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寂れた裏道。犬の遠吠えと美しい星月夜に炎将レイは変換魔法によってただの木の棒を煙草に変えて、心のわだかまりを吐き出した。

だが炎将レイの瞳に炎はなく、純粋なる同胞達の姿を名もなき星々と重ね合わせていた。

そこには悪魔としてのせめてもの祈りであり案の定、隣には水将スーも弔いの涙を流していて・・・・・・

「ああ・・・・!何故、旅立つのです。サキ!貴女の蔑んだ眼はとても快感だったと言うのに・・・・その他の彼女達も先立ってまで私を蔑むのでしょう!?」

「・・・・ハアー、ったく。報われねぇな」

炎将レイの悩みの種は尽きそうにない。

だが、肝心の悪魔五天王は生存している。災厄様は人間サイドに堕ちてしまったものの、所詮は刹那の勝利に過ぎない。隷属相手が朽ちさえすれば災厄様は自ずと戻って来るだろう。その時こそが人類史最後の一ページとして魔教人童謡説に刻まれることだろう。


次に悪魔中層幹部のグラン。奴は悪魔の中でも最古の存在で、高い不死能力と貪欲なまでの野心家でもある。だからこそ、悪魔を統べる義務があってそれを成し遂げられる力があったからだ。いくら相手が大天使イヴであろうと奴が惨敗するのも気が引ける。

確かグランが王都を襲撃した時にも西部隊隊長ロック・サンダースと西部隊副隊長リンバラに敗戦をきしていた。

だが、グランはいつもあえて敵のるつぼにはまって殺しか処刑されるように仕向けて。悠々と蘇って見せることで魔の存在を示してきた。だが、この感触は・・・・・

「自然と手を抜いちまうとは。オメェこそ、人間のるつぼから抜け出せてねぇな━━━━━’アダムとイヴ’・・・・・・・」

レイはぼんやりと月に投げかけた。


例の場所━━━━━今でこそ、禍々しい力はないものの。そこはリークによって産み出された場所でもあり・・・・・リークは例の場所にて黙々と自分自身の過去を見ていた。生まれから幼少、果ては昨日までリークは静かに己の愚かさを嘆き無言で拳を握りしめた。何が間違いで何がリーク自身を追いやったか?最初から分かっていた。いや、逃げていたの方がしっくり来るかもしれない。リークは自分と向き合うのが怖かったのだ。本当の己を知って自分が自分でなくなることが何よりも怖くて・・・・・本当の悪魔にすがるほどちっぽけな存在だった。

けど、リークは過去を見た。ムーン・ジャスティス・ミウの全てを見た。彼女は確かに戦力的に見ても精神的に見ても幼い。だが、だからこそ恐れない。

幾度の枷、幾度の運命、幾度となく敵と対峙しようとも彼女は決して逃げなかった。影となる全ての存在を否定して、善も悪も彼女に触れてしまえば黒い影から光が差し込んでくる。

彼女は、ムーン・ジャスティスミウはきっと━━━━


「また、考えごとですか?」

「!何故、貴女が・・・・」

そこにいたのはミウでもなければ大天使イヴでもない。過去改変で生き延びたミウの実母にして南部隊隊長クイニー・ジャスティス・ミウであった。

クイニーは例の場所の扉を閉めると変換魔法によって空気を透明な椅子に変えてゆっくりとリークの隣に座った。さぞ驚いただろうとクイニーは察しつつもゆっくりと唇を動かす。

「娘から聞いています。貴方がどういった方で私達を救ってくれた経緯も全て━━━━━貴方のおかげだとミウがそう仰っていました。この度は、本当にありがとうございました・・・・!!」

「い、いや。頭をあげてくれ!?わしは何もしとらんよ!それにミウからはわしの方が沢山世話になったしの」

それにクイニーは少し可笑しそうに微笑みを浮かべて「貴方は本当にいい人ですね」と笑いがこらいきれないとばかりに言うのだからリークはますます訳が分からなくなった。だが、どこかリークの心にもきっと大きな炎が宿ったことだろう。月明かりの下、クイニーは内心ミウの本当の名前の由来を改めて実感したことだろう。

全てはここから始まった、と・・・・・・・



キー・ゴールドは悩んでいた。翼を広げて天高く街並みが消え失せるほど高くにある雲海へと月を眺めに・・・・・・彼女の首元に飾られた鈴は禍々しい波模様が深く刻まれてをり。その中には誰かの小指が入っている。何故かは知らないがそれはとても大切な生き別れの恋人の小指だと言う事実だけ━━━━━正直な所、何故それだけ覚えているのかキー・ゴールドにも分からない。けれどもキー・ゴールドはこうも思っていた。例えそれが同性や異業種、敵であったとしてもキー・ゴールドはその人に会ってみたいと願った。

だが所詮は単なる願い。呟きにもならない恋も簡単には叶わない・・・・・・そう思っていた。

「・・・・・!?」

刹那、辺り一面に白く月明かりに照らされ。翼の羽がまるで雨であるかのようにひらひらとゆっくりと舞い散って。月明かりの正面にキー・ゴールドと同じ魔教人の修道服を着た天使━━━━━━

「そう簡単に諦めるものではありません。夢は、叶えるものですから」 

謎の天使、エッグが姿を現した。


「今日は月が綺麗ですね?月将ムクが我々の再会を愛でていらっしゃるのでしょうか。いやさか、彼女も難儀な者です」

そんな事を言った天使の声音はまるで変声期でも当ててるかのようにぼんやりとした曖昧な声である。

しかもその風貌は男か女かさえ分からない。同じ修道服を着ているはずなのに、この天使からは大天使イヴ様や他の天使とも異なる異様な風貌を垣間見る。

そんなキー・ゴールドの思考を先読みしたかのように謎の天使が二ッと唇を歪ませて━━━━━━

「聞いたことはあるでしょう。二十年前、人々の争いを止め。魔教人の存在を広く知らしめた伝説上の天使の名を・・・・」

「!?まさか、大天使イヴ様をも上回ると言われている大天使エッグ様だと言うのですか・・・・!?」

「ふふ、そのまさかです。ですが今回は世間話をしに来たのではなく、一つだけ確認しに来たのです。貴女が持っている小指は私の小指かどうか・・・・」

すると大天使エッグはおもむろに片手を出してゆっくりと小指だけ消失した事実を見せつけ、それに重なるようにキー・ゴールドが持つ鈴が激しく反応した。

「やはり、そうでしたか。貴女はあの時のまま。‘私だけのエンジェル’だったのですね・・・・・」

そうおもむろにエッグが唸ると翼の羽を広げて姿を消した。その一瞬の出来事、あっけに取られながらもキー・ゴールドは遠くにある月を眺め。辺りに散った羽のひとひらをキー・ゴールドは強く抱き寄せた。



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