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魔教人童謡説

ミウは仕事終わりの昼休みに本を読んでいた。東部隊本拠地レッドライ騎士団の図書館で普段は読む気もしない魔教人童謡説を手に一ページ一ページ、丁寧に巡り。再びミウは唖然と目を見開いた。

「まさか、ここまで詳細に載っているなんて・・・・・」

童謡説の記述にはこれまでの人類━━━━もとい、ミウ達の行動の全てが文字として浮かび上がるのだ。

例えばリンバラの情報を得たいと思えばリンバラの情報が。父親の情報を浮かべれば父親の情報・・・・・と。一秒ごとの未来が現在進行形で記されていく怖さがミウを更にぞっとさせた。

けれども、実に不思議だなとミウは頭を傾げた。勿論、この魔教人童謡説の力は驚きしかない。

だが、このおぞましい権能を誰一人疑問も持たずに仕様することが。

リンバラやロックが違和感を感じたことで初めてこの本の脅威を知った。だが、

何故リンバラやロックはその違和感に気づいたのだろう?

そんな思考の最中━━━━


「!?例の、場所・・・?」

突然、目の前に見覚えのある透明な扉があった。今まであの中で何度も何度も死闘を繰り広げた戦場にして元貴族のリークの怨念によって生まれた忌まわしき場所。だが、ミウに逃げるという選択肢はなかった。唾をごくりと飲み干して意を決してドアノブを開いた。

「え?」

「よっ、ミウちゃん。久しぶり~!グレイや未来神と戦って以来~?」

屈託のない笑みで天使キー・ゴールドが歓迎の鈴を鳴らした。


「キー・ゴールドさん、ここにある例の場所はあなたが呼び出したんですか?」

「う~ん。正確には違うかな。この例の場所は知っての通り死への迷宮、元貴族のリークの怨念によって生みだされた場所・・・・だから。この例の場所の所有権はリークを隔離している悪魔達にある」

「だったら・・・・・」

「うん、今回は事情が事情でね。今だけ例の場所の所有権を私キー・ゴールドに一時的に‘ねじ曲げて貰った’のさ」

「ん?ねじ曲げ、る?それにどうやって━━━━━」

「あー!話は後。とにかくここまでしてミウちゃんに来て貰ったのは会ってほしい人がいてさ。ほら、例の場所に変な彫刻あったでしょ?あれが実は裏口で・・・・つまり!善は急げ。入った入った!」

「あわわっ!?」

キー・ゴールドに押される形でミウは強引に例の場所へ引きずり込まれた。言われるがまま天秤を掲げた像まで近寄ると確かに前まではなかった階段がひっそりと顔を覗かせている。

「頼んだよ、ミウちゃん」

「・・・・わかりました。何かいたら恨みますからね?」


しばらくして。ミウが階段へ消えてしばらく経った頃。

キー・ゴールドは猛烈な脱力感と共に膝を着いた。

何故だかはわからない。けれども身体が震え雷にでも撃たれたように心が傷んだ。天使として産まれてからキー・ゴールドには以前の記憶がない。けれどもこの胸元のある鈴を鳴らした時だけ心が潤い、涙が溢れる。

断片的な記憶だが、この鈴の中には人間の小指が入っている。

勿論、普通そのような気味の悪い品を誰が持ちたがるか。

けれどもこの指は只の小指ではない。

今は亡き忘れた‘恋人の小指’なのだから・・・・・



例の場所の真下にある階段を下って。ミウは意を決して扉を開いた。そこは図書室のような部屋だった。至るところに本本本・・・・・一生費やしてもミウには到底読めそうにないほどに量も題名の内容も濃いものばかりである。

その中央に、恐らくキー・ゴールドが言っていた人物━━━━

見た目からしてかなりの美人であり。長髪の髪はどこかエルフ族をも連想させ。両目を閉じてこくりこくりと独り言を続けながら片手ではまるで機械のような速さで本に文字を書いている。

「あ、あの・・・・・」

「あなたがミウさんですね?」

突然、言葉を遮られたことでミウの口から消化仕切れなかった言葉がゴニョゴニョと暴れだして思わずむせてしまう。

けれどもこの人は体勢を崩さずに言葉だけが動いている。

「どうやら間違いないようですね。ごめんなさいね?私はこの本を‘書き続けないといけない’から・・・・」

「それって━━━━」

「紹介がまだでしたね。明日の便箋師ことレトゥーと申します。━━━━━あなた方が手に取る魔教人童謡説を書き続けているのは今も尚。私自身です」



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