暗躍日報と死の弾丸
唐突に場面は必死に逃げ回る人型の悪魔から始まった。迫り来る死に自我も忘れ翼を広げる発想も無くして。不死である彼らですら感じる死が今━━━━━
「そこを曲がれ」
と宣告されただけ。普通ならば追っての戯れ言に耳は貸さないがその追っての言葉そのものが秩序なら話は変わって来る。死又はX、災厄の発言は死そのものだ。例え小さな一言でも歴史を歪ますほどの脅威と化す。なので、災厄が角を曲がれと言えば世界の秩序であり。追われていた悪魔の身体は強制的に曲がり角まで押しつけられた。
そしてそのままの体勢で災厄は悪魔の髪を鷲づかみにして、脅迫の念を押した。
「さて、君は誰に媚びているのかな?」
「い、言えるわけねぇだろ!?例え災厄様であろうとそれは━━━━━」
瞬間、悪魔の腸から赤い粘液が溢れる。一瞬の無に己の体内の一部が弾け飛ぶ痛み。そう、災厄はあえて殺さずに腸めがけて拳銃を引いた。
「言う気になったか?」
「こんな、ことで。言うああああああ!!!?」
「ふむ、股関節の引き金でさえ駄目か。並大抵の者ならばここで白旗なのだがな・・・・・」
「どん、ぁなしてぇ、も。吐くわけ、に・・・」
「言い忘れていたが、吾の拳銃は常に六発。最大限手加減がしやすいように相手をおちょくるための契りであり。その者は吾の望む通りの真実をも━━━━━」
「・・・・・ッ!ああ、あ。いやだ、言わない、私は。私は!五大悪魔にして三将の一人。水将スー様の従者ああああああああ・・・・!!!?」
残りの弾丸を容赦なく撃ち込んで、悪魔が消滅したのを確認し。災厄は右横を見ながら「だそうだ」と呟き代わりに災厄の顔から魂が入れ替わるかのようにウルフ・ジャスティス・ミウが姿を現した。
「こんなにも早かったなんて・・・・急いで全騎士団を集めないと・・・・!」
「そうだな」
ウルフと災厄は同じ身体を共有しつつも急いで北部隊へと走って行った。
同時刻、地上の遥か奥深くに比喩でもない正真正銘の地獄があった。赤い血の匂いはもはや空気であるかのように霧散してをり、針地獄はもはや鑑賞植物の扱いで。無論、罰を与えるのには適しているものの。やはり、地獄での労働がもはやそう認識させて終うくらいに狂っているのだ。それほどまでに地獄へ落とされた者は並大抵以上の罰を四六時中受けている。その中でも一番重い罪を受けている者が一人。元、悪魔中層幹部のグランだ。
グランは大天使イヴに敗北し、イヴの手によって地獄に堕とされた。だが、そこに憎悪はなく。自然と受け止めていた。
だからといってグランが受けている罪も楽じゃない。大きな石を背負わされ、鎖に繋がれて身体は血だらけである。
大きな石も只の大きな石ではなく。閻魔大王直々の魔力、【永遠万物】によって大きな石は惑星一つ分の重さがのしかかる呪いの力であり。鎖は故人から生きてる者全ての嫉妬が鎖にかけられる呪いで。軽く肉体の一つは簡単に焼けてしまうだろう。
その他にも心の痛みを煩う矢を千本打たれ続けるなど。地獄の罰としても群を抜いてる。
だが、グランは一向に折れる気配がない。
閻魔大王はそのグランという漢の覚悟を改めて問う。
「それでもか?それでも、奴を守れると・・・・・!?」
「・・・・・・・・・・・ッ」
グランは何も答えなかった。代わりにその目だけが全てを物語っているようでしかないと閻魔大王は内心愚痴ったのであった。
一方で。いそいそとペンを走らせる魔教人童謡説の産みの親である明日の便箋師レトゥーは現在進行形の形で魔教人童謡説に一秒ごとに起きる未来を記すことがレトゥーの仕事であり。ペンを止めた時こそがレトゥーの死を意味する。
そんな作業以外の些細な音しかしない図書室に似た地下深く、微弱ながらティーカップに入った紅茶が微かに揺れる。そして部屋の空気があたかも夜であるかのように部屋の灯火が消えて。代わりに大きな月がその場に現れた。それにレトゥーのペンが止まる。けれどもそれは一瞬の時にもならない一瞬の静止。
レトゥーが眉を引き上げ、ゆっくりと月を仰いだ。
「席に着いたらどうですか?もちろん、私以外誰もいないことは分かっているはずですが━━━━━」
「ふん、分かっている」
月からそんな声が聞こえたかと思えば。月の淡い光の粉が椅子に注がれて長髪の女性のシルエットがそこに現れた。月将ムク、未だに謎の多い悪魔の女である。
何故、月将ムクがここに来たかレトゥーには分からない。けれどもレトゥーとムクには明らかな認識の態度が見てとれた。
二人は無言で茶を啜り、改めてムクの方から会話が流れる。
「心配はない。この月が輝いている内はまだ、あの子に手出しはさせまい」
「貴女はその準備を今まで入念にしてきましたものね。貴女と貴女をそしてあの子の未来も━━━━━全ては・・・・・・」
━━━━━━ムーンライトの剣・・・・・・・
「それが、全てのカギですから・・・・・」
レトゥーとムクは静かに寡黙を貫いた。
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