事故の謎
一つ 課せられた貫き
中世、そういった使い古された言葉がこの町にはよく似合う。
なぜならばここは中世であり、馬車の小汚い土煙や土煉瓦の家並みに貴族の民に対する薄笑い。
どれもが中世という言葉に当てはまり‘ある事以外’は当たり前だった。
馬車の縄が解け、言うまでも無く馬は薄笑いを浮かべた貴族にバッとのし掛かろうと・・・・・・
が、馬に何かが働いた。
言うならば操り主という何かに取り憑かれたように馬は泡喰った顔から落ち着きを取り戻した。
腰を抜かして倒れ込む貴族は一瞬頭の巡りが混同したが、すぐに
彼らを見て顔をぐちゃぐちゃにした。
「お怪我はありませんね?リーク様」
「触るな!この、汚れた魔教人が・・・・!」
魔教人。それは魔女に救いを差し伸べる者のこと。
中世の人々は魔女という異なる存在に抗い、欲し、そして恐れた。
だからこそ、魔女に魔法に殺しを求めた。
何度も何度も殺して町中が赤い赤い町並みと化した時、人々は己すら殺し始めたのである。
戦争。
10年というさらなる赤みを増してついに殺し合う者すら居なくなろうとした時、水が、落とされた。
瞬間、血塗られた戦場に緑が生え、小鳥が鳴き、青い空がひろがった。
人々は静まり返る。
その中央に光の如く空から舞い降りた紫を貴重とした修道服の
彼らは高らかに静かに問うた。
今から殺傷を禁じ、平和な世を築くと。
それから数十年。人々は魔法を共にし、魔教人を大いなる者として向かい入れたのだ。
だが。
貴族や政府というのは受け入れてはくれなかった。
戦争から救ってくれたこと、平和という概念を民に植え付けて我々をよく見せてくれる。
だからこそ、我々政府貴族は彼らを憎むのだ。
最初はこの戦争自体が魔教人の企てでは?と策を回したが、やはり何の手がかりも無く我々は顔面が真っ赤になるまで地面を殴ったものだ。
だからこそ、‘彼ら’を加えることを条件に魔教人を向かい入れてやったのさ。
「魔教人殿、現状はどうでしょう?」
銀色に靡く淡い紫を交えた長い髪に、凛とした表情と口調。
スッとした体軀に騎士団の制服が東部隊隊長の現れが見て取れた。
ムーン・ジャスティス・ミウ
二十代半ばの女隊長である。
ミウは表向き魔教人に敬意を示しているが、実はミウの母親は魔女狩りの冤罪をかけられ━━━━━灰になった。
つまりは政府と貴族側の者なのだ。
彼女だけではない。
周りにいる騎士団員全員がその類いを受けている。
つまりはこの騎士団は表向きは魔教人を支えるが、少しでも裏を見せれば次は彼らが真っ赤なカスになるであろう。
「どうもすみませんね。‘レッドライ《真っ赤な嘘》騎士団様’」
貴族のリークが小汚い笑みを浮かべた。
それに快く返事をしながら、ミウは魔教人に詳しく現状を聞いてみた。魔教人は我々以外に魔力を持っている者の仕業では?と言うのだが、ここ最近、このようなケースが頻繁に起きている。
それも政治家や貴族ばかりを狙って・・・・・
「魔女だ!魔女が我々に復讐しに来たのだ!だから狙われるのだ。手っ取り早く魔女達の首根っこを取りに行け!」
それに魔教人━━━━━リーダーであろう男がすぐに意見を述べた。
「いえ、それはあり得ません。今や魔女達の魔力は標準以下ですし。仮に紛争を起こそう物ならば‘共鳴魔法’によって阻止されます。それはもちろんレッドライ騎士団、政府や貴族、我々にも施されています。つまり、これは外部の犯行だと考えるのが自然なのです」
「ふ~ん」
リークは苦い顔をしながら考える素振りを見せた。
だが、その瞳の奥にはまじまじとした殺意が垣間見えるようである。
一方のミウも少し悩ましいようだが、すぐに東部隊隊長としとの
対応を見せた。
「とにかく、今は現状を報告するのが先です。リーク様も騎士団にお越し下さい。念のため、ある程度の手当ても致しますので」
「しっかし、最近妙だと思わねぇか?」
事件が起きてからほんの数分。
レッドライ騎士団の若手騎士二人が現場から離れながら話していた。歩くたびに民や馬車に聞こえるくらいの声で話す二人は少々詰めが甘いというか、未熟な節があった。
二人は共鳴魔法を欺く魔法を魔教人が使ったとか、あの小賢しい貴族のリークの自作自演ではないかと意見を交わすが、二人は気づいていなかった。いや、この街の者全てが気づいていなかった。街角の隙間から魔教人の修道服を着た僅かに見える金髪碧眼の女は‘黄金色の渦巻き模様が入った鈴’を撫でながら、小さく微笑んだ。
騎士団の取調室で、手当てを受けたリークはイライラと爪楊枝に似た棒で歯を弄り倒している。
騎士団の男が事細やかに質問するも、リークは「知るか!」と机を叩き上げ騎士団の男の襟元を掴み出したので他の騎士団員がリークをなだめる始末。一行に進みそうに無い。
「どう致しましょうか?ジャスティス隊長」
「そうね。リーク様はそちらで任せるとして、他の被害はどうなっているの?」
ミウの受け答えに騎士団員が分厚い資料をめくる。
「はい。先ほども似たような事件が2、3件多発しております。尚、事件の被害者加害者に怪我はありません」
「よろしい。引き続き調査して頂戴」
「はっ!」
「やはり、例の‘アレ’が関わっているのかしら。だとしたら騎士団もタダじゃすまないわね」
ミウはひたすらにその先にある夜を待つばかりである。
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