北と南の誕生と宴
二十年前から帰還したミウ達を待っていたのはあたかも英雄を称えるパレードのようで。
赤いカーペットの地平線まで人々の拍手と歓声が大きく響き渡り、ミウ達は以前として戸惑ってしまう。はっきり言えば混乱していたに近い。
「帰って来たか、ミウよ」
「お、お義母さん・・・・!?」
そこにいたのは若かりしミッツではなく普段通りの凛々しいミッツ・ジャスティス・ミウであった。ミウ達の反応にもさも当然と言わんばかりにミッツが頷いて、変わりに一言。
「お主達は未来を変えたのじゃ。それも最も良い方向にな」
「で、でも。災厄の件は解決出来ませんでしたし。何よりも歴史を塗り替えてしまったのですから・・・・・」
リンバラがしゅんとうなだれるのをロックとミウがよしよしと頭を撫でてロックの手だけをポニーテールで払いのけてミウに甘えだすのをロックとリークがジト目になって睨み返す。
そんな光景に軽く咳払いした後、改めてミッツが高らかに宣言した。
「改めて問おう!我らが未来を過去を取り戻した英雄どもに謝辞の有らんことを!!」
ミッツの宣言に再び大きな喝采が湧いた。
開幕式を一時終えて。控え裏のテントにてミウ達は改めてことの経緯をミッツに聞いた。
まず、ミウ達が過去に跳んで間もなく。災厄の力が消えたことによって被害は押さえられたこと。
次に無慈悲な被害によって命を落とした人々、もしくはそれに値する暮らしをしてきた街人達への奇跡。
様々な悪意が薄れ、強制的に改善されたこと。
そして━━━━━それにあたり、ミウ達を帰還を待つと同時に新たに北と南におけるレッドライ騎士団の発足が掲げられたということだ。
新たな増援戦力が増えるに越したことはない。だが、今回の結果に大きく貢献したのが新たに発足された北部隊隊長と南部隊隊長とのことで━━━━━
ミウとリンバラ、ロック。それに今回の任務の立役者でもある秩序の番人リークにも挨拶がてら受章の場で是非とも顔を会わせて欲しいというが・・・・・
「顔会わせくらいならここでもできるんじゃないか?」とミッツに問い質してもミッツは「だからこそのサプライズじゃ♪」とそそのかされるばかりで。
一応はここまで祝ってもらって、みんなが無事で笑顔でいてくれるならとミウ達は改めて身なりを整えて。一歩ずつ、式典に登る。
東と西、二つの部隊の名誉をながらかに称えられ。
そして新たに発足された北と南部隊の首相が近づく。
近づくに連れてその顔立ちが露になった瞬間━━━━━
「北部隊隊長、ウルフ・ジャスティス・ミウ!南部隊隊長、クイニー・ジャスティス・ミウ!前へ!」
意外な二人の顔ぶれが式典に並んだ。
式典を終えて。意外な組み合わせが騎士団に加わる事に対し、驚きもあったが。どこか腑に落ちる節もあり・・・・ミッツがあからさまに関与する事も二十年前、過去を変えたことにより。本来接点を持つはずのない三人が何かしらの協力を得て街の治安を改善したのだろう。それに━━━━━ウルフもミウ達と同じジャスティス・ミウと名乗ることからウルフも恐らくは義理の兄に当たるのであって。ウルフは災厄をコントロールして歴史を大いに改善されたとも考えられるのだが・・・・・その場にはとある四名が重々しい空気を抱えて。互いに顔を背ける実父エターナル・ジャスティス・ミウと娘のミウ。そして顔合わせの体勢で義母であるミッツ・ジャスティス・ミウと実母であるクイニー・ジャスティス・ミウが目元から火花をちらつかせて顔こそ笑ってはいるものの、滲み出るオーラに圧を感じエターナルの背丈がどんどん小さくなるように感じられた。
だがそれは歴史の綾であって。別にエターナルがやましいことをした、ではないのだが・・・・・そう簡単に割り切れないのが人間の綾でもあり・・・・・二人の母親からでた第一声が『この女誰?』だったのは偶然にしろ、背筋が凍ったものだ。
そんな緊急家族会議の一例がそれである。
「確かにミウを授け育むことで、ミウは立派に育った。じゃが、それは‘亡き母’が最初にそうしただけであり。そこから二十年、エターナルとミウを献身的に支えたのは紛れもないわらはじゃ。亡き人が地獄の底から蘇ったところで、何ができるのやら・・・・ホホホッ」
「あらあら、血の繋がりも無い自称義理の赤の他人さんが何を言うかと思えば。ロクな愛情表情も出来ないでよく母親が務まりますねぇ~。ふふふ」
『・・・・・ふふふホホホ』
「あ、あの。違うんだ、これはその、不倫とかやましいことをした訳じゃなくてだな・・・・勿論、二人のことは愛してもいるし━━━━━」
『私とわらわどっちが大切なの、なのじゃ!?』
「す、すみません・・・・・」
「あ、あの。ミッツお母さんもクイニーお母さんも落ち着いて!?これにはパパにも色々あって・・・・・!?」
と言う感じに一時はピークにもなってはいたが。間合いを挟んで。双方、クイニーもミッツも息を合わせて互いに笑いだした。
聞けば、過去を変えたことにより。エターナルの知らない間に双方仲良くなったようで。ミウが帰ってくるのも踏まえてエターナルに日頃の鬱憤を交えながら小芝居を打ったようで。
安心したような傷ついたような・・・・
そんな消失感の元、今度は二人の会話からウルフの名前が飛び交い。再びミウの心構えが試された。案の定、ウルフはミウ達とは義理の関係になるそうで。過去の流れから北と南のレッドライ騎士団の建設に関与したらしく。例の死又はX━━━━災厄も未だに彼に隷属してるらしく。ウルフの初仕事の任務を待ちながら、数刻の式典以来の再開となるウルフジャスティス・ミウが礼節をわきまえた清く正しい姿勢のまま席に入った。
最初こそ、真面目で清らかな青年であったが。災厄の話が真っ先に来ることを踏んでいたのか。ウルフは「どうぞ会ってみて下さい」と告げた瞬間━━━━━
双方、己の心臓が締め付けられたかのような嫌な感触とウルフから突如として現れた死を思わせる程の魔力。顔を上げるとその顔はウルフではなかった。どこか中性的で尖った顔付の赤髪。
「永い、永い眠りだった・・・・・災厄な日を二十年前の眼に焼き付けたばかりだと言うのに━━━━━」
文字通り、災厄は自我を以てミウ達と言葉を交えた。
「・・・・・っ、確認するまでもないですね。死又はX、災厄」
ミウの問いに災厄は否定するでもなく、「ああ」とだけ短く呟いた。無論、クイニーやミッツは黙認する形で腕を組んでいて。逆にエターナルは災厄に隷属させられているウルフの心身を気にしていたが━━━━━
災厄は改めて皆が思っているであろう疑念をかいつまんで説明してくれた。
「まず、吾が何故二十年前に跳んだかは手下であり元隷属相手でもあるグランが原因でもあるが・・・・吾が今、隷属しているウルフもそうだが。吾はその強い志を好む。そこにある心根が強ければ強いほど吾の魂はランダムに根ずく。それが不幸か否か、こちら側についてしまうとはな・・・・・」
災厄の言動にミウはまるで違和感を感じた。諸悪の根元である悪魔のラスボスがあたかも味方になったという言い分がどうにも信じられない。
しかも災厄ははっきりとした自我を持っている。
それならば独立して隷属主を離れることだって可能なはず・・・・・・それにその正義感は一体━━━━━
「勘違いしないでほしいが。吾は最初から世界を屠ろうなどとは一度足りとも思わなかったぞ」
「え、」
「ミウ、お前には言っていないが。吾は単純に性を授かった時から自我を‘持たされなかった’・・・・・それがどういう風の吹きまわしか。そう言い伝えられた━━━結論から言えば魔教人童謡説や真実、閻魔大王に変換魔法・・・・本来あるはずないの力と力が地震の余波を防ぐように。‘あの蛇’の手のひらだったという訳だ」
「・・・・つまりはそう言うことじゃ、ミウ。この結果はわらわ達が思い望んだ結果に等しい。大天使イヴ様の宣告通り、災厄が着いた・・・・それだけでも世界は百辺以上救われたことじゃろう」
ミッツの言葉に賛同しつつも実母クイニーが天使という言葉にふとした記憶が過った。
「天使、という言葉で思い出したんだけど。ウルフが貴方を宿どした日に天使みたいな魔教人の男か女の人が何かを言ったのを私、見たの!あの人は一体。ウルフと貴方に何を言ったの?」
クイニーの真剣な眼差しにウルフに隷属する災厄は一息入れた後。「洗礼だよ」と災厄は短く答えて、それ以降四名の会話は唐突に途切れ。タイミングを見計らったかのように災厄からウルフの魂が産声を上げた。
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