災厄な出会い
鼓動が走る。ミウ達はウルフの後を追う形で二十年前のあの忌まわしき現場へと近づいていく。
キー・ゴールドから貰った記憶ではあそこにはミウ達家族だけではなく。悪魔やグレイ、二十年後のリークの怨念となった神。黒竜もいるのだ。
果たして、こんな巡り合わせがあって良いものか?皮肉が皮肉なだけに喉からは愚弄する言葉も出ない。だが━━━━
「ッハ!?クイニーおばさん!?エターナルおじさん・・・・!?」
突如として空の色彩が火花を纏った緋色と化していた。遠くからは男の嘆き声と何かが切り裂かれていくような嫌な音と。
「黒竜・・・!」
リークの小言が神の名を呟いた瞬間、全てが終わっていた。目の前にいた神も悪魔もグレイも全てが切り裂かれて代わりに一つの家族だけ取り残されて。歴史はいかにしても動かない・・・・はず、だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、ああ、嗚呼!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・!!!?!!!?」
突如として少年ウルフが嘆いた。無理は無いことだ。だが、今彼の心臓はここにいる誰よりも災厄で・・・・・嘆き声が化け物のそれに当たり。
例えば、今あったであろう過去をなかったことにすることも・・・・・・
時間が強制的に戻されていく。ミウ達は様々な加護を受けていたからか、客観的にその事実と相対する形である。
戻されていく時間の中で徐々にミウ達家族の表情が和らぎ。敵である悪魔やグレイ、黒竜を捕らえた瞬間━━━━━
「死ね・・・・!!」
あっけなく。それはあっけなく死んでいき、あたかも空気の如く蒸発していなくなった。
『・・・・・』
現場が凍りつく。災厄にして災厄な日に災厄を持って歴史は塗り替えられた。良くも悪くもミウ達家族を生き返らす形で━━━━━
「なんじゃ、生憎客人がであわせておったか」
「・・・え?」
二十年後から来たミウは突然現れた声にまたしても驚いた。その人物は今、未来で父さんと共に街を守っているはず・・・・・
「自己紹介がまだじゃったな。わらわは本日を持って上位裁判官に任命されこの地に派遣されたミッツじゃ。以後、よろしゅうな」
そこにいたミッツは未来から来たミッツ・ジャスティス・ミウではなく。二十年前のミッツその人であった。
「まさか、こんなにもお客さんが来るなんて・・・・ミウたっら。誰に似たんでしょうね~」
と本来であればここに存在しないクイニーが皆を見るなり丁重にもてなしつつ紅茶の香りが広がって。
背中で赤子のミウをあやし、それを微笑ましく見守るエターナル。本来あるありふれた日常、だがそれはあってはいけないこと。
故にその円卓には三人を除いて危険な三組が同じを茶を啜っているという事実。まず一組目はミウ達。只でさえミウ達は未来から来た存在なのに対してミウの生前の過去を大きく変えてしまったのだ。
ミウからしても二人の幸せそうな笑顔が何よりも悲しくて今にも泣き出して二人を抱き締めたかった。
赤子であるミウ自身も含めて━━━━━━
二組目はミッツ・ジャスティス・ミウ。
二十年前の彼女がジャスティス・ミウと名乗らないのも本来はクイニーが失くなった直後にミウ達と出会いそこからミッツがミウの親代わりとして見守っていたからだ。だが、結果的にクイニーは生きていて、敵も消滅した直後に出くわしたことにより。さらなるもつれを生んでしまった。
そして━━━━━━
「クイニーおばさん!はい、クッキー!家で作ったんだ~!食べてー」
三組目、ミウの義理の兄に当たる(おそらく)ウルフがこのもつれた円卓の原因でもあった。
先ほどウルフは無自覚によって災厄の力を駆使し、歴史を塗り替えた。本来ならば災厄を阻止するのが最優先。だが、結果的には大きなもつれが強引な形で形成され今に至る・・・・・
ロック達はミウには内緒で各々、内部通信にて。
━━━━修羅場、だと・・・・・・・・
ひしひしとロックとリンバラ、リークまでもが胃を痛めて疲れたと落胆したのだった。
各々が茶を啜り終えた所で。各自、自己紹介がてらに会話を弾ませて。改めて信頼に値すると何故だか分からないが、そう確信した時。ミッツがふと話を切り出した。
「ふむ。つかぬ所、お聞きするのじゃが。ここら一帯は危険地帯じゃと風の噂で聞いたが・・・・お主らは怪我などはしておらぬか?」
その受け答えに今度は若かりしエターナルが受け答えた。
「簡単な話ですよ。今は冷戦状態になっているだけ。勿論、我々東部隊と西部隊が全力を持ってお守りしますが。結果的にはこの争いは今日中にでも解決すると見られています」
「ほう?一体、どうしてじゃ?」
「それは━━━━━」
エターナルが答えようとした時。ガランと何かが割れる音がした。どうやら少年ウルフがティーカップを割ってしまったようだ。それに対してクイニーは「仕方ないわね」とカップの破片と紅茶を拭いながらウルフに怪我がないか実に心配そうに口元を拭っていた。
その様子はまるで家族そのもので。
クイニーの背中に抱かれた赤子であるミウも実に嬉しいと言わんばかりに笑っていた。
その様子を自然と眺めるミッツとエターナル。
二人もどこか。夫婦に似た微笑ましい表情で顔が緩みきっていて。ふと、視界に入ったミウ達一行に目が止まる。服装や匂い、表情に感覚・・・・どれもがありふれた住人のそれ。だが、何かが違っていた。
確かに一見すれば何も違和感がない。いや、違和感が‘無さすぎる’。まるで真新しい何かを隠すため、息を殺しているような・・・・・・
『・・・・・』
ミッツの視線に流石に皆も気づいていたようだ。
だが、それは事前に考えられる想定内のこと。強いて言えば━━━━━
「━━━━━━」
ミウの強靭的なまでの精神力が覚悟がひしひしと東部隊隊長としての国旗を背中に記すが如く。
誰よりもミウは美しかった。
楽しげな団欒後、少年ウルフは夜に様変わりした星空を見ていた。呆然ときらきらと瞳を輝かせ、少年ウルフの心臓がどくんと強く跳ねた。
少年ウルフは子供ながらに己の心臓が‘何か違う’と感じた。いつもとは違う純粋で真っ直ぐな気持ちはなく。只、燃え盛る街並みはこの星空よりも綺麗だなと思った瞬間━━━━━━
「え?」
本当に燃えていた。人も街も何もかもが突然・・・・・それにあわせてミウ達も駆けつける。急いでクイニー達は逃げ帰り。ミウ達は街人の争いや火災を止めるべく緋色の海に飛び込んで━━━━━違う、違う、違う!!何もかもが違う!!
何でこうなった?どうしてそう思った?何もしていないし、何も言っていないのにどうしてこの‘心臓だけ’が嬉しそうなんだ!?どうして・・・・・・・
「誰か・・・・助け━━━━」
「人々の争いは血を塗り替えたとしても血を塗り替え。いくら過去を変えようともいくら力があろうも。いくら天才達が力を合わせ協力しようとも。争いの歴史だけは直せない・・・・ですよね?災厄、いや。ウルフくん?」
突如としてそんな声が聞こえたかと思えば。その人は
大地に水を垂らして血が洗われ青い空が光を差す。
鳩達と緑が踊りを為すように人々の手からは殺意は薄れ、その魔教人の修道服を着たその人は争いを辞め互いに手を取り合い、そして魔教人達の理解を求め。
人々は手を取り合った━━━━━
「あなたは?」
「わたくしはエッグ。魔教人の始祖。それ以外ありえません」
「エッグ・・・・エッグ様!」
突如として少年ウルフが膝を着いた。それはさながら神に洗礼を受けるかのように。ウルフの心臓が強く木霊した。
それにエッグと呼ばれた男か女か分からない魔教人の始祖は何も言わず手を翳し。そのまま翼を生やして空へと飛んで行った。その背後にはもう一人・・・・
「・・・・いくよ、エッグ」
若かりし今よりも髪が短いキー・ゴールドがいた。
ミウ達はエターナルやミッツ、クイニーそしてウルフを残して例の場所を通して帰還することになった。
無論、任務は失敗。一度帰還してもう一度タイミングを計って過去へ跳ぶことにした。
例の場所をくぐり抜け。豹変した街並みを覚悟していた。が。
『・・・・へ?』
悲惨な街並みの代わりに盛大に何かの式典の開幕式がミウ達を出迎えたのだった。
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