赤子が会話を習得するように二人は会話にのめり込んだ。

愛殺しの蛇がニヤリと笑うのを目もくれずに、二人の距離が近づいていった。


「ねえ、貴方は一体、どこから来たの?」

「分からないや。君はどこから?」

「さあ・・・・でも私たちその。名前、みたいなのが欲しいなって・・・・・・へん、かな?」

「いや、でもいいんじゃないかな?でも、僕らはそんなに器用じゃないし。ここは蛇さんに決めて貰おうよ」

「ええ~、僕なんかでいいの?君は良くても彼女は反対しないの?」

「ええ、二人がいいなら。決めてくれると、助かるわ・・・・」

「そっかー、じゃあ二人は今日からアダムとイブだね♪」

『アダムとイブ・・・・?』

「そう、彼がアダムで彼女がイブ。これから永らく語られる神秘の存在さ!」

「そう、なんだ・・・?嬉しい、かな?」

何だか、蛇さんの声音が怖く感じたもののその時のイブにはその意味を知るよしはなかった。


それからまた、時が流れた。まだ彼らには時間という概念はなかったものの。その時間の流れによって薄い衣一枚を羽織るようになったり。文字や会話、コミュニケーションも細かく読み取れるようになっていた。

だが、彼らにもまだ分からないことはあった。それはお互いに対する‘意識’のような甘くむず痒い妙な感覚だ。自分に対してもそうだが、小鳥や植物。蛇さんにも感じない特別な感情━━━━━アダムとイヴは自然と片を交えて唇を重ねる。息を吐くように唇と唇から離れても二人の惚けた顔は今にも交わるかという時。

愛殺しの蛇がニコニコと大げさに舌を鳴らして、二人を祝福した。


「おめでとう!ついに、ついに・・・・!?目覚めたんだね?永い永い、神話の訪れが!?!?さあ、今宵が人類の一頁となるのだ!!!!!!」

「蛇さん?それはどういう・・・・」

「・・・・一体、何を━━━」

「いいんだよ、いいんだよ。別に気にしなくても。僕は君たちを祝福したい。そのお礼に‘木の実’を取ってきたから・・・・・」

『木の実・・・・?』

「そう、アダムには‘悪魔グランの実’。イヴには‘大天使イヴの実’・・・・・さあ、食べて━━━━━」

純粋な二人。この時、恐怖という存在を少しでも知っていれば。後に二人は大きく後悔するとも知らずに・・・・・禁断の果実《パンドラの箱》を齧り。

瞬間、アダムとイヴが激しく呻き出した。ドクンドクンと何かが得体の知れない何かが自分が自分でなくなるような。アダムとイヴが永遠に会えなくなるような、そんな━━━━━━


「ふふ、はははははは・・・・・!??!?!?ついに!この時が来た!!世界は僕を中心に回り出した!?嗚呼、感じる。君たちの愛が!生き物の愛が!人類の愛と愛と愛が・・・・・僕を作り替えていく━━━━さあ、世界を始めようか・・・・」

愛殺しの蛇が凶器に狂いだすほど。愛という概念を吸い上げ、どんどん愛殺しの蛇の体積が増築される。

それと同時にアダムとイヴの存在も薄れていく。先ほどまでの楽園が崩壊し、無に帰る中で。アダムとイヴの体は自然と悪魔中層幹部グランと大天使イヴの現在の風貌へと変わっていく。最後の別れ、きっとこれが最後の別れ━━━━━二人はその瞬間を覚悟した。

世界が終わり、世界が始まるその瞬間。

二人は手を取り合い、キスをした。

先ほどまでとは違う味。嗚呼、それはお互いに涙しているからに違いない。そんな中でもアダムとイヴは・・・・・グランとイヴは最後まで笑って。



「次は君を狙うからね?ムーン・ジャスティス・ミウ━━━━━━」

最後の一頁に蛇の眼が映り込んで。本は閉ざされた。

本を読み終えて、しばらく立ち尽くす。手が震えて涙が本をびしょ濡れにするほど。ミウは泣き崩れた。

その悲しみが愛が痛くてもどかしくて。

ミウは沢山沢山泣いた。

明日の便箋師レトゥーも何も言わず、魔教人童謡説を綴りながら優しくミウを抱き寄せた。



            次へ



今宵はアンハッピー。

後のラスボス、愛殺しの蛇。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ